1 - 10
何でこいつがここにいるんだ……?!
目の前に現れたデカい女を見て、今仲はパニックを起こしそうになった。忘れもしない、昨日俺を追いかけ回しやがった超能力者だ。
もしかして、俺が今日ずっと追っていた“気配”は――女バーテンダーじゃなくて、こいつのだったのか?
運転席の久保が声をかけてくる。
「そいつっすか」
「違う」
「え、じゃあ誰なんすか」
「別の超能力者だ」
「マジすか、えっ、二人いるんすか!?」
「うるせえなあ、すかすか!」
「どうするんすか」
「降りるぞ。とりあえずこいつを片付ける」
そうだ、こいつなら問題ない。こいつには、俺の〈催眠〉が通用する。動きを止めている間にスタンガンで気絶させて、いっちょ上がりだ。俺はもう逃げない。昨日の俺を超えてみせる。
「何であの人に付きまとうの?」女が言った。
「お前に何の関係があるんだ」今仲は言い返す。
「その“力”があったら人を傷つけても良いの?」
「何で答えなくちゃならないんだ」
「じゃあ」女が身にまとう“気配”が変化しはじめる。「私が“力”であなた達を傷つけても文句言わない?」
今仲は女が一回り大きくなったように感じる。もう、超能力を発動させてる。あの時みたいに全身を〈強化〉してるんだ。
5人の手下は車から降りて、半円状に女を取り囲むようにして立っている。誰も動かない。今仲の命令を待っている。
やってやるぞ、おらぁっ、と心の中で気合を入れて、今仲は女を睨む。“接続”させてしまえば、こっちのものだ。……しかし、“接続”がうまくいかない。
女は顔を伏せ、こちらから視線がわからないようにしている。今仲の超能力は視線が合わないとうまく成立しない――昨日〈催眠〉を使ったせいで、対策をされてしまっている。面倒だな……こいつごときに時間をかけてられないのに。
こうなったら、部下に襲わせて、隙を作って〈催眠〉をかけるしかない。
そう考えて、部下の男たちに命令を下そうとした時だった。
「今仲さん、人が来ます」
久保が警告する。
「くそっ」
目撃者はまずい。
ここで撤退すべきか?
そう考えながら今仲は久保が指差す方向を見る。
そして、口を大きく開けて固まる。
「私に用があって来たんでしょう?」
そう言ってこちらに歩いてくる奴は、見間違えようもない、あの、女バーテンダーだった。
声のする方を振り向いたサラは、アユミがこちらに歩いて来ていることに驚く。
「アユミ、なんで?!」
つい怒ってしまう。
「危ないって言ったのに!」
アユミは全く気にしない様子で近づいてくる。
待って。何か違う。
サラは戸惑いを覚える。目の前にいるのはアユミのはずなのに、全く別人のように感じる。
お店での彼女は、常に優しく微笑んでいて、穏やかで温かかった。
今は表情が消えている。氷のような冷たい眼差しで、男を見据えている。
「アユミ……?」
「ごめんね、サラ」
サラの隣にまで来たアユミはそう言った。サラに対しては、いつものように微笑んだ。
「ごめんって、何?」
「黙っててごめん。私も“力”を使えるの」
「……えっ?」
サラはアユミの発言が咄嗟には理解できなかった。アユミはこの“力”のことを知ってる……? それに今、“使える”って言った……?
「後でちゃんと話す」
そう言うと、アユミは男たちの方を向いた。
サラは、まだ状況を飲み込めないでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます