第九章:裂け目の深淵
深い闇の中、優真の意識は漂っていた。全身が何かに包み込まれるような感覚とともに、次第に視界がぼんやりと明るくなっていった。気がつくと、彼は広大な大地の上に立っていた。そこは先ほどの神域とも異なる、さらに異質な空間だった。
空は赤と黒の渦で満たされ、巨大な月がいくつも浮かんでいる。その光は冷たく不気味で、地面には無数の裂け目が走り、そこから黒い霧が立ち上っていた。
「ここが……裂け目の向こう側?」
優真は周囲を見回しながら、鏡を握りしめた。鏡は彼の手の中で微かに振動し、青白い光を放っている。それはまるで「進め」と促しているようだった。
「お前、相変わらず無茶を言うな……。」
そう呟きながらも、優真は霧の中へと足を進めた。
霧の中は冷たく、濃密な気配が漂っていた。その霧には人の形をした影が時折浮かび上がり、彼をじっと見つめているように感じられた。
「誰か……いるのか?」
優真が声を上げても、返事はない。ただ影が霧の中を漂い、彼の周囲を取り囲むように動いているだけだった。その様子に不安を覚えながらも、彼は足を止めずに進み続けた。
やがて、霧の中から巨大な構造物が浮かび上がってきた。それは、黒い石でできた塔のような建物だった。その表面には無数の文字や文様が刻まれ、青白い光を放っていた。
「……あれが次の試練か?」
塔の入口は開いており、中から低い音が響いてきていた。それは心臓の鼓動のような音で、優真の胸にも同じような振動をもたらした。
「行くしかないよな……。」
彼は意を決して塔の中へと足を踏み入れた。
塔の中は暗く、冷たい空気が漂っていた。足元には黒い石が敷き詰められ、壁には無数の文様が輝いている。それらの文様は、優真が持つ鏡と同じ青白い光を放っていた。
「ここは……鏡に繋がる場所なのか?」
彼が周囲を見渡していると、突然、背後の扉が激しい音を立てて閉じられた。その音に驚いて振り返ったが、すでに扉は完全に閉ざされ、動かなくなっていた。
「これが……本当の試練ってわけか。」
その時、塔の中央にある巨大な魔法陣が青く輝き始めた。その光は次第に強まり、やがて空間全体を包み込んだ。そして、魔法陣の中央から巨大な影が現れた。
それは、これまでに見たどの敵よりも圧倒的な存在感を持つ異形だった。全身を黒い鎧で覆い、手には巨大な剣を握っている。その目は赤く光り、優真を見下ろしているようだった。
「また戦いかよ……!」
優真は鏡を構えた。その体はすでに疲労が溜まっていたが、目の前の敵から感じる威圧感がそれを忘れさせるほど強烈だった。
巨大な剣が振り下ろされると同時に、優真は反射的に鏡の力を解放した。青白い光が盾のように広がり、その一撃を弾き返した。
「……っ、重い!」
衝撃で全身が痺れるような感覚に襲われたが、優真は歯を食いしばって立ち上がった。
「こんなところで負けるわけにはいかない!」
彼は光の刃を放ち、異形に向かって突進した。その一撃は異形の鎧を貫いたが、それでもその動きは止まらなかった。
「何なんだよ、こいつ……!」
異形は再び剣を振り上げ、容赦なく攻撃を仕掛けてきた。優真は必死に防御しながらも、次第に追い詰められていった。
「くそっ……もっと力を……!」
その時、鏡がこれまで以上に強い光を放ち始めた。その光が彼の体に流れ込み、全身を青白い炎のように包み込んだ。
「これが……鏡の本当の力……?」
彼はその力に身を委ね、再び異形に向かって突進した。光の刃は一瞬で敵の鎧を砕き、その体を粉々にした。
異形が消え去った後、塔の中央に新たな道が現れた。その道はさらに深く、塔の奥へと続いているようだった。
優真は息を整えながら鏡を見つめた。
「これで……終わりじゃないんだな。」
鏡は再び微かに光を放ち、彼に進むべき道を示していた。彼はその光に従い、再び歩き出した。
「どんな試練が来ようと、絶対に乗り越えてやる。」
彼の瞳には、確固たる決意が宿っていた。
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