第6話:ライトニング領でパーティ
【13】ライトニング領でパーティ(1)
10歳になって数ヶ月が経った、ある日。
俺は、母さん達の指示で一日中、部屋の中で待機することになった。
母さん曰く、「気難しい客が来るから」だそうだ。
とは言え、一日中部屋の中にいるのはヒマだ。
部屋の中で出来ることと言えば、昼寝、読書、それから家庭教師から出された宿題くらいだ。
宿題はもう終わらせたし、特に面白い本はないから読書する気にもなれない。
ヒマを持て余した俺は、ベッドの上でゴロゴロと惰眠を貪っていた。
あぁ、ヒマ。退屈。
これも全て「気難しい客」とやらのせいだ。
母さん達が言うくらいだから、相当面倒な相手なんだろう。
....そういえば、この世界の魔法は何でもアリなんだっけ?
だったら母さん達の様子をこっそり覗く、なんてことも出来るのか?
試しにやってみると、あっさり出来た。
最早、出来ても大して驚きはしない。
丁度、ライトニング邸に客人が来たところで、母さん達はもてなしているところだった。
「あれ?コイツら....」
そこには俺の見知った顔もあった。
ライトニング邸に来たのは、タクトとライラだった。
それだけじゃない。
若干老けてはいるが、勇者サマご一行の面々もいるじゃねえか!
あとは、知らないガキ二人か。きっと誰かの子どもだろう。
二人とも赤毛だが、勇者サマご一行の中に赤毛のヤツっていたっけ?
母さんが言っていた「気難しい客」というのは、一体誰のことだ?
様子を探るために、会話も聞き取った。
「リファルさんは、本当に久しぶりね。最後に会ったのは世界平和サミットの後だから....かれこれ9年ぶりかしら?」
リファルと呼ばれたのは、銀色の長髪の優男だった。
確かコイツも勇者サマご一行の一人で、遠くから厄介な魔法をバンバン当ててきたヤツだ。
「あぁ。あれから私は、ずっとドーワ侯国から出ずに働いていたから、国外へ出るのは久しぶりだ。」
「なんせリファルさんは、ドーワ侯国の優秀な外交官ですからね。」
「ホリー卿、そのようにご評価いただけて光栄です。」
知らないガキ2人のうち、俺と同い年くらいの小僧の方は、ホリーという名前らしい。
「しっかし、リファルくんだけじゃなくて、コトナカーレ侯爵のご子息達までいるとは、ビックリ仰天だよねぇ〜!」
癇に障るふざけた口調で喋っているのは、俺に無理矢理転生魔術をかけたヤツだった。
確か「シヴァ」だったか?
ジジイとまでは言わないが、だらしない服装に無精髭が汚く生えていて、いかにも「おっさん」という感じだった。
今見ても、ホントに腹の立つ野郎だ。
「すみません、部外者が来てしまって。ですが、
ホリーは目をキラキラと輝かせて、勇者サマを見た。
けっ。何が『勇者様達の武勇伝』だ。大した事ないクセに。
ま、この場に居なかっただけ、まだマシか。
居たら胸糞悪すぎて、どうにかなりそうだ。
その後、母さんたちはライトニング邸にある庭園へと案内した。
◆◆◆
石畳の小道を進んだ先にある、薔薇の花が飾られたアーチ型の鉄のゲート。
中へ入ると、青々とした木々と、色とりどりの花々が咲き誇る、大きな庭園が広がっていた。
中央には噴水があり、その周りにはガーテンテーブルのセットが置かれていた。
テーブルの上には食器やバスケット、ティースタンドがあり、たくさんの種類のサンドイッチやケーキが用意されていた。
「わぁ!美味しそう!」
ライラは出された料理を見て、まるで俺の心の声を代弁するかのように、歓喜の声を上げた。
「でしょ?なんたって今日は、世界を救った英雄達の、英雄達による、パーティなんですから。」
「なんだか、同窓会みたいですね!」
『同窓会』だぁ?
こっちは死んで10周年だというのに、呑気にパーティなんか開いて気に食わねぇ。
第一、今日は気難しい客が来るんじゃなかったのか?
何かが引っ掛かる。
「そういえば、セージャ様は来られないのですか?」
「えぇ」
母さんは、ライラの質問に気まずそうに答えた。
「あの子は、修道院に入ったからね。そうでなくても、あの子はきっと今も、罪悪感で押し潰されそうになっていると思うから、この場には来ないと思うわ。」
「罪悪感、ですか?」
「それは、その....」
「......」
腫れ物に触れるように、その場にいる大人達は全員、それ以上言及しなかった。
罪悪感って.....叔母さん、何かやらかしたのか?
「フフッ」
すると場違いにも、急に笑い出すガキがいた。
初見のガキ二人のうちの一人で、俺より年上・兄さんより少し年下くらいの、いけ好かない雰囲気の小娘だった。
流れるような鋭い目つきも、これまたいけ好かない。
「あぁ、失敬。.....読んでいた本が、あまりにも面白くてね。」
この場で本を読んでいる方が失礼じゃないのか?
持っている本の表紙を見てみると、「龍脈エネルギーによる転換魔術の無限の可能性」....って、タイトルだけでも退屈そうだ。
しかも鈍器かと思うくらい分厚い。
この本の何が面白いんだ?
