【10】レックス殿下の誕生日パーティ(2)
ホールに着いた俺とカタリーナは、少し離れた場所にあるテーブルで立食しながら、殿下とアリーシャを眺めていた。
「いいわね....。悪くない雰囲気よ!」
楽しそうに談笑する二人を見てほくそ笑むカタリーナ。
「はぁ。いつ見ても美しいお二人だわ。レックス殿下もアリーシャ様も、ハリウッドスター顔負けのルックスよね。あの二人の尊さはもはや人間国宝級よ!あの二人から生まれた子どもは、世界一の美男美女になるに違いないわ!」
コイツ、殿下だけじゃなくアリーシャに対しても、そんなことを思っていたのか。
「確かに、美しいお二人ではありますが.....」
「でしょ?絵画では表せないくらい輝いているお二人でしょ!」
別にそこまでは言っていない。
「ただ、ここからだと、お二人が何を話しているかわかりませんね。フォージー侯爵のように耳が良ければ聞こえるのかもしれませんが。」
「仕方ないわよ。これ以上近づいたら、気づかれちゃうわ。」
むしろあれだけガン見して、殿下達に気づかれていないのが不思議だ。
カタリーナが二人を眺めてうっとりしていると、案の定、殿下達がこちらに気づいた。
「あっ、目が合っちゃった!」
そりゃ、あれだけジロジロ見てたら、目が合うだろ。
こちらに気づいた二人は、俺達の方へと向かって歩いてくる。
「再びお会いできて光栄です、カタリーナ様。」
俺達と殿下達は、軽く挨拶をした。
「私達、ちょうどカタリーナ様のことを話していたところなんです。」
「えっ!私のことですか?」
「あぁ。カタリーナはいつも、天真爛漫で可愛いという話をしていたんだ。」
きっっっっっしょ!
歯の浮くような臭いセリフを平然と言う殿下に、思わず鳥肌が立つ。
いくら社交辞令とは言え、度が過ぎたお世辞は聞いてて胸焼けを起こしそうだ。
「そ、そんな、可愛いだなんて!お二人の美しさに比べたら私なんかその辺に生えている雑草に群がるアブラムシみたいなものです!」
カタリーナは茹で蛸のように顔を真っ赤にしながら、独特な言い回しで卑下する。
「フフッ。そういうところが可愛らしいよ。」
うわぁ。
.....もう、俺帰っていい?
するとそこに、使用人が飲み物を運びにきた。
黒くてプクプクと小さな泡を出す飲み物。
これは.....。
「コーラだ!」
カタリーナは、運ばれてきた飲み物を手に取って、グイッと飲み込んだ。
「この飲み物は、確かドーワ侯国で最近流行しているという噂の飲み物ですね。」
「泡が吹き出す飲み物だなんて、不思議だね。」
殿下とアリーシャも、目新しい飲み物に興味深々な様子で、一口飲んだ。
炭酸飲料ってこの世界じゃ珍しいのか?
思えば、この世界で炭酸飲料を見たのは、今日が初めてかもしれない。
口の中でシュワシュワする時の感覚は、結構クセになる。
俺は久しぶりのコーラに少しテンションが上がり、コーラを一気に飲み干した。
「っ!?」
初めて味わうその食感に、殿下とアリーシャは顔をしかめた。
「口の中が、パチパチする...!」
「空気が喉に詰まる感じがしますね。」
「炭酸飲料って、シュワシュワするから好き嫌い分かれますよね。」
戸惑いながら飲む殿下とアリーシャのリアクションは、初々しい感じがして面白い。
「そういえばカタリーナ様、フレイ様と親しげに話しておられましたが、どのようなご関係なのですか?」
「ただの顔見知りです。」
カタリーナが余計なことを言い出す前に、食い気味に俺が答えた。
ここで『思い人』だの何だの言って、殿下に誤解されて睨まれたくはない。
「『ただの顔見知り』って.....フレイくん、いくら何でも、それはちょっと寂しいわよ。
以前、ライトニング公爵邸へ挨拶に行った際に、彼と知り合いました。それ以来、ときどきライトニング邸へ遊びに行く仲です。」
ひとまずは『フレイとカタリーナは恋仲』という気持ち悪い誤解を避けることができた。
「そうなんです。カタリーナさんがライトニング邸に来るのも、探している人がいるからで、決してやましい関係ではありません。」
俺は駄目押しで、カタリーナとの関係を否定した。
「フレイくん、私のこと手伝ってくれる気ゼロじゃん.....。」
カタリーナはそんな俺に呆れた様子だった。
「その『探している人』とは、一体、誰のことだい?」
