第3話 バスケサークルの人間関係
昨日はきちんと眠れた。家に人がいないというのに、私にしては上出来だったと思う。
元の世界の私だったら、きっと怖くてずっと目をかっぴらいて、閉じる事さえなかったと思う。
でも、恐怖心が無くなったわけではなかった。
今も、足が震えている。
今日もスマホのメモ帳を愛用し、大学への道を歩く。大学の名前が書かれていたから、マップで調べて探し出すことができた。
バスケのサークルがある大学なんて少ないらしかったけれど、私が悠花と必死に探していたらちょうど一番近くの類大にリーフができたらしい。創設者はみーちゃんだ。
全て、メモ帳の情報。頼りになる。
未来の私に感謝した。
歩いて行ける距離の大学なんて、こんな幸せなことがあっていいのだろうか。なかには往復3時間かかる人もいるらしいのに。
すると、
「わっ!」
「ひゃっ!」
後ろから誰かが背中を押してきた。
驚きすぎて叫び、足を止める。
ゆっくりと振り返ると、そこには見慣れた顔。
「どうしたの飛鳥、いつもよりリアクション良いじゃん」
——悠花だ。
「悠花っ!!」
思わず抱き着いてしまった。私より断然、背が高くなっている。
見上げる姿勢になり、ばちっと悠花と目が合う。
「おぅっ、急にどうしたっ? なんかあった?」
「ううん。……大丈夫!」
少なくとも、今話す時ではない。それだけは分かった。
「それならいいや。じゃ、
悠花はそうして私たちの大学の名を口にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大学に着いた。
校門さえも幅が広い。なんと、校門も10個以上あるんだとか。
「今日も寒いな~。早くバス
「なんで?」
口をついて出てきてしまった疑問に、あとから後悔する。
こんなことを言っても悠花を困らせるだけだし、今はバレたくないのに。
でも、悠花の優しさは相変わらず本物だった。
「バスケ用の体育館、通称バス体は暖房ついてるからね~。もちろん冷房も完備だけど! やっぱり飛鳥、なんかあったでしょ? 体調悪い?」
きっと私の対応を不自然に思っているんだろうけど、深く追求してこない悠花。
そういうところ、本当に優しいなぁとつくづく思う。
「ううん。大丈夫だよ! 心配してくれてありがとう」
「いや~、もう可愛いなぁ!」
心配そうな顔をしながらも、納得して私の頭を掻きまわしてくれる悠花。
なんか……性格変わった?
「あっ、着いた!」
悠花が声を上げたのは、ここから見て外壁すべてが見渡せるのか不安になるほど大きい体育館の前。
これがバス体……? 大きすぎない⁉
「お願いします!!」
悠花が大声を上げた。
やっぱり、中学生の部活から変わっていない。体育館に入る時は大きく挨拶をするのだ。
「お願いしますっ!」
中では、すでに二人が練習をしている。バス体が大きすぎて、その人たちが豆粒みたいだ。いや、米粒くらい? うーん、スマホぐらいかな。
「飛鳥、悠花、おはよう~~~!!!」
その二人のうち一人の女の人がシューティングをやめて、走ってきた。この美人さんは……?
「みーちゃん、おはようっ!」
みーちゃん……?
それって、もしかして美結先輩のこと?
「おはようっ!」
悠花がタメ口ってことは、きっと私もみーちゃんにタメ口なんだよね。
そう信じてした挨拶は、正解だったらしい。
「今日は練習試合とかないから、バス体の中好きに使って練習しちゃってね~!」
そう言ってみーちゃんはシューティングに戻っていった。
会ったこともない人で少し緊張していたから、気が抜ける。
「飛鳥、荷物置きに行こ!」
悠花にそう言われ、一歩踏み出した、その時。
「わっ!」
「ひゃっ!」
さっきもやったであろうやり取りをした。
背中から脅かしてきたのは今度は悠花じゃなくて……?
「おはよ、飛鳥」
男の人⁉
「ちょっと巧輝、私には挨拶してくれないのー?」
「ああ、悠花。おはよ」
私が何も言えずに黙っていると、悠花が男の人に話しかけた。……ってことは、メモ帳に書いてあった、巧輝くん、かな……?
メモ帳にも『巧輝』って書いてあったし、未来の私とこの人は相当仲が良いのだろう。めっちゃイケメンでスタイル良いけど、こんな人とどうやって仲良くなったんだろ?
まぁいいや。
「おはよう、巧輝!」
できるだけの笑顔でそう挨拶をすると、
「ふふっ、今日も可愛いな」
そう言って頭を撫でてきた。
可愛い……とは? 頭を触るってことは、髪型のことかな? ただ下ろしてるだけのはずなんだけど……。
「もうっ、また飛鳥にデレデレしちゃって! 飛鳥は私のもの!」
「は? そんなの、誰が決めたよ」
え?
なんでか分かんないけど、悠花と巧輝が論争してる。
「えっと、なんだかごめんね……?」
バチバチと火花が散っていた二人の視線の間に割り込んで、二人を見上げてそう言った。
すると、二人は途端に口元を緩ませて——、
「「ごめんね、飛鳥……」」
そう言って項垂れた。
その姿がなんだか申し訳なくなって、
「えっ、二人は何も悪いことしてないよ!」
そう言うと二人は顔を見合わせた。
「「シューティングするか」」
なんだかんだいって、この二人は仲がいいらしい。
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