第五章:八百万の神域
霧が晴れると同時に、優真の視界に広がったのは、それまでに見たことのない光景だった。山道を抜けた先に広がる世界は、まるで別次元のようだった。空は赤い月に覆われ、地面は黒い岩と白い霧が交互に広がる荒野。大地の至るところで青白い光が点滅し、異様な静けさが支配していた。
「ここが……神域ってやつなのか?」
優真は一歩ずつ足を進めながら辺りを見回した。その土地には、村のような人の気配はなく、ただ自然と異様なエネルギーだけが漂っている。空気は冷たく、肌を刺すような寒さが全身を包む。
鏡が微かに光を放ち、優真の手を引くように振動していた。
「おい、どこに行けって言うんだよ……。」
誰に言うでもなく呟いたその声は、大地に吸い込まれるようにかき消えた。だが、鏡は光を強め、彼の前方を指し示していた。その方向には、霧の中から巨大な構造物の影がぼんやりと浮かび上がっていた。
構造物に近づくにつれ、その輪郭は徐々にはっきりしてきた。それは巨大な門だった。高さ数十メートルにも及ぶ石造りの門は、青白い光を放つ文様が刻まれており、門の中央には不思議な文字が描かれていた。その文字は、優真が見たこともないものだったが、なぜか意味が理解できる気がした。
「……試練の門。」
その言葉が自然と口からこぼれた瞬間、門が低い音を立てながらゆっくりと開き始めた。冷たい風が門の中から吹き出し、優真の髪を揺らした。
「入れってことかよ。」
優真はため息をつき、意を決して門の中へ足を踏み入れた。
門の中は、外とはまったく違う雰囲気を持っていた。薄暗い空間には無数の灯籠が並び、それぞれが青白い火を灯していた。その火は、道の両側を照らしながら、奥へと続いている。
「ここが……試練ってやつなのか?」
優真は鏡を握りしめながら、ゆっくりと進んでいった。空間全体には静寂が漂い、足音だけが響いている。だが、その静けさの中に潜む不気味な気配が、彼の心を落ち着かなくさせた。
「お前、本当にこんなところに導いていいのかよ……?」
鏡は相変わらず光を放ち、優真の手を引くように振動している。それがまるで「信じろ」と言っているように感じられた。
しばらく進むと、目の前に大きな広場が広がった。その中央には祭壇のようなものが置かれており、その上には何かが浮かんでいるのが見えた。
「……何だ、あれ。」
優真が祭壇に近づくと、それは小さな光の玉のようなものだった。青白く輝くその玉は、彼が近づくたびに微かに脈動している。
「試練の……鍵、か?」
優真が玉に手を伸ばそうとした瞬間、空間全体が揺れた。次の瞬間、広場の四方から黒い霧が立ち上り、その中から無数の異形の影が現れた。それは、村で見た怪物たちとは異なる、より禍々しい姿をしていた。
「おいおい、こんなタイミングかよ……!」
優真は咄嗟に鏡を構えた。怪物たちは咆哮を上げ、一斉に彼に向かって突進してきた。
最初の一撃は反射的に放ったものだった。鏡の光が刃のように広がり、最初の怪物を一瞬で貫いた。だが、それで終わるわけではない。
「くそっ、こいつら、次から次へと……!」
優真は次々と鏡の力を解放し、迫り来る怪物たちを倒していった。だが、鏡の力を使うたびに体力が削られていく感覚が強まり、彼の動きは次第に鈍くなっていった。
「これ以上使ったら、俺が持たねえ……!」
その時、鏡が一際強い光を放った。それは彼の体を包み込み、彼の中に眠る何かを目覚めさせるようだった。
「これが……鏡の本当の力なのか?」
優真の目には新たな光が宿り、彼の体から放たれる光はこれまでよりもはるかに強力なものになっていた。一瞬の間に広場全体が光に包まれ、怪物たちは一掃された。
静寂が戻った時、優真は膝をつき、荒い息を整えていた。体中に疲労が広がっていたが、彼の胸には新たな決意が芽生えていた。
「これが試練なら、全部乗り越えてやる……。」
彼はゆっくりと立ち上がり、祭壇の上に浮かぶ光の玉に手を伸ばした。その瞬間、光が彼の体に吸い込まれるように流れ込み、再び鏡が光を放った。
「……次はどこに行けって言うんだよ。」
優真がそう呟いた時、広場の奥に新たな道が現れた。その道はまっすぐ彼をどこかへ導くように続いていた。彼は決意を新たにその道へ足を進めた。
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