第七章:裂け目の向こう側

新たな扉をくぐると、そこにはこれまでとは全く異なる空間が広がっていた。神殿の冷たさや無機質な雰囲気とは違い、目の前には巨大な大地が広がり、空には星が瞬いている。赤い月は未だ空に浮かび、静かに世界を見下ろしているようだった。


「ここも……神域なのか?」


優真は足元に視線を移した。地面は黒い岩と青い光を帯びた砂のようなもので覆われていた。その光が彼の足跡に反応して微かに明滅している。


鏡は再び振動し、青白い光を前方に放った。それはまるで「進め」と言っているかのようだった。


「お前は本当に無責任だよな……。」


そう呟きながらも、優真の足は自然と鏡が示す方向へ向かっていた。その先には、薄い霧の中からぼんやりとした建物の影が見えてきた。


建物に近づくにつれて、その全貌が明らかになってきた。それは円形の構造物で、無数の柱が立ち並び、その中央には祭壇のようなものが置かれていた。だが、何より目を引いたのは、祭壇の上に浮かんでいる巨大な裂け目だった。


裂け目の中からは黒い霧が漏れ出し、空気全体に不吉な気配を漂わせていた。優真はその場で立ち止まり、鏡を握りしめた。


「……ここが次の試練ってわけか。」


彼が裂け目に向かって歩み寄ろうとした瞬間、足元に刻まれていた文様が激しく光り出した。次の瞬間、大地全体が揺れ、祭壇の周囲に黒い霧が渦を巻き始めた。


霧の中から現れたのは、無数の異形の影だった。それは人の姿をしているようでいて、その体は霧でできており、赤い光る目が優真を睨みつけていた。


「またかよ……!」


優真は咄嗟に鏡を構えた。


影たちは一斉に咆哮を上げ、優真に向かって突進してきた。その動きはこれまでの怪物たちとは比較にならないほど速く、優真は反射的に後退しながら鏡の光を解放した。


青白い刃が放たれ、最初の影を切り裂いた。だが、その影は消えるどころか霧となって再び形を取り戻し、再度優真に向かってきた。


「こいつら、何度でも戻ってくるのか……!」


優真は焦りを感じながらも次々と鏡の力を放ち、影を斬り払っていった。しかし、倒しても倒しても影は再生し、彼を包囲するように迫ってきた。


「このままじゃ……持たない!」


彼の体はすでに限界に近づいていた。鏡の力を使うたびに全身に重い疲労感が広がり、意識が薄れていくような感覚が襲ってきた。


その時、鏡がこれまでにないほど強い光を放ち始めた。その光は優真の周囲に広がり、影たちを一時的に押し返した。


「お前、何をしようとしてるんだ……?」


鏡の光が優真の体に流れ込み、彼の意識の中に何かが浮かび上がった。それは、裂け目の中に広がる別の世界の光景だった。無数の赤い月、無限に広がる黒い大地、そしてその中心に浮かぶ何か――。


「これは……?」


その瞬間、裂け目から強烈な光が放たれ、優真の体が吸い込まれるように引き寄せられた。


目を覚ました時、彼は広い空間の中に立っていた。そこは裂け目の中の世界のようだった。空には複数の赤い月が浮かび、大地には無数の文様が刻まれている。その文様は優真が鏡で見たものと同じだった。


「ここは……一体……?」


優真が周囲を見渡していると、遠くの方から誰かが歩いてくるのが見えた。それは一人の男だった。黒い装束を纏い、顔には仮面をつけている。その姿は「月見の会」の者と似ているが、どこか違う威圧感を放っていた。


「ようやく辿り着いたか……鏡の継承者よ。」


その声は低く響き、優真の胸に冷たい緊張感をもたらした。


「お前は……誰だ。」


男はゆっくりと歩み寄り、優真の前で足を止めた。


「私は、この神域の番人。お前がこの力を持つに相応しいかどうかを見極める者だ。」


そう言うと、男は手を伸ばし、漆黒の刃を優真に向けた。その刃は赤い光を帯び、空間全体を震わせるような威圧感を放っている。


「……また戦いかよ。」


優真は鏡を構え、覚悟を決めた。


次の瞬間、男が一瞬で距離を詰めてきた。その動きはこれまでのどの敵とも比較にならないほど速く、優真は反射的に鏡の力を放って防御した。


「……っ!」


激しい衝撃が彼の体を貫き、全身が痺れるような感覚に襲われた。男の一撃は鏡の力を押し返すほど強力だった。


「お前はまだ、この力の意味を理解していない。」


男がそう呟き、再び攻撃を繰り出してきた。優真は必死に応戦しながらも、次第に押されていった。


「……分かってるよ。でも、俺は負けるわけにはいかない!」


彼は再び鏡の力を解放し、その光を全力でぶつけた。その光は男の刃を弾き、激しい衝撃を生み出した。


「ふむ……少しはやれるようだな。」


男は微かに笑みを浮かべ、赤い光を収めた。


「だが、これで終わりではない。試練はまだ続く。」


男がそう言った瞬間、空間全体が揺れ、裂け目の中にさらに深い闇が広がった。

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