第8話

買い物を済ませ、お茶をした後は明日の予定もあるので日菜子と駅で別れて家に帰る。


「ただいま」


そう声を掛けて帰宅すると、家に居たお母さんが顔を出す。


「有紗、おかえりなさい。明日は本当に大丈夫?最近遠出は控えていたでしょ?」


友だちと距離のある場所に出掛けることに不安そうなお母さん。


「大丈夫よ!まだそんなに大変なことになってるわけじゃないんだから。むしろ友達と行きたかった所に一緒に行けるのよ? いい思い出になるわ」

そう笑顔を向ければ、お母さんは不安そうなものの納得はしてくれたみたい。


「帰り、疲れが出てしまったら連絡しなさい。迎えに行くから」


お母さんの心配も理解出来るので、私はそれに素直に頷き答えた。


「分かった。疲れてきつく感じたら迎えに来てって連絡するね」


私の返事を聞き、お母さんはにっこり笑っていう。


「えぇ、明日はお母さん休みだから。遠慮せずに疲れたら連絡しなさい」


「うん、ありがと。夕飯まで部屋で勉強してるね」


自分の部屋に入って、買ってきたスカートを取り出して姿見に映す。


「うん、このスカートは買いだったね」


明日のコーディネートをまとめて置くと、私は自分の机に勉強道具を広げて復習と予習を夕飯までの時間にして過ごす。


コンコンと部屋のドアをノックする音がすると、ドアを開けてお姉ちゃんが顔を出した。


「有紗、ご飯よ!」


「お姉ちゃん、おかえりなさい。今日は早かったのね」


姉の和紗は私より六つ歳上で社会人二年目の二十四歳。

栗色に染めた髪にゆるいパーマを当ててフワッとしたミディアムヘアの、見た目は可愛い系女子だ。

身長も、私より五センチ低い。


なので、私が綺麗系の格好をして姉妹で出掛けるとなぜか私が姉に間違えられる。

お姉ちゃんは童顔でもあるので、下手すると私と変わらない年代と間違えられるのだ。


しかし、スーツにキッチリメイクをしてれば、お姉ちゃんは間違いなく大人の女性である。


「明日、珍しくお友達と遠出なんだって?」


どうやら帰宅してから明日のことについてお母さんに聞いたらしい。


「うん。海沿いの〇〇水族館に行くの」


「あぁ、あの水族館! この間宏樹と行ったわ。綺麗だしデートで行くならいい所よ!」


お姉ちゃんはどうやら明日行く予定の水族館には、大学時代からの彼氏と行ったことがあるらしい。

宏樹さんは我が家にもすっかり馴染んでいる。

優しく穏やかで、カッコイイお兄さんだ。


「友達カップルのデートに付き合わされるだけだよ?」


そう呆れ顔で返せば、ニマニマと笑ってお姉ちゃんは言う。


「それでも、相方になるような男の子も一緒でしょ?ダブルデートじゃない!若いって良いわ!」


お姉ちゃん、あなたもまだ十分若いと思う。

そう、心の中で突っ込んでおいた。


絶妙な会話を繰り広げたあと、お姉ちゃんとリビングに戻り家族とご飯を食べる。


その後はお風呂に入り、部屋に戻って一息ついた頃。

また、部屋のドアをノックしてお姉ちゃんが来た。


「ん? なにかあるの?」


そう聞くと、ふふっと笑ってお姉ちゃんは手を差し出した。


「はい、これ。有紗にあげるわ」


そう言って差し出されたのは、お姉ちゃんが大事にしていたオープンハートのネックレス。


「え?これ気に入ってたじゃない!」


びっくりして言うと、ニコッと笑ってお姉ちゃんが言う。


「気に入ってたけど、ちょっともう付けるには私には可愛すぎるわけよ! だから有紗にあげるわ」


チェーンの留め具を外し、私の後ろに回るとネックレスを首にかけて付けてくれる。


付け終わると、お姉ちゃんが前に回ってきて納得の表情で一つ頷くと言った。


「うん、やっぱりもうこれは有紗の方が似合うわね! あげるから付けて行くといいわ」


ポンと肩を手を置き、ウィンク一つするとお姉ちゃんは離れてドアを開けつつ振り向いて一言。


「ふふ、有紗!それさ、宏樹とのお付き合いにも縁のあった物なのよ。恋愛のご利益はお墨付きよ。有紗も恋をしなさい。人を好きになるって素敵な事なの。だから、初めから諦めちゃダメよ」


そう私に言ったお姉ちゃんは、いつになく真面目な顔をして言った。

特に話していた訳では無いのに、私が諦めてることを分かっていて、今回のお出かけを聞いてこのネックレスをくれたみたい……。


気持ちは有難く受け止めよう。

だから、ネックレスに触れながら私は心から返事をした。


「ありがとう、お姉ちゃん」


すると、お姉ちゃんは柔らかく微笑んで

「明日は楽しんでらっしゃい」


そう告げて、部屋を出て行った。


私自身も明日のお出かけは楽しみだったので、色々考えつつもベットに入り眠りについた。

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