第10話
電車を降りながらも、私たちの会話は途切れない。
「そうだね。日菜っちはほっとくと海に突撃しそうだから、捕まえとかないと」
クスクス笑って言う蒼くんも、だいぶ日菜子との距離がぐっと近くて親密度が上がった感じだ。
「おう、こいつ犬並にはしゃぐから綱つけとけ!」
「要! 本当に私の扱い酷くない!?」
「日菜子だからな」
フッと鼻にかけつつ言う要くん。
それにカチンと来たらしい、日菜子は蒼くんに訴えだした。
「蒼くん! 笑ってないで、なんとか言って!」
「うん、でも日菜っち喜びでテンションあがると鉄砲玉みたいにポーンと飛んでくでしょ?」
まさかの、彼氏からも肯定的発言が出ると、日菜子も項垂れつつ認めざるおえなかったようで、苦い顔して呟いた。
「……、うぅ、言い返せないぃ……」
悔しそうな日菜子を見て、私達には思わず笑いが溢れる。
「日菜子、今日は散策にして。多分三人のペースに合わせていったら私、バテちゃう」
多分いまは、要くんが日菜子に声を掛けてセーブしてくれてる。
それを聞いて察した蒼くんが、手を繋いだ先にいる日菜子を突っ走らないように止めてくれてるのだ。
おかげで今のところ疲労することなくいられている。
要くんが私の一歩に合わせて歩いてくれてるのもあるからだ。
しかも、手を繋いでいる……。
さて、これはスルーして良いのだろうか?
駅から水族館に向かって歩きながら、ついつい視線の先はいつの間にか自分と繋がれた要くんの手。
電車を降りる時に繋いで掴まれたら離されぬまま、気付けばそのままで歩いてきてしまった。
これは突っ込むべき?聞くべき?
ぐーるぐると考えていたら、横からプッと声がする。
横を見上げれば、笑いを堪えたような顔した要くん。
「なに? なんかおかしな事あった?」
そう聞けば、笑いを抑えつつ返事が来る。
「だって、有紗が百面相してるから。面白くって……」
言いながら、とうとう声を出して笑い出した要くん。
「そんなに笑わなくてもいいと思う!」
「うん、ごめん。でも有紗面白いし、可愛いわ」
言葉を理解すると、頬がカッと熱くなってきた。
なに、サラッと可愛いとか言っちゃうかな!
「それで、コレは? いつまで繋いでるの?」
やっとの思いでこの状態を聞くと、
「ん? 置いてくのも嫌だし、繋いでないと上手く歩幅合わせずらいし。ダメか?」
聞き方がずるいと思うのは私だけ?
でも、そんな言い方されると仕方ないから、ふぅと一つ息を吐き出して答えた。
「そう言われたらダメなんて言えない! けど、こうして歩くのはちょっと恥ずかしい……」
素直に感じたことを言えば、要くんはそれは楽しそうな顔でいった。
「そっか。ま、恥ずかしがってるの見てるとこっちは楽しいよ。とりあえず今日はこの感じで!」
なんだか、笑顔で押し切られてしまったのだった。
駅から徒歩10分程で辿り着いた水族館。
入口で蒼くんが四人分のチケットを渡して、中に入る。
中は照明は落とし気味で、少し薄暗い。
「なんか、間違って海の中入っちゃったみたいな気分になるね」
ゆっくりと水槽を見て回りながら呟く。
「やっぱり有紗は感性が豊かなのな。物をじっくりと見てるよな」
「そうだね、見るのが好きなの。今見えるものもいつか形を変えたり、見えなくなったりするかもしれないじゃない?だから、見えるものはしっかり見ておきたいなと思うの」
そう、私は微笑みながら返していた。
要くんは少し驚いたような顔をしたけれど、ニコッと笑うと、手を引きつつ言った。
「そっか。じゃあ今日はじっくり見て楽しもう」
「うん!」
私達はゆっくりと各水槽を見て回り、ギリギリの時間になってショープールへ辿り着く。
そこでイルカやアシカ、シャチのショーを堪能した。
オットセイは巨体のわりに良く動くし、シロイルカの頭はプルプルしていた。
イルカのジャンプは迫力満点。
とっても楽しい時間を過ごした。
また館内に戻ると巨大水槽の前でじっくり、泳ぐたくさんの海の生き物を見ていた。
この水槽はサメにマンタ、イワシに亀と実に様々な生き物が悠々と泳いでいる姿が見られる。
飽きること無く見続けられるけれど、そろそろお腹がすいてきた。
「そろそろ出て、お昼食べに行こうか?」
その蒼くんの声がけに、皆で頷いて賛成して水族館を後にした。
ちゃんとお土産物屋さんで、お姉ちゃんや両親へのお菓子を買って出た。
皆も、それぞれ家族にお土産を買ったみたい。
荷物片手に海沿いを歩いて、橋を渡って島に入る。
海にはサーファーが居たし、観光客も多い。
この近辺は観光でも有名な場所なのだ。
その島も観光地だから、そこそこ人が居る。
そんな中で歩いて見つけた定食屋さんでお昼にした。
この地域で話題のしらす丼は新鮮で美味しかった。
男の子達はしらす丼プラス刺身定食と言う組み合わせ。
中々のボリュームだったのに、みるみるうちにお皿は空になり、彼らはペロッと平らげた。
運動部男子の食事量は凄いんだなぁと、見ていて気持ちいい程の食べっぷりだった。
「あれ? 有紗、食べきれそう?」
ゆっくり食べていた私だが、そろそろ実はキツくなっていた。
「要くん、ちょっと厳しいかも……」
素直に食べ切れそうにないことを伝える。
「無理すんな? ダメなら俺まだ入るから食べるしな」
そういってポンポンと頭を撫でてくる。
向かいで食べてた日菜子と蒼くんが顔を見合わせて、私達に言った。
「要と有紗の方がよっぽど仲良しカップルに見える!」
ふたりで声を揃えて、ニマニマ顔で言うので私は照れくささから勢いよく、
「そんな事ない! 君らの方がラブラブだから!」
と突っ込んでおいた。
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