第八章:試練の果て
裂け目の中に広がる闇が、徐々に動き出した。優真は疲れきった体を支えながら、その暗黒の波を見つめていた。空間全体が揺れ、地面に刻まれた文様が赤く光り始める。それは、彼の手に持つ鏡と呼応するように脈動していた。
「試練はまだ続く……?」
鏡の力を何度も解放したことで、全身に重い疲労感が広がっていた。それでも、目の前の闇を無視することはできなかった。
男はその場に立ったまま、優真を冷静に見つめていた。
「裂け目を越えられるかどうかは、お前次第だ。」
「裂け目を越える……?」
優真が呟いたその時、足元の文様がさらに強く光を放ち始めた。同時に、裂け目から巨大な力が解き放たれ、空間全体が激しく揺れた。
裂け目から現れたのは、これまでの怪物や番人とも異なる存在だった。それは異形の姿をしていながらも、どこか神々しい光を放っていた。全身を覆う金色の模様と、赤い瞳が不気味に輝いている。その姿は、かつての八坂神社に伝わる神々の伝説を思わせるものだった。
「これは……神の使い?」
優真は思わず声を漏らした。だが、その存在は答えることなく、鋭い爪を振り上げ、一瞬で優真に向かって突進してきた。その速度と威圧感はこれまでの敵をはるかに上回っていた。
「くそっ!」
優真は鏡の力を解放し、光の盾を展開して防御した。衝撃が全身に伝わり、彼はその場に膝をついた。
「何だよ、この力……!鏡が押されてる……?」
彼が息を整える間もなく、その存在は再び攻撃を仕掛けてきた。優真は鏡を構えて必死に応戦したが、その力は限界に近づいていた。
その時、鏡がこれまでとは違う反応を示した。青白い光が彼の体を包み込み、耳元に囁くような声が聞こえてきた。
「……我が名は八坂鏡。この力を解き放つことで、お前は運命の扉を開けるだろう。」
「八坂鏡……?お前が俺を導いてるのか?」
優真はその声に応えるように鏡を握りしめた。体中に流れ込む光が、彼の疲れた筋肉を再び活性化させていく。それは、彼が初めて鏡と完全に一体化した瞬間だった。
「……分かったよ。お前が俺に力を貸してくれるって言うなら……!」
優真は再び立ち上がり、全身から青白い光を放った。その光は強烈なエネルギーの渦となり、彼の周囲に広がった。
異形の存在は、再び優真に向かって突進してきた。だが、今度は優真が先手を取った。光の刃を振り下ろし、敵の体を切り裂いた。その一撃はこれまでの攻撃とは比べ物にならないほど強力で、異形の体を崩壊させた。
「……まだだ!」
優真はさらに力を解放し、連続で攻撃を仕掛けた。光の刃が次々と異形を貫き、最終的にその存在を黒い霧へと変えた。
静寂が戻った時、優真は膝をついて荒い息を整えていた。
「やったのか……?」
目の前にはもう敵の姿はなかった。ただ、裂け目から放たれていた黒い霧も収まり、空間全体が静けさを取り戻していた。
その時、番人の男がゆっくりと歩み寄ってきた。
「見事だ。お前は鏡の力を解放し、試練を突破した。」
「これで……終わりなのか?」
優真の問いに男は首を横に振った。
「いや、試練はこれからが本番だ。裂け目の向こう側にある世界こそ、お前が向かうべき場所だ。」
男が指差した先には、再び開き始める裂け目があった。その奥には、赤い光が渦巻く世界が広がっていた。
「お前が八坂鏡の継承者としてその世界を超えた時、真の力を手にするだろう。」
優真は裂け目を見つめながら深い息をついた。彼は手に握る鏡を見つめ、ゆっくりと立ち上がった。
「……行くよ。俺は、全部終わらせるために。」
裂け目の中に足を踏み入れると、視界が一瞬で真っ白になり、彼の意識は深い闇の中に沈んでいった。
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