第3話「特別クラスの華々しき面々」



特別クラスの教室は、塔の最上階にあった。


螺旋階段を上りながら、私は自分の運命の急展開に戸惑いを覚えていた。数時間前までは日本の女子高生。今や魔法学園の特別クラスの生徒。しかも、ルークの話では、この特別クラスには一学年でもたった十人ほどしか在籍していないという。


「着きました」ルークが重厚な扉の前で立ち止まる。「緊張する必要はありません。みな、個性的ですが」


その言葉の意味を理解するのに、そう時間はかからなかった。


扉が開くと同時に、強烈な魔力の波動が私を迎えた。教室の中では、複数の魔法陣が空中で交差し、虹色の光が乱舞している。


「おや、新入りかしら?」


銀色の長い髪をなびかせた少女が、優雅に歩み寄ってきた。制服の胸元には、私の知らない紋章が輝いている。


「セシリア・ロワイヤル。魔法貴族の末裔よ」


その声には、わずかな尊大さが混ざっていた。


「綾瀬まりか、です。その、日本から来ました」


「日本?聞いたことのない国ね」セシリアが眉を寄せる。「しかも転移者…ルーク、これは本当に特別クラスの器?」


その言葉に、教室の空気が一瞬凍りついた。


「セシリア」ルークの声が低く響く。「彼女は学園長直々の指名だ」


「あら、そう」セシリアは艶やかに笑った。「なら、その実力を見せていただかないと」


彼女の指先から、青い火花が散る。それは瞬く間に巨大な魔法陣へと発展し、まるで生きているかのように蠢き始めた。


「ちょ、ちょっと待って!」


私の制止の声も空しく、炎の渦が教室内に展開する。他の生徒たちは、まるで日常の光景のように席から動かない。


(これは…火属性の増幅魔法?)


セシリアの魔法陣を観察しながら、私は頭の中で計算を始めていた。複雑な図形が描く軌跡。エネルギーの流れる方向。そして、その根底にある数式。


「見えた!」


私の指が空を切る。透明な線が、セシリアの魔法陣と交差する新たな図形を描き始めた。


「まさか…私の魔法を解析しているの?」


セシリアの驚きの声が聞こえる。そう、彼女の魔法は完璧な幾何学模様を描いていた。そして完璧な形には、必ず数学的な法則が存在する。


「因数分解で、この魔法陣を分割して…」


私の展開した魔法陣が、セシリアの炎を美しく neutralize していく。まるでジグソーパズルのピースが次々と消えていくように。


教室に静寂が戻ったとき、セシリアの表情が変わっていた。


「面白い」彼女は小さく笑う。「あなた、本当に面白いわ」


その瞬間、教室の後ろから拍手が起こった。


「素晴らしい魔法戦」


振り返ると、若い男性が立っていた。しっかりとした体躯に凛々しい顔立ち。騎士のような佇まいだ。


「レオ・グランツェン。騎士団の次期団長にして、特別クラスの担任です」


彼の紹介で、私の新しい学園生活が本格的に始まろうとしていた。

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