第1章#03 紅い宝石
「これで全部かな?もう無いよな。……ん?何だ?」
荷物を車に詰め終わった晴人だっだが店内が変に騒がしい。何だろうと思いまた店内に入るとレイカがある一点を見つめ震えながら立ち尽くしている姿が目に入った。
どうもその様子からただ事ではない事を察し、側に駆けつけながら話しかける。
「レイカさん、なにがあったんです!?」
レイカにとって忘れられない顔がそこにある。口元を抑えながら驚愕の表情となり、身震いしながらも小声で思わずつぶやいた。
「……な、なんでここに!?」
晴人は視線の先を見ると信じられない光景が目に入ってきた。血まみれの人間がいくつも横たわり、その中に先ほどまで元気に話していた母親と妹の姿が混じっていた。そしてすぐ側には悪魔のような姿の魔者がせせら笑いながらこちらに気づき振り返った。
「母さん!彩花!」
その光景に愕然とする晴人。だが家族が酷い目に遭わされた事に段々怒りがこみ上げてきた。
「……何やってんだよ、お前!!!」
飛びかかっていく晴人の背中に「ダメ!逃げて!」の声が聞こえてきたがお構いなしに殴りかかる。だがそれを軽くいなすように避ける魔者は余裕綽々。
「動きが良いな、腑抜けばかりのこの世界じゃ珍しい」
相手が鉤爪を振り回して応戦しだすと途端に劣勢になり段々頬や肩に軽く切り傷が付いた。得物を所持する相手には素手で戦うこと自体不利なのだがそれでも隙をうかがって一撃を叩き込むために辛抱する。
鉤爪が真っ直ぐに心臓めがけて突き刺そうとするところに隙が見えたのか、今だとばかり態勢をかがめ左腕で弾くように攻撃を逸らすと相手の腹部ががら空きになった。
「イャアアアーッ!」
雄叫びを上げながら渾身の一撃を魔者の腹部に叩き込む。
だがしかし相手にはまるでダメージが見られずむしろ叩きつけた拳に強い痛みがじわじわこみ上げてきた。晴人はウソだろという表情で愕然とする。
「残念だったなにいちゃん、俺ら魔族にはそんなモン通用しないんだよ」
その言葉と同時に鉤爪が晴人の左肩から腹部にかけて袈裟懸けに引き裂かれる。
「うわぁあああっ!!!」
「晴人君!!!」
大量の血しぶきと血を吐きながらその場に崩れ落ちる姿にレイカは思わず叫んだ。
その姿を見て鉤爪は一瞬おや?という表情になるが、それは次第に笑みへと変わって行く。
「やっと見つけたぞ、ここにいたのかレイカ・ハーミット。もっと時間が掛かると思っていたが俺も運がいいや」
「何でこの世界にいるのよ!まさか私を追いかけてここまで来たの!?」
「お前を連れてこいとの上からのご命令だ、例の宝石と一緒にな。テメエには王宮での貸しがあるから腕を切り落としてから魔王様の元へ引きずり出してやる」
恐怖心から後ずさりするレイカにじわりじわりと詰め寄り魔者が鉤爪を振り上げる。
「……ま、まて……」
魔者の足首を掴む手があった。血で赤く染まった瀕死の晴人が弱々しくもレイカを逃がそうとして抵抗を見せていた。
「チッ、死に損ないが」
串刺しにしようと鉤爪を立てた瞬間、魔者の目の前で激しく眩しい光が放たれ周囲を真っ白にした。レイカが投げた宝石による目潰し狙いの魔力攻撃だった。
「クソッ、目がぁーっ!テメェまたやりやがったなコノヤロウ!」
両目を押さえつけながらその場でのたうち回る魔者に放たれた光から周囲から段々人が集まって騒ぎになってきた。
流石に大勢でまずいと思ったのか魔者は目を押さえながらその場を逃げるようによろけながら立ち去っていった。
「晴人君!」
即座にその場に駆け寄ると晴人は息も絶え絶えでいつ果ててもおかしくない状態だった。慌てて抱き上げると傷口に手を当てて治癒魔法の温かい光を当てる。
