第9話

翌朝は梅雨の中休み。


晴天に恵まれてむしろ、暑いくらいになった。


「おはよう」


着替えてリビングに降りれば、姉はサービス業なので今日も出勤スタイル。

父と母はゆったり休日モードだった。


「おはよう、有紗。ご飯、いま出すわね」


そういうと母はキッチンへ。

私はダイニングテーブルの自分の席に着くと、向かいの父が声を掛けてきた。


「今日はお友達とお出かけなんだろう?楽しんでおいで。もしなにかあれば遠慮なく電話してな?」


父も元々なにかと、末っ子の私に甘い。


そんな会話の脇で出勤準備を整えた、お姉ちゃんがハッとすると鞄に手を突っ込むとバッと差し出すなり言う。


「あ、忘れてた! はい、有紗。お姉ちゃんからささやかに。今回は特別よ!」


お姉ちゃんはウィンクとともにポチ袋をパシッと渡してきた。


「えぇ!? お姉ちゃん、いいのに!」


「有紗は普段無駄遣いしないけど、昔の私みたいにバイトしてる訳じゃないしね! お出かけの足しにしなさい。じゃあ、私は行ってきます!」


そうしてお姉ちゃんはバタバタと出勤していった。


私も今日は急ぎめでご飯を食べると洗面台で化粧とヘアセットをして、部屋に戻りカバンに荷物をまとめて準備を済ませて玄関へ向かう。


リビングに一旦顔を出して、一声かける。


「お父さん、お母さん。それじゃあ、行ってくるね! 帰りもしかしたら夕飯も済ませるかもしれないから、要らない時は連絡するね!」


「ハイハイ、あまり遅くなるなよ!」

「気を付けて行ってらしゃい」


笑って送り出す言葉をくれた両親に、私も微笑んで


「うん! 行ってきます!」

そう返事をして、家を出た。


自宅から五分のバス停からバスに乗って駅まで十分。

一昨年までは自転車で三十分だったので自転車で移動していたけれど、去年からまた症状の進行があったので自転車に乗るのはやめた。


それからは通学もバスと電車である。

集合場所は学校の最寄り駅。


私の自宅の最寄り駅からは二駅先になる。


日菜子と要くんは学校の駅が最寄りで徒歩通学。

蒼くんは電車でだと一駅だけれど、電車を使うより自転車の方が早いらしく自転車通学である。


それを踏まえて集合場所は学校の最寄り駅になった。

だってそこまでは定期もあるから移動にお金がかからないしね。


集合時間の五十分前に家を出た私は、乗り継ぎが上手く行き集合の十分前には学校の最寄り駅に着いていた。


そこには既に、日菜子と蒼くん、要くんの姿がある。


蒼くんと要くんは背が高いので二人並ぶと目立つ。

しかも、タイプの違うイケメン二人に可愛い系の日菜子が一緒にいると、注目を集める三人組になる。


改札向こうから見ていたら、視力の良い日菜子が私に気付く。


「有紗! おはよう!」


ぴょんぴょん跳ねる日菜子は、今日も可愛い。

昨日買った水色に花柄のワンピースが、よく似合っている。


改札を抜け、私は皆の元へと足を向けた。


「皆、おはよう! 今日ちょっと暑いくらいだけど、晴れて良かったね」


そう声をかければ、皆笑って答えてくれる。


「おはよう、有紗ちゃん。本当に天気が良くてお出かけ日和だね!」


ニコニコの蒼くんは日菜子と手を繋いでいた。


「おう、暑いからな。体調に少しでもなにか感じたらすぐ言えよ?」


そう言うと、要くんは少し心配そうに私の顔をのぞき込んだ。


「へ? さすがにそんなにヤワじゃないよ?」


「いや、俺らに比べたら有紗は確実にインドアだろ?」

その言葉には確かに、と頷いてしまう。


なにせ、三人は運動部だから、基礎体力から違う気がする……。


「ほら、行くぞ! あのカップル、周り見えてないからな?」


気付けば日菜子と蒼くんは先を歩き出してる。


「ちょっと、今日は四人で出掛けるんでしょ! 私と要くんを置いてかないで!」


そう大きく叫んでいると、私の手を要くんが掴み歩き出した。

その歩調は、私の一歩に合わせてゆっくりだ。


「コラ、そこの体力バカども! 有紗はインドアのお姫様だぞ? こっちに合わせろ」


そんな要くんの物言いに、日菜子がすぐさま噛みつく。


「うわ! 私だって女子なのに!」

「いや、お前マラソン大会で男子混じりで三位とかだから規格外だろ?」


「そう言えば、日菜っち俺の次だったもんね!」

「蒼くん!? 蒼くんまで私を規格外扱い!?」


私たちは賑やかに話しつつ目的地の海沿いの水族館に向かうために、電車に乗ったのだった。


電車でも、私達の会話は尽きること無く終始話しては笑いあっていて、気付けば電車は海が見えるところを進んでいた。


「わぁ! 天気が良いからか、海がキラキラ光って見える!」


外の景色に私が思わず声を上げると、皆も車窓から見える景色に視線を向ける。


「ホントだ、キラキラだね! 水族館のあとで、少し砂浜で遊びたいくらいだわ」


さすが、体動かすのが大好きな日菜子らしい言葉。


「遊ぶと言うよりは砂浜散策くらいだろうよ。遊び道具も何も無いしな」


サクッと突っ込むのは要くん。

さすが長年の付き合い、会話のテンポが二人は早い。


そうこうするうちに、水族館の最寄り駅へと辿り着いた。

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