第十章:塔の深淵

優真が歩みを進めるたびに、塔の内部はさらに奇怪な様相を呈していった。壁には青白い文様がさらに複雑に刻まれ、まるで動いているかのように光を放っていた。床には新たな魔法陣のような模様が現れ、それが彼の歩みを導くように淡く輝いていた。


空間全体が静寂に包まれている中で、鏡の振動だけが一定のリズムで響いている。そのリズムが、彼の疲れた体に僅かな安心感をもたらしていた。


「お前はどこまで俺を引きずり回すつもりだよ……。」


優真は鏡に向かってそう呟いたが、その足は止まることなく前へと進んでいった。


しばらく進むと、目の前に大きな広間が現れた。その広間はこれまでとは比べ物にならないほど広大で、天井は遥か彼方まで伸びている。中央には黒い祭壇があり、その上には何かが浮かんでいた。


「……あれは?」


優真はゆっくりと祭壇に近づいた。そこに浮かんでいたのは、赤黒く輝く小さな玉のようなものだった。それは彼が持つ鏡とは正反対の不気味な光を放ち、空間全体に圧迫感を与えていた。


鏡が急に強く振動し始めた。それはまるで警告を発するかのようだった。


「おい、何なんだよこれ……。」


彼がその玉に手を伸ばそうとした瞬間、広間全体が激しく揺れた。足元の地面に無数の裂け目が走り、暗黒の霧が溢れ出してきた。


「またかよ……!」


その霧の中から現れたのは、これまでの怪物とは一線を画する存在だった。巨大な四足の獣のような体に、無数の目が不気味に輝いている。全身から黒い霧を放ち、その目が優真を一斉に睨みつけてきた。


「……っ、こいつはヤバい!」


優真は鏡を構えたが、その存在から感じる威圧感はこれまでのどの敵とも比べ物にならなかった。


獣は低い咆哮を上げ、一瞬で優真との距離を詰めてきた。その速度と力に反応する間もなく、巨大な爪が振り下ろされる。


「くそっ……!」


優真は咄嗟に鏡の力を解放し、青白い光の盾を展開した。だが、その攻撃は盾を砕き、彼の体を地面に叩きつけた。


「……ぐっ……重い……!」


全身に衝撃が走り、立ち上がるのに時間がかかった。獣は再び咆哮を上げ、優真に向かって突進してくる。その姿はまるで止まることを知らない暴走の塊のようだった。


「やるしかない……!」


優真は鏡を掲げ、全力で光の刃を放った。その刃は獣の体を切り裂いたかに見えたが、次の瞬間、その傷口は黒い霧によって塞がれてしまった。


「再生するのかよ……!」


彼は必死に攻撃を繰り返したが、獣の再生能力はそれを無効化していった。次第に彼の体力は尽きかけ、動きも鈍くなっていった。


その時、鏡が再び強い光を放ち始めた。それはこれまで以上に鮮烈な光で、優真の体を包み込んだ。同時に、彼の意識の中に再び囁く声が聞こえた。


「……その玉を破壊しろ。それがこの存在を生む核だ。」


「玉を……?」


優真は目の前の祭壇を睨んだ。赤黒い玉はなおも不気味な光を放っており、獣の動きと完全に連動しているように見えた。


「分かった……!」


彼は鏡の力を全開にし、祭壇へと突進した。獣がそれを察知したように動き、彼を阻止しようと迫ってきたが、優真は振り向かずに走り続けた。


「これで終わりだ……!」


彼は鏡の光を玉に向けて放った。その一撃が玉に直撃した瞬間、広間全体が眩い光に包まれた。


光が収まった時、獣の姿は跡形もなく消えていた。祭壇も崩れ落ち、玉の存在は完全に消え去っていた。優真は膝をつき、荒い息を整えながら鏡を見つめた。


「これで……本当に終わったのか?」


鏡は微かに光を放ち、それに応えるように優真の中に安堵が広がった。


その時、塔の奥から新たな道が開かれた。その道はこれまで以上に神秘的な光を放ち、彼をさらに奥へと導こうとしていた。


「……まだ続くのかよ。」


優真は立ち上がり、鏡を握りしめた。


「いいさ、どんな試練でも乗り越えてやる。」


彼の瞳には、新たな覚悟が宿っていた。

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