第十三章:裂け目の果て
足元を照らす青白い光が、新たな道を浮かび上がらせていた。周囲は静寂に包まれ、空間には彼の足音だけが響く。
優真の目の前には、これまでよりも広大で深淵のような裂け目が待ち受けていた。裂け目からは黒い霧が吹き出し、空間全体に不吉な圧迫感を漂わせている。
「ここが……最奥なのか。」
優真は深い息をつき、裂け目を見つめた。握りしめた鏡が微かに振動している。それは「進め」と囁くような力強さを感じさせた。
「相変わらずお前は簡単に言うよな……。」
独り言のように呟きながら、優真はその裂け目に足を踏み出した。
裂け目の中に入った瞬間、周囲の光景が一変した。視界を覆っていた黒い霧が消え、広がったのはどこまでも続く暗闇と無数の光る文様だった。それらの文様は空間全体に浮かび上がり、青白い光を放ちながら静かに脈動している。
「……なんだここ。」
優真は足元を見た。地面はなく、まるで宙に浮いているような感覚だった。足を踏み出すたび、光る文様が彼の動きに反応して淡い波紋を広げていく。
空気は冷たく、彼の肌を刺すような寒さがあった。しかし、それ以上に彼の胸を満たしていたのは、この空間全体から感じる異様な威圧感だった。
鏡が再び強く振動する。その力が彼をさらに奥へと導いている。
「行けってことか……。分かったよ。」
優真は慎重に進みながら、周囲を警戒した。
やがて、目の前に巨大な光の球体が現れた。それは宙に浮かび、周囲の文様と連動して光を放っている。その光はただ眩しいだけでなく、まるで全てを見透かされているような感覚を彼にもたらした。
「これが……裂け目の中心?」
優真が球体に近づこうとしたその時、周囲の文様が突然激しく輝き始めた。
「またか……!」
彼が構えた瞬間、空間全体に轟音が響き渡り、足元から黒い霧が吹き上がった。その霧の中から現れたのは、漆黒の鎧をまとった巨大な人影だった。
その存在は全身に赤い模様を輝かせ、目には強烈な赤い光を宿していた。両手には禍々しい光を帯びた双剣を握り、その姿からは計り知れないほどの威圧感が滲み出ている。
「……また戦いかよ。」
優真は苦笑しながら鏡を構えた。しかし、その手にはわずかな震えがあった。
「鏡の継承者よ――。」
その存在が低く響く声で語り始めた。その声は空間全体に反響し、彼の鼓膜を震わせた。
「お前はこの力を持つ資格があるのか、ここで試す。」
「資格って……!」
優真は反論しかけたが、その存在は一切構うことなく双剣を振り上げ、一瞬で距離を詰めてきた。その速度と力に反応する間もなく、巨大な剣が振り下ろされる。
「くそっ!」
優真は咄嗟に鏡の力を解放し、青白い盾を展開して防御した。だが、その攻撃は盾を砕き、彼を数メートル先まで吹き飛ばした。
「っ……重い!」
全身に走る衝撃と痛みを感じながら、優真は立ち上がった。その目には怯えの色はなく、むしろ鋭い決意が宿っていた。
「俺が鏡に選ばれたんだ。誰にも資格がどうこう言わせるつもりはねえ!」
優真は鏡を掲げ、光の刃を放った。その一撃は空間を切り裂き、敵の鎧をかすめた。しかし、敵は傷一つ負うことなく動き続け、再び双剣を振り上げて突進してきた。
「なんてタフなんだよ……!」
優真は攻撃をかわしつつも、鏡の力を解放し続けた。しかし、そのたびに体力が削られ、動きが鈍くなっていくのを感じた。
「これじゃ……勝てねえ……。」
その時、鏡がこれまで以上に強い光を放ち始めた。その光が優真の体を包み込み、耳元に再び囁くような声が聞こえた。
「この力を受け入れろ。恐れるな。」
「……鏡?」
その声に応えるように、優真は鏡を握りしめた。体中に新たな力が流れ込み、全身が青白い光に包まれる。それはこれまでの戦いで得た全ての力を超越した感覚だった。
「これで終わらせてやる!」
優真は敵に向かって突進した。その動きはこれまでよりも鋭く、光の刃は敵の双剣を弾き飛ばし、その鎧を深々と切り裂いた。
敵は低い唸り声を上げながら後退したが、再び立ち上がり、全身に赤い光を放ちながら最後の突進を仕掛けてきた。
「来いよ……これで全部終わらせる!」
優真は全力で鏡の力を解放し、巨大な光の刃を振り下ろした。その一撃は敵の体を貫き、空間全体に眩い光を放った。
光が収まった時、空間全体が静寂に包まれた。敵の姿は完全に消え去り、裂け目の中心に浮かんでいた球体が静かに輝きを放っていた。
優真は荒い息を整えながら膝をついた。鏡を見つめる彼の顔には、疲労の中にも僅かな安堵の表情が浮かんでいた。
「これで……終わったのか……?」
鏡は微かに光りながら、彼の手の中で穏やかな振動を伝えていた。
「まだ、行くべき場所があるのかよ……。」
優真はゆっくりと立ち上がり、再び現れた新たな道を見つめた。その先には、裂け目の奥に続く最後の試練が待っているようだった。
「……全部、終わらせるまで進むだけだ。」
彼は鏡を握りしめ、ゆっくりと新たな道へと歩き始めた。その瞳には、揺るぎない決意と覚悟が宿っていた。
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