第6話 魔王は戦場を無双状態!?

私が、リーファ戦争の戦地へ行くと案の定、シファス王国の将は目をこれでもか、というくらい見開いて驚いていた。信じられない、と言わんばかりに自分で自分の頭をぺちぺちとたたいていた。そんなに魔王が戦場に来ることが珍しいのだろうか。あの日記帳の中にいた元、魔王は戦場に来たことがなかったのだろうか。まあいいか。

もう、魔国の鬼の軍団__リミロラ軍はリーファ帝国側の軍と戦っていた。

とりあえず、戦おうと思った。

ふと、戦況を把握するために、飛ぼうと思った。

ふうっと、空へ飛んでみると、やけに派手な戦いをしている人たちが見えた。

――攻略対象達とヒロインだった。

よしっ、苦しめに行ってあげよう。

わたしは、すうっと攻略対象達とヒロインの所へ向かい、

『無限地獄』

と、唱えた。

すると、攻略対象達とヒロインはすうっと背後に現れた真黒く禍々しい渦に引き込まれて、跡形もなく消えた。それを見ていたものは、皆、驚いて、周りをきょろきょろとみている。どうやら、術を使ったものを探しているらしい。そして、その見渡している隙をついてリミロラ軍がリーファ帝国軍を一気に殺す。

ふと私は地上を見ると、リーファ帝国軍30人ほどに囲まれて苦戦している魔人一人を見つけた。数で負けている。たしか、あの者は新入りだったか。

仕方がない、早く帰って攻略対象達とヒロインを苦しめてあげたいし一気に敵を片付けよう。

私は、

『死ね、血色爆炎』

と、唱えた。

すると、敵_リーファ帝国軍の兵士がいるところに炎が現れて、その炎がリーファ帝国軍の兵士のみを焼いて殺していく。兵士は、う、がぁぁ、と声にならない痛みを現したかのような音を立てて灰となって消えていった。

