【11】レックス殿下の誕生日パーティ(3)

俺は休憩室でベッドに横たわりながら、さっきの出来事を振り返る。


コレって、明らかに毒殺だよな?

俺だけじゃなく、殿下達も同じタイミングで吐き出したから、きっとそうだ。

と言うことは、殿下と一緒に食べた料理の中に、毒が入っていたってことか?


殿下と一緒に食べた料理、か。

....あ!

料理じゃないけど、あの時飲んだコーラか?

それくらいしか思いつかない。

カタリーナやアリーシャも倒れていたし、確実だろ。


コーラに毒が入っていた理由は、やっぱり、殿下を消すためか?

確実に殿下に飲ませるために、全部のグラスに毒薬を入れていたのかもしれない。

だとしたら、俺やカタリーナ達が倒れたのは、殿下の巻き添えってことになる。


ところで、このまま殿下達が死んだら、どうなるんだ?

殿下達が死んだら、もちろん死因の特定と犯人探しになる。

現状一番怪しいのは、料理人か料理を運んでいた使用人か?


....いや、他の奴から見たら、俺も相当怪しくないか?


あの場にいた3人は倒れたのに、俺だけ無事なのは明らかに不自然だ。

もしかしたら俺が毒を盛ったと疑われかねない。


そして俺は殿下を殺した罪で極刑。

ライトニング家は一連の不祥事のせいで没落・一家離散.......。


完。


なんてことになったらマズい。


あ!でも殿下達も無事だったら、疑われることもないのか?

早速、隣で寝ている殿下達の様子を見てみた。


鼻と口に手を当てるも、息をしているようには感じない。

胸に耳を当てても心臓の音は聞こえない。

これは、確実に死んでいる。


まぁ、でも俺には蘇生魔法があるし、ちゃちゃっと生き返らせればいいだけか。


おっと、その前にヒトがいないのを確認しないとな。

蘇生魔法を使っているところを見られたら、最悪正体がバレかねない。

念のため、前世の姿に変身しておくか。

....さらに念のために、俺のダミー人形もベッドに置いておこう。

これで、前に変身した時のようなうっかりミスはなくなるハズだ。


準備が整ったところで、俺は3人を蘇生させた。

口元に手を当てると、3人ともちゃんと息をしていた。

これで一安心、と思った矢先に、この部屋に近づいている足音が聞こえた。


やば。

咄嗟に、近くにあった殿下のベッドの下に隠れる。

する足音は、殿下の枕元まで来て、ピタリと止まった。


「生きている....!嘘だ、ちゃんと致死量を入れた筈なのに。やはり毒の量を間違えていたか。」

声の主は枕元で何かゴソゴソと動いている。


「あぶない!」

いきなり大声が聞こえたと思ったら、ベッドが大きな音を立てて激しく揺れた。

この声は、カタリーナか?


ベッドの下からでも、カタリーナと誰かが激しく乱闘しているのがわかる。

....完全に、立ち去るタイミングを逃した。


待てよ?

よく考えたら、今カタリーナと乱闘しているヤツって、殿下を襲った犯人だよな?

だったら、捕まえれば一件落着じゃねぇか。


俺は、殿下を襲った犯人に気づかれないように、ベッドの下から素早く出る。

そして背後から首を絞めて気絶させ、ロープを取り出して身動きが取れないように頑丈に縛った。


「あなたは....宮藤くん!」

「あ?何?」

「また助けてくれてありがとう!それと、貴方には聞きたいことが沢山あるの!」


「んな事より、言っとくことがある。」

「言っておくこと?」

「そこの王子サマに毒盛って殺したのは、コイツだから。俺じゃねーから!」

ココ、大事な。

冤罪、ダメ、絶対。


「それは、言われなくても分かるわ。後で父に事情を説明して逮捕してもらうから、その人の身柄は私に預からせて。」

カタリーナは物分かりが良くて助かる。

俺は、捕まえた犯人をカタリーナへ渡して、立ち去ろうとしたその時。


「宮藤くんも、日本人なのよね?」

その一言で、俺は一瞬、硬直した。

カタリーナの発したそのセリフは、何度も頭の中で繰り返し再生された。


「『日本人』って、お前、まさか....」

「私も元・日本人なの!生前はしがないOLやってたわ!やっと話を聞く気になった?」

まさか、俺以外に日本から転生してきた奴がいるとは。

だからといって同族意識は芽生えないが、言われてみれば思い当たるフシはある。


「まぁな。お前の言う通り、俺も転生した日本人だ。それだけ。じゃあな。」

「待って待って!『じゃあな』ってそれだけ?!あなたは気にならないの?」

「んなこと言ったって、さっさと逃げねぇとヒトが来るだろ。」

そんなことを話している間にも、誰かがこの部屋に向かって来ているかもしれない。


「じゃあ!一つだけ!一つだけでいいから、私の質問に答えて!」

「.....仕方ねぇな。一つだけだぞ。」

こうでも言わないと、意地でもカタリーナは俺についてきそうだった。


「ありがとう。宮藤くん。」

カタリーナは一呼吸置き、質問する内容が決まると、意を決して口を開いた。


「....もし宮藤くんが生前、この世界によく似た乙女ゲーム....いえ、それだけじゃないわ、ゲームや漫画、小説やドラマ、何でもいいの。とにかく、この世界によく似た作品を知っていたら、その内容を教えて欲しいの!」


.....。

....は?

一瞬、カタリーナが何を言っているのか分からなかった。

この状況で、何を質問するのが普通なのかは分からない。

だが、少なくとも...。


「お前、ソレ今する質問じゃねぇだろ!」

カタリーナの意味不明な質問に、思わずツッコまずにはいられなかった。


「質問は1個なんでしょ?お願い、教えて!」

「知るか!この世界に似た作品なんざ、聞いたことがねぇ!」

俺は吐き捨てるように言って、その場を去った。

そして元の姿に戻り、ベッドにいるダミー人形とこっそり入れ替わった。


程なくして、エセヴィラン公爵が医者と衛兵を連れてやってきた。

元気になったカタリーナは、事情を説明し、今回の騒動を引き起こした犯人を引き渡した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る