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 何でこいつがここにいるんだ……?!

 目の前に現れたデカい女を見て、今仲はパニックを起こしそうになった。忘れもしない、昨日俺を追いかけ回しやがった超能力者だ。

 もしかして、俺が今日ずっと追っていた“気配”は――女バーテンダーじゃなくて、こいつのだったのか?

 運転席の久保が声をかけてくる。

「そいつっすか」

「違う」

「え、じゃあ誰なんすか」

「別の超能力者だ」

「マジすか、えっ、二人いるんすか!?」

「うるせえなあ、すかすか!」

「どうするんすか」

「降りるぞ。とりあえずこいつを片付ける」

 そうだ、こいつなら問題ない。こいつには、俺の〈催眠〉が通用する。動きを止めている間にスタンガンで気絶させて、いっちょ上がりだ。俺はもう逃げない。昨日の俺を超えてみせる。


「何であの人に付きまとうの?」女が言った。

「お前に何の関係があるんだ」今仲は言い返す。

「その“力”があったら人を傷つけても良いの?」

「何で答えなくちゃならないんだ」

「じゃあ」女が身にまとう“気配”が変化しはじめる。「私が“力”であなた達を傷つけても文句言わない?」

 今仲は女が一回り大きくなったように感じる。もう、超能力を発動させてる。あの時みたいに全身を〈強化〉してるんだ。

 5人の手下は車から降りて、半円状に女を取り囲むようにして立っている。誰も動かない。今仲の命令を待っている。

 やってやるぞ、おらぁっ、と心の中で気合を入れて、今仲は女を睨む。“接続”させてしまえば、こっちのものだ。……しかし、“接続”がうまくいかない。

 女は顔を伏せ、こちらから視線がわからないようにしている。今仲の超能力は視線が合わないとうまく成立しない――昨日〈催眠〉を使ったせいで、対策をされてしまっている。面倒だな……こいつごときに時間をかけてられないのに。

 こうなったら、部下に襲わせて、隙を作って〈催眠〉をかけるしかない。

 そう考えて、部下の男たちに命令を下そうとした時だった。


「今仲さん、人が来ます」

 久保が警告する。

「くそっ」

 目撃者はまずい。

 ここで撤退すべきか?

 そう考えながら今仲は久保が指差す方向を見る。

 そして、口を大きく開けて固まる。


「私に用があって来たんでしょう?」

 そう言ってこちらに歩いてくる奴は、見間違えようもない、あの、女バーテンダーだった。



 声のする方を振り向いたサラは、アユミがこちらに歩いて来ていることに驚く。

「アユミ、なんで?!」

 つい怒ってしまう。

「危ないって言ったのに!」

 アユミは全く気にしない様子で近づいてくる。

 待って。何か違う。

 サラは戸惑いを覚える。目の前にいるのはアユミのはずなのに、全く別人のように感じる。

 お店での彼女は、常に優しく微笑んでいて、穏やかで温かかった。

 今は表情が消えている。氷のような冷たい眼差しで、男を見据えている。

「アユミ……?」

「ごめんね、サラ」

 サラの隣にまで来たアユミはそう言った。サラに対しては、いつものように微笑んだ。

「ごめんって、何?」

「黙っててごめん。私も“力”を使えるの」

「……えっ?」

 サラはアユミの発言が咄嗟には理解できなかった。アユミはこの“力”のことを知ってる……? それに今、“使える”って言った……?

「後でちゃんと話す」

 そう言うと、アユミは男たちの方を向いた。

 サラは、まだ状況を飲み込めないでいた。

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