第十六章:鏡が紡ぐ終焉

眩い光の中で、優真の意識はどこか遠くへと引き込まれていった。全身を包む鏡の力は、これまでに感じたどの瞬間よりも強く、しかし不思議と温かさを感じさせるものだった。


「これで、本当に終わるのか……。」


彼の声が虚空に溶けていく。その答えを返すかのように、鏡の光が一際強く輝いた。


光が収まった時、目の前に広がったのは――鏡の中の世界だった。


優真の立つ場所は、青白い光で満たされた果てしない空間だった。足元には無数の鏡の欠片が散らばり、空には巨大な鏡が浮かんでいる。その鏡はゆっくりと回転しながら、無数の映像を映し出していた。


その中には八坂村の平和な風景があり、彼が守ろうとした未来があった。しかし、同時に黒い霧に包まれた滅びの風景もまた、絶えず映し出されている。


「これは……俺が選ばなかった未来も全部映してるってことか?」


優真は呟きながら一歩踏み出した。その足音は鏡の欠片に反響し、空間全体に広がっていく。


「お前が選択した未来は、ここに繋がっている。」


不意に背後から声が響いた。振り向くと、そこにはこれまで彼を導いてきた黒い仮面の男が立っていた。


「お前はいつもどこから湧いてくるんだよ……。」

優真は軽く苦笑を浮かべながら、肩の力を抜いた。


「湧いてくるわけではない。」

男は静かに言い、彼の持つ鏡に目を向けた。

「私は鏡と共に存在し、継承者を導く役割を持つ。それが、ここにいる理由だ。」


「役割、ねえ……。」

優真は鏡を見つめながら、静かに呟いた。


男は一歩近づき、彼に問いかけた。

「お前は全てを受け入れ、未来を繋ぐ覚悟を持つと言ったな。」


「……ああ。俺が全部終わらせる。」

優真は鏡を握りしめ、力強く答えた。


「ならば、最後にもう一つ聞く。」


男は赤い瞳を優真に向け、鋭い声で続けた。

「お前自身が犠牲になる未来を映してもなお、その選択を変えないと言えるか?」


「俺自身が犠牲……?」

優真はその言葉を反芻し、目を伏せた。


「ふざけんなよ……。俺が選んだのは、村を守る未来だ。それで俺自身が消えるなんて――そんなの聞いてねえよ。」


男は静かに頷いた。

「だが、それが鏡の力だ。未来を繋げるには、全ての始まりを犠牲にする必要がある。それは――お前自身だ。」


「……っ!」


優真は拳を握りしめ、目を見開いた。全てを守るつもりだった。だが、その代償が自分自身の存在だとしたら――。


男は続ける。

「お前が消えることで、鏡は完全に未来を繋ぎ、八坂村もお前が望んだ平和も訪れる。」


「……そんなの、何が正しいんだよ。」

優真は声を震わせながら鏡を見つめた。


「選ぶのはお前自身だ。」


その言葉が鋭く響く中、鏡が再び強い光を放ち始めた。その光は優真を包み込み、彼の手の中で静かに震えた。


「……分かったよ。」


優真は静かに口を開いた。その声には迷いも、恐れもなかった。ただ静かに、しかし力強い決意が込められていた。


「俺は……全部繋げる。俺がいなくなったって、守りたいものが守られるなら、それでいい。」


彼は鏡を掲げ、その光を解き放った。


空間全体が青白い光に包まれ、無数の鏡の欠片が空中に舞い上がっていく。欠片が一つに集まり、巨大な鏡を作り上げていく。その鏡には、彼が守ろうとした村の平和な未来が映し出されていた。


「これが……俺が選んだ未来だ。」


優真は微かに微笑みながら、鏡の中に消えていく光を見つめていた。


「全部……任せたぞ。」


その言葉を最後に、彼の体は光となり、鏡の中へと吸い込まれていった。


八坂村。青空の下、村人たちは平和な日常を送っていた。


「優真が持っていた鏡……どうして突然光を失ったんだろう。」


祠の前で佇む母親の手には、ただの古びた鏡が握られていた。鏡は静かに輝きを失い、まるで役目を終えたかのように眠っていた。


「でも……ありがとうね、優真。あんたがいたから、私たちはこうして生きていられる。」


母親は鏡を胸に抱きしめ、静かに目を閉じた。


空には雲一つない青空が広がり、村には平和の風が吹いていた。


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