「すみません。姉さんは、いつもマイペースでして。悪気はないとは思いますが....。」
ホリーは苦笑いしながらペコペコと頭を下げた。
というか、コイツら姉弟だったのか。
「いいよいいよ!気にしなくて。それより、ミラちゃん、だっけ?何読んでんの?.....うわぁ、お堅い本が好きなのね!おじさん、タイトルだけで頭がクラクラしちゃいそうだよ!」
シヴァの野郎はふざけた口調で、ホリーの姉....もといミラに話しかけた。
「書いてる内容は薄っぺらいけどね。転換魔術と転送魔術の違いが分かっていない感じが、実に面白いよ。」
「うわぁ。鋭い皮肉。」
なんでコイツ、そんな本なんか読んでんだ?
「そういえば、シヴァさんは魔術の知識が豊富だってリファルさんから聞きましたが、姉と同じで魔術が好きなのですか?」
「まぁ、魔術は好きだよ。勉強するのも、研究するのも。新しいことを知るのって、楽しいよね!」
「その気持ち、よく分かります。魔術の研究もされていたのですか。凄いです!その話、もっとお聞きしてもよろしいでしょうか。」
「いいよ!って言っても、ホリーくんにとってツマラナイ話になるかもしれないしなぁ....」
「そんなこと、ないですよ!」
「そ?それじゃあ、なに話そうかな....」
「なぁなぁ、シヴァおじさん!それだったら、魔王を倒した魔術ってヤツを教えてくれよ!」
シヴァとホリーの会話に割って入ったのは、タクトだった。
コイツもコイツで、いつも空気を壊すヤツだよな。
「魔王を倒した魔術?って、何だったっけ?」
「ホラ、厄災の魔王をおじさんの魔術で転生させたって言ってたじゃん!アレだよアレ!」
「あぁ〜、アレね。」
今、一瞬シヴァが動揺したように見えたが気のせいか?
「アレはね、何というか.....複雑な術式を使っているから、キミ達に教えるのは、すっっっごく難しいかな?」
「えぇ〜!」
「それでは、その魔術はどんな感じの魔術だったのですか?」
「さっきタクトくんが言ってた通り、相手を強制的に転生させる魔術だよ。なんせ彼、殺しても殺してもバンバン生き返っちゃうんだもん。か弱いおっさんが、そんなしぶとい生命力の子に立ち向かえる方法なんて、それくらいしか思いつかないよ。」
お前らも大概しぶとかったぞ。
もちろん悪い意味で。
「死んでいなくても、転生ってできるのですか?何となくの想像でしかないのですが、肉体が死んでいなかったら、魂が肉体に戻って、転生できない感じがするのですが.....」
「鋭いねキミ。確かに、魂を肉体から取り出しても、肉体が死んでいなかったら魂は自分の身体に帰ろうとするよ。だから、そう出来ないように、魂を遠くに飛ばしたってワケ。」
「なるほどです。ちなみに遠くって、どの辺りですか?」
「それはわかんな〜い!でも、少なくとも元の身体には戻らなかったよ!」
「転生させる場所って選べないのですね。そういえば厄災の魔王って、死んでも生き返るのですよね?魂がなくなっても、肉体は死なないのでしょうか?」
コレについては、前から俺も気になっていた。
あの身体に未練がある訳ではないが、その後どうなったかは知りたい。
「キミって、ホントに鋭いね.....尋問が上手って、よく言われない?」
「えっ、尋問?!すみません、嫌な質問でしたか?」
「いやいや、そんなことないよ!ただの冗談♩それより、魔王ちゃんの身体だっけ?アレね、あの後死んだよ。」
死んだ?!
嘘だろ?あの身体が??
サイコロステーキみたいになろうが、臓器全部抉り取られようが、何をしても死ななかった、あの身体が?
信じられない。
「転生魔術をかけた後、魂が戻って来ないようにしばらく見張ってたの。そしたら肉体が腐り始めてさ、そのまま死んじゃったのでした。おしまい。」
.....嘘だ。
絶対、嘘だ。
あの身体が、そんなヤワなワケねぇ!
あまりにも呆気ない最期に、絶句した。
「だから魔王が復活しなかったのですね!でも...あれ?何をしても死ななかったハズの魔王の身体は、なぜ魂を抜いただけで死んだのでしょうか?」
「さぁねぇ。そもそも不死の存在だなんて、おじさんも初耳だし。だからね、あの子が一体何者だったのか、おじさんも色々調べているのよ。でも全然、手がかりがなくてさぁ。」
「それだったら、本人に直接聞けばいいじゃん」
タクトが突拍子もないことを言い出したせいで、周囲の人間は唖然とした。
「なるほどね!本人に直接、聞けばいいのか〜!確かにそれが一番手っ取り早いよね!タクトくん、頭いい〜!」
「いやいや、そんなこと出来るわけないでしょ!どこに転生しているかも分からないし、第一、話し合いが通じるヤツじゃないでしょ!」
勇者パーティにいた格闘家の女は、大きな声でツッコミを入れた。
.....確かコイツが、ライラとタクトの母親、なんだっけ?
「そんなこと、ないと思うよ?」
唐突なライラその一言は、場にいる全ての人間の顔を凍り付かせた。
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