聖なる夜のサンタの恋

平 遊

サンタクロース論争の行く末は?

 サンタクロースは存在するか否か。

 クリスマスが近くなると、ほとんどの子供は一度はこの論争に参加した経験があるのではないだろうか。


 ここに今正に、その論争真っ只中の小学生がふたり。日付は12月24日。そう、クリスマス・イブだ。


「なに、りょうったら小6にもなってまだサンタクロースなんて信じてるの?」


 そう冷めた顔で言ったのは、小6の叶実かなみ。言われた相手は、同じクラスの涼だ。


「いるったらいるんだよ! お前ほんとに夢の無いヤツだな」

「あんたって無駄に暑苦しいのよねぇ、本当に。名前は涼しいのに」

「お前だって、名前は夢があるのにな」


「「ふんっ!」」


 叶実と涼は、何かにつけてこんな感じで言い合いをしている。その割には、良く2人で行動を共にしている。お互いの家が同じマンションにある、というのも大きな理由ではあるが、どうやらそれだけではないようだ。


「そんなに言うんだったら、証明してみなさいよ、今夜」

「ああ、いいぜ」


 同じマンションへと入り、同じエレベーターに乗る。先に降りるのは涼だ。


「楽しみにしてろよ、叶実!」


 閉まるエレベーターに向かって、涼はニヤリと笑う。


「もちろん楽しみにしてるわよ、涼」


 閉じたエレベーターの中で、叶実もニヤリと笑った。



 その夜。

 涼は両親が眠っているのを確認すると、手に小さな包を持ってコッソリ家を出た。向かった先は、叶実の家。

 叶実の家の玄関先にプレゼントを置いて帰るつもりだった。


「サンタクロースはいるんだよ。いないなんて言うなよ。サンタクロースは、みんなの心の中にいるものなんだ。いるって信じれば、絶対にいるんだ」


 叶実の家は、両親が離婚して母親が一人で叶実を育てている。離婚までは父親がサンタクロース役をしていたのだろう。父親がいなくなったその年から、サンタクロースは来なくなった。叶実がサンタクロースを信じなくなったのは、その年からだった。

 叶実の様子は両親の離婚後も、それまでと変わらないように見えた。けれども涼は気づいていたのだ。叶実がひとりきりで寂しさを抱えていることに。


「お前が信じられないって言うなら、俺がお前のサンタクロースになる。だから、信じてくれ、叶実」


 叶実の家の前に辿り着いた涼は、目を丸くして暫し玄関の前でじっとドアノブを見つめた。ドアノブには、大きめのニットの靴下がぶら下がっていたのだ。


「なんだよあいつ……ちゃんと信じてたんじゃんか」


 苦笑を浮かべ、手にしていた包を靴下の中に入れようとして、そこに折りたたまれた紙が入っていることに涼は気付いた。取り出した紙を広げてみると、そこには――


 涼サンタへ

 いつもありがとう。

 これからもよろしく。

 叶実


「叶実……」


 靴下に包を入れると、涼は紙を丁寧にたたみ直して、大切そうに胸に当てながら家へと戻った。

 静かに部屋のベッドに入っても、涼はなかなか寝付けそうになかった。胸が痛いくらいにドキドキと鳴っている。


「バカ。叶実のバカ。なんだよあいつ、可愛すぎだろっ」


 その日。

 涼がようやく眠りにつけたのは、明け方になってからだった。



 その後、涼と叶実がどうなったかって?

 成長した2人は結婚して子供を授かり、子供たちのサンタクロースになっていますよ。


「叶実、いつまでそれつけてんだよ」

「いいでしょ、別に」


 叶実の首元には、古ぼけた安物のネックレスが。


「涼サンタからの、初めてのプレゼントなんだから」


 end

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聖なる夜のサンタの恋 平 遊 @taira_yuu

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