幕間 ラフィスの日記2

『今日は魔王様が、リーファ帝国とシファス王国との戦いで御自らシファス軍の援軍として戦地へ赴いてくださいました。シファス王国軍はきっと深く感謝することでしょう。能力スキルを使って、魔王様の輝かしい活躍を見ていましたが、とても素晴らしいご活躍でした。本っ当に、魔王様は素晴らしいです。特にあの『無間地獄』などの技は、私ではとてもできないような難解な術式を組み込んで作ったものだということはわかりますが、その原理はこの私でもわかりません。(もちろん私ごときが魔王様の技の原理をわかろうとするなど、おこがましいのですが、理解したら今より魔王様のお役に立てるかもしれません。ふふっ、早く理解できるようにもっと鍛錬せねば。)そして、その技を見て敵軍の兵士はすごく驚いていましたね。ふふっ。魔王様がすごいことなんて当たり前の事実でしょうに。その無間地獄などの技を使った時の魔王様はその場にいる誰よりも美しく、輝いておられました。本当に、お美しかった。何度でも見たいものです。今度全く同じ映像をもう一度再生できる技を開発してみましょうか。ふふっ。

(中略)

ああっ、今日この日記を書くのには、書かなければならないことがあったからでした。危うく目的を忘れるところでした。。危ない、危ない。今日、この日記を書こうと思ったのは、魔王様がとても、魔王様らしかったからなのです。いえ、普段からいつもどんな時でも威厳と部下への愛をもって接してくださる魔王様は、素晴らしいお方なのですが、今日は一段といつもよりも先代魔王様のような、残虐性を秘めておられました。なぜ、そう思ったのかといいますと、なんと魔王様は今まで私が背後についてくることをお許しになられていたのですが、今日、初めて私が付いていくことを拒んだのです。一体何があったのでしょうか。私が何かしてしまったのかと思い、そう聞きましたが、そうではない、と魔王様は言ってくださいました。なんと、一人で行かなくてはならない用事が地下にあるというのです。しかし、地下にあるのは牢獄のみ、ということは魔王様は牢獄に用があるのです。今まで一度も牢獄に行こうとしなかった魔王様が行こうとしていたのです。絶対何かがあると思い、私は魔王様を少し心配に思い、能力スキルで魔王様の様子を見させていただいていたら、なんと、魔王様が地下牢で敵側にいた戦地で無間地獄に閉じ込めていた醜い愚かな人間を痛めつけはじめたのです。その時の魔王様の表情は、私には一度も向けたことのないニンマリとしたとても満足そうで美しく、残虐性を秘めていてとても、とても魅力的な笑みでした。私は、その表情を見た瞬間、その人間どもに腹を立てました。今まで、感じたことのない深い、深い感情でした。人間どもはこの感情を嫉妬、と呼ぶそうですが、私にはもっともっと別の深い怒りのように感じられました。本当に、腹が立ちました。そして、長いこと、魔王様はその醜い人間どもをとても楽しそうに痛めつけておりましたが、ついに日が暮れてしまいました。さすがに、夕食の時間なので、私が魔王様を呼びに行かせていただくと、なんと魔王様は返り血を浴びて血まみれになっておられました。私は、醜い人間どもの血が美しく麗しい魔王様についていることが、すごく許せませんでした。すぐに、その汚らしい血をふき取ってさしあげました。どうやら、魔王様はその血に気が付いておられなかったようでした。それほど、あの人間どもを痛めつけるのに夢中になっておられたのでしょうか。だとしたら、許せません。人間ごときがあの美しく、儚げで素晴らしい魔王様に気に入られてしまうなんて。

そこで私は、魔王様に、あの人間どもを私も痛めつけてよろしいですか?と聞きました。あまりにも、その人間どもが羨まし___こほん、腹が立ったので。すると、魔王様は殺さない程度にな、と言ってくださったのです!なんとお心が広いのでしょうあれほど夢中になるほど痛めつけていた相手をこの私に譲ってくださるなんて。ああ、本当に魔王様は素晴らしい方だ。私は改めてそう思いました。そして、今から私はその醜く愚かな人間どもに身の程を思い知らせてやろうと思います。ふふっ。さあ、どうやって痛めつけましょうか。』

そこまでラフィスは書き終わると、日記帳をしまい、地下牢へ向かった。

――――

ぶるっと、背筋が凍るような寒気がする。

ああ、今日はほんとうにひどい一日だった。

あれが、魔王なのか。

あの、狂った笑い方をする女が。

本当に恐ろしかった。

血肉をえぐられ、死にそうになったら回復させられ、また痛めつけられる。

精神が崩壊しそうだった。

それでも壊れなかったのは、我妻___ミオの戦争が始まる前にかけてくれた精神強化魔法のおかげである。

ああ、本当に感謝だ。

でも、本当に体のあちこちが痛い。

魔王め、本当にふざけやがって。

「いつか絶対に復讐してやる___」

気が付いたら凍って動かなくなりかけている口でそう呟いていた。

「おや、誰にですか?」

牢屋の外の闇の中から、一人の男が現れた。緑の髪に緑の瞳で、美しい容姿だったが、その瞳の奥には強く深い怒りが潜んでいて、その表情は秘めた穏やかな笑みだった。すごく、恐ろしい者だった。

そして、その数分後、魔王城に声なき叫びが響き渡り、翌朝をひどくゆがんだ姿でルズやヒロイン、攻略対象達が迎えたのは言うまでもない。

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