第5話 サークル後の模擬デート?
次の日。
昨日のように基礎練をして、2on2をして、明日の練習試合に備えた。
「じゃあ、今日はこれで終わり。お疲れ様っ!!」
「「「お疲れ様でした!!」」」
昼間、やっと練習を終え、帰ることができる時間になった。
いつものように校門を出て、四人で帰るかと思いきや……。
「じゃ、俺らは行くわ」
巧輝が私の手を取って、悠花とみーちゃんとは反対方向を向いた。
……え⁉
「は~い。楽しんで来てね!」
「デート、思い出にしな!」
え? デート?
いやいや、聞いてないって!
デート? 私は別に巧輝に恋心を持っているわけではないと思うから、巧輝が私のことを好き……ってこと?
……いや、ないない。
「今日は前から言ってた通り、まず海に行くからバス乗るぞ」
巧輝がそう言い、私の指に自分の指を絡ませる。
は? 恋人繋ぎしてる?
さっきから意味不明な行動しかしない巧輝を見上げて、問いかける。
「巧輝……どうしたの?」
「ん? どうもしてないよ」
どうやら、嘘をついている様子ではなさそう。
よく分からないけれど、これ以上巧輝を疑うわけにもいかないから引き下がる。
っていうか、みーちゃんと悠花が揃って知っていたってことはこのデートはみんなの了承済みだったってこと……?
よく分からないけど……遊べるんだよね?
ならいっか。
「飛鳥、なんかあったら言えよ?」
バス停について上の空にしていた私を見て、巧輝がそう言った。
巧輝って優しいんだな——。
そのイケボにドキッとしてしまった自分がいたのは気のせいだろうか。
「うん。ありがとう!」
「あぁくそっ、超可愛い……」
私が返事をしただけなのに、巧輝は顔を手で覆い、そう呟いた。小さな声なのにはっきりと聞こえてしまった。
目の前の道路を大きなトラックが通り過ぎていく。
聞きたいことは山ほどあったけど……全部飲み込まなきゃいけない。
何かあれば、みーちゃんに言えばどうにかなるはずだ。みーちゃんと二人きりになるその時を待つしかない。
「あっ、来た!」
そう言って話を逸らす。私は遠くからこちらへ向かってくるバスを見て言った。バスの前方には「類田浜行き」と書いてある。類田浜は、類田市の数少ない観光名所である。
前からそこに行く予定だったのかな?
「ICカードちゃんと持ってるよな?」
私の顔を覗き込んで聞いてくる巧輝。
私はドキッとした。
……え? ドキッとした……? なんで⁉ 別に未来の私の好きな人でもないのに。
——あれ?
いつ、『巧輝は好きな人ではない』って未来の私が言ってたっけ。
言ってないよね。
その可能性だってあり
でも、もしそうだったら……。
——『お恥ずかしながら、彼氏です。』
未来の私が書き記した彼氏。
もし巧輝が彼氏じゃなければ、私は浮気していることになる。未来の私はそんな事しないと信じている。
だったら……巧輝の可能性が非常に高いんだ。
それって、いつか巧輝が津波で亡くなっちゃうって、そういうこと……?
いやいや、そんなわけない。よりによって巧輝が彼氏なわけないよね。これだけ仲が良くて平和なこの世界で、津波に飲み込まれるなんてことないよね?
繋いでいる手を見つめる。暖かくて、大きくて、安心感のあるその手が、私の手を握っている。
もし巧輝が私の彼氏だったとしたら、この手はもう少しで
いや……そんなの信じない。せっかく自然に話せるようになったのに、巧輝が亡くなるなんてそんな悲劇あるわけない。
だけど、もし未来の私が巧輝のことが好きだったら巧輝は私の彼氏で、その彼氏はもう少しで死んじゃうんだとしたら——。
「……か。飛鳥!!」
巧輝の切羽詰まった声で、我に返った。
目の前にはすでにバスが停まっている。運転手さんが窓から身を乗り出してこちらを見ている。
この2030年の世界は、車は左側通行のままなのに左ハンドルなんだな。
そんなことを頭の隅で考えていた自分を恨む。巧輝が真剣に心配してくれているのに。
「……ごめん、巧輝」
「どうした? 体調悪いか……? 家まで送るぞ」
そんなわけにはいかない。
せっかく前から考えてくれていたデートを、私の精神状態だけで中止になんかしたくない。
「大丈夫だよ! 気にしないで……!」
私はできるだけの精一杯の笑顔を作って、そう言った。
「ならいいけど……無理すんなよ?」
「うんっ!」
元気よく頷いたら引き下がってくれたらしい。
「遅れてすみません、乗ります」と言いながら巧輝は私の手を引いてバスに乗り込んだ。
後ろの方の二人席に座って、荷物を置く。
「類田浜まで、四十分もあるんだな」
比較的のんびり走るバスだから、所要時間も長いらしい。
その言葉を聞くと、ここ最近の疲れがどっと押し寄せて、睡魔が私を襲う。
「ふわぁ……」
あれ、あくび声に出ちゃった?
心配したけれど、声に出していたのは巧輝の方だった。眠そうな目をこすっている。
「巧輝、寝不足?」
そう聞くと、外を見つめたまま巧輝がこくりと頷いた。
「誕生日プレゼントにバスケゴールもらったって言っただろ? 毎日深夜にあれで練習してるから、寝る時間が少なくて」
そういえば、巧輝の誕生日っていつなんだろう。まだ会って日は経っていないにしろ、少し罪悪感が込み上げる。
「そうなんだ……ちゃんと寝た方がいいよ? 類田浜まで時間あるし、少しでも寝たら……?」
少し本音が出てしまった。
巧輝の寝顔を見てみたいと思ってしまったことは、誰にも内緒だ。
「……ん。ありがと」
巧輝は外から視線を戻してそう言うと、そんな可愛いことを言いながら私の肩に頭を預ける。
右肩に巧輝の重みを感じた。
相当眠かったんだろう。数秒もしないうちに隣から寝息が聞こえてきた。
バレないようにそうっと覗き込む。目を閉じている巧輝の顔は幼くて、それでいて可愛く見えた。
その安心さにもう一度睡魔に襲われた私が眠ってしまい、運転手さんに二人とも起こされたのはもうちょっと後の話。
次の更新予定
美しい天気雨の中で、私は何度でも恋をする。 こよい はるか @attihotti
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