第1章 2040年 アクシデントの恐怖

第2話 未来の変化

 とりあえず家の場所が前と同じなのか分からなかったから、スマホのメモ帳を開く。

 一番上のメモに『ASTA』と入力して、パスワードを開けた。


 すると、一番上に住所が載っている。

 類田るいだ市、川崎区。その後に続く住所も、私が今まで生きていた2024年の世界のマンションと同じだ。


 とりあえず歩いて自分の家に向かう。地面に水たまりは


 自分の家に着く。私はリュックを背負っていたから、その中を漁ってみる。

 その間も、冬晴れに吹く北風が頬を撫でていく。ひんやりしていた。


 やっとのことで鍵を見つける。リュックの奥底に投げ入れたように入っていた。


 鍵を差し込み、ガチャッと音を立てて扉がいた。


 部屋の中はほぼ変わっていなかった。


 家に入ったら、まずは下駄箱。昔より靴が六足ほど減ってしまっている。

 スニーカーを脱いで、家に上がる。靴下の裏が地面と接触し、ひんやりとして心地良い。


 キッチンのお皿は無造作に置いてある。昨日の私はお皿を洗う気さえもなかったのだろうか。どんな生活をしてきたのだろう。


 奥に行き、お母さんの部屋を開く。いつもだったら本で散らかっているはずなのに——、


 なにも、無かった。


 信じられなくて、お父さんの部屋に駆け込む。

 立て続けに、妹の部屋にも。


 どこにも、なにも……なかった。


 嫌だ。そんなの嫌だ。

 身体が拒絶反応を示しながら、勝手にテーブルの近くの仏壇に足が動いていく。


 ——なんで。


 そこに置かれた遺影は、両親と私の唯一の妹、雀帆のものだった。


 急いでメモ帳を開く。


『お父さんは心臓発作で、お母さんと雀帆は同じ交通事故で亡くなりました。お父さんは享年45歳(つまり2026年)、お母さんは享年43歳(つまり2029年)雀帆は享年15歳です。その家には一人暮らしで心細いと思うけれど、頑張ってください。』


 そん、な……。


 一筋、つーっと暖かいものが頬を滑っていった。


 私が生きていた世界の2年後ではもうお父さんが亡くなっていて、その3年後にはお母さんと雀帆でさえも亡くしているだなんて……。


 信じられるわけが、なかった。


 さっきは能天気に『どうにかなる!』なんて考えていたけど、そう簡単にいくわけがなかった。

 だって元の世界で仲良くしていた子とは会えないし家族はいないなんて、私、もうどう生きていいのか分からない……。


 きっと、本当の19歳の私はここまでショックを受けるだなんて思っていなかっただろう。私は19歳の私に大事な試練を任されているのに、こんなところで泣くだなんて情けない。これから先、道のりはとても長いのに。


 ぐっと涙を拭いて、目の前の仏壇に線香をあげた。


 この事実も、受け入れなきゃいけない。これは、未来の私を助ける第一歩だ。

 そう思って、瞼を開く。


 そう、私は未来の私のために、その彼氏さんのために全力を尽くすんだ。


 そのためならきっと、どうにかやっていけるはずだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 一人は嫌いだ。

 外から鳥の囀りしか聴こえないのも、夕陽しか差し込まないのも、全てが怖くて嫌だった。

 だからテレビをつけて、食べもしないポテトチップを膝の上に抱えて、ソファの上でゴロゴロ。


 ニュースの長い文章を見て急に思い出し、スマホを取り出した。

 そういえば、あのメモをまだ見ていなかった。


 また『ASTA』をパスワードに入れて、メモ帳を開く。


 スクロールしていくと『人間関係』という項目があったため、目を留める。


『後藤悠花。

 覚えていると思うけど、小学四年生にうちの小学校に転校してきたバスケの天才。

 私たちと同じ大学で、同じバスケサークルの『リーフ』に入ってます。

 相変わらずバスケはぐんぐん上達して、プロのチームからのスカウトもしばしば。

 昔と変わらない関係です。』


 やっぱり悠花はすごいんだな。プロのチームからのスカウトだなんて……!

 私も悠花を目指して、バスケを頑張りたい。


安土あづち美結みゆ

 リーフの友達。一個上の先輩で、頼れる存在。

 勘が鋭いからもしかしたらみーちゃんにはすぐに過去から来たことがバレるかもしれないけれど、絶対バラさないって信じられる人です。自分じゃどうにもならないって思ったら、みーちゃんに全部話してみるのもあり。

 他にもなんか悩み事があったら、みーちゃんに相談してみて!』


 みーちゃん……会ったこともないから美結先輩って呼びたいところだけど、未来の私が『みーちゃん』呼びなら私もそう呼んだほうがいいのかな……。


 先輩に心配かけたくないし、できるだけ過去から来たことはバレずにどうにかしたい。

 みーちゃん呼びで頑張ってみようっ。


鈴原すずはら巧輝こうき。同い年で大人っぽくてクール。リーフの友達。なぜか私に対しては甘いです。

 めっちゃバスケが上手いけど、全てのスカウトを断っています。理由は分からないけど……。

 とりあえず、巧輝のことは自分のペースに乗っけられます。頑張って!』


 だれ……?

 当たり前か。きっと大学で初めて会ったんだろう。


 自分のペースって……何の話かな?


 とりあえず、人間関係の話はそこで終わっていた。これだけで生きていけるのだろうか……。


 ヤバくなりそうだったらみーちゃん……さん。いや、みーちゃんに相談に乗ってもらうのもありかもしれない。まだ会ったこともないけど。


 まぁ……どうにかなるのかな? なんか優しそうな人もいっぱいいるっぽいし!


 今日みたいな辛いことがあったって……乗り越えてみせる。

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