「死なないで晴人君!しっかりして!」
励ますように声をかけるが魔法の効果が利いてるようには見えず、癒やしの光も弱まっていく。絶え絶えだった息も段々しなくなってきた。
「この世界では魔力の出力が弱い、ダメ、ダメよ、死んではダメ……」
命が尽き果てようとしている晴人へ涙目になり必死で治療を試みるも効果は見られない。
「……もうアレを使うしか……」
レイカはなんとしても助けたい想いから首から提げていた赤い宝石を取り出すと、固定金具から取り外し晴人の傷口に埋め込んだ。
「お願い!助かって!」
ふたたび治癒魔法を祈るように施してしばらく経つと、晴人の全身に赤い光りが走り抜け、それと同時に傷口が段々塞がっていき、喉に詰まった血を吐き出すかのように急にむせだした。
「……ゲホッ、ゲホッ」
「よ、良かった、これで助かるわ。でも……」
段々顔色が良くなり命を落とす心配が無くなってきたとき、レイカは悲しい表情で話しかける。
「ごめんんさい晴人君、こんなことになってしまって……私がこの世界に来てしまったことが全ての原因……。有里子さんと彩花ちゃんもこんな事にならずに済んだのに……もう君の側にはいられないわ……」
すすり泣きながら晴人の体を地にゆっくり下ろすとその場から駆け足で去って行った。
…………
…………
―何故立ち向かった?
晴人が遠い意識に彷徨う中、頭の中に謎の声が聞こえてくる。
(……誰だ?)
―凶悪な相手に力が及ばぬと知っていながら、何故お前は立ち向かっていった?
(誰なんだ一体……)
―今はとりあえずその傷を治してやる。
…………
…………
「……ん……?」
どれくらいの時間が経っただろうか、長い眠りについていた晴人が目を覚ますと白い天井が目に入ってきた。
身体には包帯が巻かれベッドの上にいる。どうやら病院にいることは理解できた。
最初は麻酔もあって少しボンヤリとしていたが、眠りにつく前のレイカの言葉が途切れ途切れ頭に浮かんできて自分の身に何があったのかを段々と思い出してきた。
「……ハッ!母さん!彩花!」
慌ててベッドから起き上がるが傷口がまだ完全に塞がっておらず痛みが走る。だがそれでも二人の安否が気がかりで無理にでも起き上がろうとする。
傷口を押さえながら病室を出ようとすると若い女性の看護師に偶然出くわした。
「え?ち、ちょっと、患者さんダメです!まだ傷口が……」
「家族が心配なんだ、ここで寝てる訳にはいかないんだよ!」
「とにかく落ち着いてください」
「そうだ、看護師さん、俺の家族はどこにいるの?この病院にいるんだよね?」
「……とにかく今は安静に……」
居ても立っても居られず、振り払い気味に病室を出て行き強引に突き進んでいく。オロオロしながらついて行く看護師が安静にするよう促すもいっこうに耳を貸す気が無い。だが病院受付の場まで苦痛の顔でたどり着いた時、近くに
あったテレビ画面のニュースアナウンサーの声が耳に入ってきて立ち止まる。
「繰り返しお伝えいたします。本日午後二時頃、○○ショッピングモールで発生した通り魔殺傷事件で事故に遭った八名の内、七名の死亡が確認されました」
晴人はテレビ画面を見ると、先程まで買い物をしていた建物が写っている。
「……これって、まさか……」
愕然とした状態で画面を眺める晴人に後ろから付いてきた看護婦が言いづらそうにつぶやいた。
「……この殺傷事件の被害者で命が助かったのは、あなただけです……」
晴人はその場から暫く動くことが出来なかった。
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