何の感情もわかなかった。

だって、きっとこの戦場にいるリーファ帝国軍側の兵士は99回とも私の濡れ衣による断罪を見て、喜んだ奴ら、黙認した奴らである可能性がかなり高いから。

だから、何も思わなかった。

涙一つ流さなかった。

こんな私を、人は冷たい人だって言うかもしれない。

でも、攻略対象達やヒロインみたいに苦しめながらじわじわと痛めたりしようとしなかっただけ私は優しいと思う。かなり、我ながらに甘い性格だと思う。

私は、すっと真っ赤に染まった戦場を見つめた。

魔国のリミロラ軍がこちらを見ている。

私は地面に着地した。

歓声が上がった。

時と似た、歓声。

私は、不快感を覚えて眉をひそめた。

私が__ああ、血に濡れた、痛い、痛い、痛い、痛い。あの時と、

嫌だ。

頭が、くらくらとする。

それを見ていた、リミロラ軍の将_リミロラが、

「どうかなさいましたか?」

と、心配した様子で聞いてくれた。

「うっ、あ、ああ、大丈夫だ。少し、嫌なことを、思い出しただけだから。」

「そうですか?」

「ああ。大丈夫、だ。」

「何かあったら、何でも言ってくださいね。」

リミロラは心配そうにこちらを見ていた。

本当に、優しい子だなあ。リミロラ。

「ちょっと、今日はもう帰らせてもらう。あとは任せた。」

私はリミロラにそう言って、魔王城に『転移』した。

「お帰りなさいませ!!」

待っていたかのようにラフィスが出迎えてくれた。

「ああ、ただいま。」

私はそう言って、地下の牢獄へ向かう。

「えっと、魔王様、どちらへ?」

「地下だ。」

「はい、そうなんですね。」

ラフィスがそう言って、ついて来ようとしたので、

「ついてこなくていい。」

と、言った。

ラフィスが、驚いたような少し傷ついたような顔をして、

「私、何かご機嫌を損ねるようなことをしてしまいましたか___?」

と、聞いてきた。

捨てられそうになった子犬みたいな目だった。

少し可哀想になり、

「そういうことじゃない。少しやることがあって、一人で行きたいんだ。戻ってきたらついてきてもいいから。」

と、言った。

「_____、そうなんですね。わかりました。」

あきらかに、しょぼん、とした様子でラフィスはそう言った。

すごくかわいそうではあるが、仕方がないのだ。

ラフィスには、攻略対象やヒロインを痛めつけているところを見てほしくないし。

そう思い、私は地下牢に向かった。

地下牢獄につくと、からの牢屋がいくつかあった。

その牢獄の中に、攻略対象達を一人ずつ放りこんだ。

「ぐはっ」

「へぶっ」

「ひゃあっ」

「うわぁっ」

それぞれ、違う声を上げて牢獄の中に入った。

もちろんしっかりと牢獄の扉を閉める。

「お前っ!いったい何のつもりだ!!」

第一王子_ルズがそう言って私をキッと睨んだ。

そういえばだけど、この世界線には悪役令嬢はいるのかな?

「あなたたちの国に悪役令嬢__は、いる?」

「ああ、いるがそいつがどうした!?」

「あら、そうなの。」

もしかしたら、他の子が悪役令嬢としてのループにまた巻き込まれているのかもしれない。99回もまた、殺される犠牲者がでるのだろうか。あ、でもあの天使はバグに対処しようとしているみたいだったし今度はバグは起きなくて、ちゃんと一度で死ねるのかな。だとしたら、今、悪役令嬢になっている子は良かったね、って感じだね。

まあ、どうでもいいか。

私にはもう関係ないことだし。

私は、虫の魔物を大量に『無限空間』から取り出して、ルズにぶっかけた。

ちなみにその虫の魔物はムカちゃんとよんでいる。これでわかる人はわかるだろう。毒持ちである。

「ぎゃあああああ!」

そして、それをくらったルズが悲鳴を上げたのは言うまでもない。

毒を持つ針に刺され、ルズはすごく醜い有様になった。すごくいい気味だった。

そして、今度は口の中に他の虫の魔物を次々と入れていってみる。

「う、あ、ぁ、ぁぁ。」

声にならない悲鳴がその場を満たす。

「ははっ。ふふっ。あははっははっ。」

思わず私は高笑いのような笑い方をしてしまった。

「本っ当に、いい気味だわあ。」

あ、でもほかの攻略対象達もちろんヒロインも痛めつけてあげなくちゃ。ふふっ。

そう思い、私はしっかりとルズのいる牢屋にカギをかけて、ヒロインのほうへ行った。ヒロインはがくがくとおびえたような瞳でこちらを見ている。すごくいい気味だ。もしかしたら、ルズの悲鳴が聞こえていたからかもしれない。さて、どう痛めつけてやろうか。私は、にんまりと笑うと、ルズと同じようにまずは虫の魔物で痛めつけて、それから刃物でザクザクと、えぐり、血が大量に流れすぎて死にそうになったら回復魔法をかけて、またざくざくと血肉をえぐるのを開始し___といったことを繰り返していると、気が付いたら日が暮れていた。

一人では日が暮れているのに気が付かなかったかもしれない。――というのも、私がなかなか帰ってこないのを心配したラフィスが私を見つけて、声をかけてくれたようなのだ。ラフィスがニコニコと笑って、こちらを見ている。なぜか上機嫌なようである。一体どうしたのだろうか。まあ、いいか。

私は、明日も、明後日も、ずっと毎日攻略対象とヒロインたちを痛めつけてやろうと思った。すると、ラフィスが、

「私もあの人間どもを私も痛めつけてよろしいですか?」

と、尋ねてきた。

どうやら私が攻略対象やヒロインを痛めつけていたところを見ていたらしい。

見られたくなかったのに。

理性を失い、感情的に痛めつけていた姿を見られた少し恥ずかしい。

「殺さない程度にな。」

殺されてしまったら私が毎日痛めつけることができなくなってしまうので、そうくぎを刺した。

すると、ラフィスは微笑んで、

「はい、かしこまりました。」

と言った。

なぜだかその穏やかなほほ笑みにはとても、恐ろしいものが感じられた。

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