第十四章:最後の試練
赤い月がいくつも浮かぶ空間。裂け目の最奥に広がるこの場所は、それまで優真が歩んできたどの空間とも違う異様な雰囲気を漂わせていた。
足元は黒い硬質な大地で、その表面には無数の赤い線が脈動している。脈動はまるで生き物の血管のようで、一定のリズムで低い音を放ちながら光を走らせている。その音が彼の鼓膜を震わせ、不安を煽るように静かに続いていた。
「ここが……裂け目の果てなのか?」
優真は握りしめた鏡を見つめた。鏡の青白い光が彼の手元で脈動し、周囲の空間と共鳴しているようだった。
彼の目の前には巨大な存在が立ちはだかっていた。それはこれまでのどの敵とも違う圧倒的な威圧感を放つ存在だった。黒い霧が体中を覆い、赤い瞳が鋭く輝いている。その視線が優真を射抜き、まるで彼の心の奥底を見透かすようだった。
「お前が……最後の敵か。」
優真はその巨大な存在を睨みながら、鏡を構えた。だが、その手には僅かな震えがあった。それほどまでに、この敵が放つ圧力は尋常ではなかった。
「……怖じ気づいたか?」
低く響く声が空間全体に反響する。それは重々しく冷たく、まるで空気そのものが話しているようだった。
「怖じ気づくわけないだろ。」
優真は小さく息を吐き、鏡をしっかりと握り直した。
「ここまで来たんだ。今さらビビると思うか?」
巨大な存在は返事をすることなく、ゆっくりと腕を上げた。その手に赤い光が集まり始め、巨大な刃の形を作り出していく。その光景に、優真は思わず眉をひそめた。
「……ずいぶん立派な武器をお持ちだな。」
彼は皮肉交じりに呟き、冷たい汗を感じながらも気持ちを奮い立たせた。
「鏡の継承者よ。」
再び低い声が響いた。その存在は赤い瞳をさらに輝かせ、ゆっくりと語り始めた。
「お前がこの力を持つにふさわしいか、ここで試す。」
「ふさわしいかどうかなんて関係ねえだろ。」
優真は鏡を掲げ、反論するように言い放った。
「俺はもうここまで来たんだ。お前がどう思おうと、進むだけだ!」
その言葉を合図にするかのように、巨大な存在が動いた。空間全体が激しく震え、その巨大な刃が振り下ろされる。
「っ……速い!」
優真は咄嗟に鏡の盾を展開した。青白い光の盾が敵の攻撃を受け止めたが、その衝撃は凄まじく、彼の体を後方へと吹き飛ばした。
「ぐっ……!」
彼は地面に叩きつけられた衝撃で息を詰まらせながら、何とか立ち上がった。全身に痛みが走る中、彼は鏡を握りしめた手に力を込めた。
「……やっぱり、手強いな。」
苦笑を浮かべながらも、その目には諦めの色は一切ない。
「でも、ここで止まるわけにはいかねえんだ!」
優真は鏡を掲げ、光の刃を放った。その一撃は敵の体を直撃し、黒い霧を巻き上げた。だが、敵の傷口は瞬く間に塞がり、何事もなかったかのように再び彼を見据えた。
「こいつ……再生するのか!」
再び敵が攻撃を仕掛けてきた。刃を振り上げる動きは信じられないほど速く、優真は何とか身を翻して攻撃をかわした。
「くそっ、これじゃ埒が明かねえ……!」
彼は次々と鏡の力を解放し、敵に攻撃を加えた。しかし、どれだけ攻撃を繰り出しても、敵の体は黒い霧に包まれ、再生していく。
「どうすれば……!」
全身に疲労が広がり、彼の動きは次第に鈍くなっていく。全力で戦っているはずなのに、敵の再生能力がその努力を無に帰していく。その絶望感が優真の心を静かに蝕んでいた。
その時、鏡が突然強烈な光を放ち始めた。その光は彼の体を包み込み、意識の奥底に響くような声が聞こえた。
「恐れるな……。全てを解き放て。」
「……鏡?」
優真は鏡を握りしめ、胸中で呟いた。その光はさらに強く輝き、彼の体に新たな力が流れ込んでいく。それはこれまでとは全く異なる感覚だった。
「これが……鏡の本当の力か?」
彼は静かに目を閉じ、一度深く息を吐いた。全身に満ちる力を感じながら、彼はその目を力強く開いた。
「分かったよ。これで全部終わらせる!」
優真は鏡の力を全開にして突進した。その動きはこれまでよりも鋭く、光の刃が敵の再生能力を超越してその体を切り裂いた。
「これで……決める!」
彼は最後の力を振り絞り、光の刃を巨大な敵の胸元へと突き刺した。その瞬間、空間全体が眩い光に包まれた。
その光が収まると、巨大な存在の姿は完全に消え去り、赤い月も徐々にその輝きを失い始めた。空間全体が静寂に包まれ、周囲には穏やかな青白い光が満ちていた。
「……これで、終わったのか?」
優真は鏡を見つめながら荒い息を整えた。その手の中の鏡は静かに輝き、その光が彼に安堵を伝えているようだった。
「全部、終わったんだよな……。」
彼は膝をつき、静かに目を閉じた。疲労感が全身を包む中で、鏡の光が彼を優しく癒しているように感じられた。
「次は……俺自身の未来を守る番だ。」
彼は鏡をしっかりと握り直し、立ち上がった。その目には、これまで以上に強い意志が宿っていた。
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