第2話「入学試験は魔法の嵐」



入学手続きは、意外な展開を見せた。


「試験を受けていただきます」


学園長室で、髭の立派な中年の男性が告げる。ロベリウス・グランツァール。この魔法学園のトップに君臨する人物だ。


「でも、私はまだ魔法のことを何も―――」


「それが試験です」学園長は穏やかに微笑んだ。「未知の環境で、どこまで対応できるか」


広間に案内された私の前に、巨大な魔法陣が出現する。青白い光を放つその円の中で、不思議な形をした人形が次々と姿を現した。


「標準的な試験用ゴーレムです」ルークが説明してくれる。「基本的な防御魔法で対処できる相手ですが…」


言葉の途中で、最初のゴーレムが動き出した。


「きゃっ!」


反射的に後ずさる私に向かって、機械仕掛けの人形が腕を振り上げる。その瞬間、私の頭の中で何かが『計算』され始めた。


(この動きには、必ずパターンがある)


ゴーレムの動きを観察しながら、私は頭の中で軌道を分析していく。物理の授業で習った放物線。腕の振りに伴う力の分散。そして…


「あ、分かった!」


私は指先で空中に線を描く。ゴーレムの動きを数式化し、その逆数を取ることで相殺する魔法陣が浮かび上がった。


「まさか…」ルークの声が聞こえる。「動きのベクトルを解析して、相殺の魔法陣を組み上げるなんて」


青い光の帯が、ゴーレムの動きを完全に止めた。


「お見事」学園長が拍手する。「しかし、これからが本番です」


残りのゴーレムが一斉に動き出す。今度は全く異なるパターンで。


「複数の相手か…」


私は深く息を吸った。頭の中では既に計算が始まっていた。複数の方程式を連立させるように、それぞれの動きを分析し、最適な相殺パターンを導き出す。


「これなら!」


指先が空中で踊るように動く。魔法陣が幾何学的な美しさを描きながら展開していく。


「綾瀬さん、後ろ!」


ルークの警告で振り返ると、一体のゴーレムが死角から接近していた。


(計算が間に合わない!)


その時、私の直感が新しい解を見つけた。


「因数分解みたいに…これを分割して!」


展開していた魔法陣を瞬時に二つに分け、片方を後方に展開。前後からの攻撃に同時に対処する。


最後のゴーレムが動きを止めたとき、広間には深い静けさが流れていた。


「前代未聞です」学園長が静かに言った。「魔法を数式として扱い、しかも即座に実践できる」


「これは…合格でしょうか?」


「ええ、間違いなく」学園長は満面の笑みを浮かべた。「特別クラスへの編入を認めましょう」


その言葉に、ルークが目を見開いた。


「特別クラスですか?あの、魔法研究を専門とする…」


「ええ。綾瀬さんの才能は、通常クラスでは埋もれてしまう」


学園長の表情が真剣になる。


「それに、あなたの魔法には特別な意味があるのかもしれません」


その言葉が、私の新しい生活の始まりを告げていた。

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