「それは、悪漢からカタリーナさんを助けた人のことです。以前、ライトニング領を馬車で案内していた時に、カタリーナさんが悪漢に襲われまして。その時に悪漢からカタリーナさんを助けた人が、未だに見つからないので、探しているのです。」
「まぁ!カタリーナ様、大丈夫でしたか?とんだ災難でしたね。」
「助けてくれた方のおかげで、何事もありませんでした。」
「カタリーナが無事で良かったよ。もし会うことがあれば、僕からもお礼させてくれないか?」
ほう。
王子サマのお礼って何だろう。
あの姿で会う気はないが、ちょっと気になる。
「はい、是非!ちなみに、その『助けてくれた人』というのが特殊なのです。」
「特殊?」
「はい。その人は黒目黒髪で、彫りが浅い顔立ちの人なのですが、何というか....言葉では表せないと言いますか」
「?黒目・黒髪・彫りが浅いという特徴だけしたら、数は多くないとは思いますが、さほど特殊には感じませんが?」
「あぁ。ですよね、アリーシャ様。実物を見ないと、そう思いますよね。一応、彼はキメイラ帝国に住んでいるらしいのですが、『亜人』という感じでもないのです。殿下とアリーシャ様は、そういった特徴を持つ人....もしくは種族に心当たりはありますか?」
「種族、ですか?!目や髪の色が統一されている種族なんて聞いたことがありません。亜人にもさまざまな種族がいますが、彫りの浅い顔立ちの種族なんて、存じ上げませんわ。」
「それに、種族という括りを抜きにしても、黒目黒髪で彫りの浅い顔の人なんて、見たことがないよ。」
殿下とアリーシャの返答に、カタリーナは落胆した。
「そう、ですか.....では、この世界とは異なる世界へ行ける魔法や魔術について、何か聞いたことはありますでしょうか?」
ん???
何で急に異世界の話になるんだ?
その話、今、関係ある??
案の定、殿下とアリーシャも目が点になっていた。
「異世界、ですか?」
「えっと、カタリーナ?さっきまでの話と、何か関係があるのかな?」
「はい!関係大アリです!だって、もしかしたら彼は、異世界人かもしれないんです!」
はい?
異世界人かもしれない??
あながち間違いでもないが、なぜその発想になる?
殿下とアリーシャは、あまりにも突拍子もない話に、キョトンとする。
その空気を察したカタリーナは、慌てて弁明し出した。
「あ!...えっと、私がそう思うのは、彼の目鼻立ちや服装が、この世界のどの人種にも当てはまらないからなんです。今まで彫りの浅い顔立ちの人を何人か見かけましたが、彼くらい彫りの浅い人はいませんでした。『比較的彫りの浅い顔立ちの人が多い』と言われている種族ですら、彼に比べたら彫りが深いです。それに彼が着ていた服装も、様々な服屋さんを調べても見つかりませんでした。だから、もしかしたら異世界からやって来たんじゃないかって思ったんです。」
なるほどな、カタリーナなりに理由があって、そう思ったのか。
いつも変なことを仕出かすから、それが平常運転なのかと思っていた。
カタリーナの説明を聞いた殿下達も、少しは納得できた様子で、口を開き始めた。
「それで異世界の魔法について聞かれていたのですね。ですが、私は異世界に関係する魔法も魔術も存じ上げません。お力になれず、すみません。」
「僕も、そういった魔法について全然知らないよ。ごめんね。でも....」
殿下は少し複雑そうな顔で、俯いた。
「でも?」
「......兄上なら、何か知っているかもしれないよ。なんせ、兄上は、天才だから。」
殿下がそう言うと、カタリーナもアリーシャも少し気まずそうにした。
「フレイくんは知らないかもしれないけど、僕の兄上であるショーン殿下は数千年に一人の天才なんだ。あの王立ディシュメイン魔法学園を、弱冠5歳で卒業した人なんだ。」
「それは凄いですね。聖女と名高いセージャ叔母さんですら、卒業したのは10歳ですから、ショーン殿下は、よほど卓越した才能があるようですね。」
俺も一度、王立ディシュメイン魔法学園の卒業試験を受けたことがあるから分かるが、あの試験で卒業できる奴は頭がおかしい。
聖女サマが卒業できるレベルなら、俺だったら余裕じゃん!と思っていた時期が俺にもあった。
卒業試験は金さえあれば誰でも受けられるとは言え、卒業試験は、普通に入学して卒業するよりも何十倍もハードな試験内容らしい。
そうとは知らず、ろくに勉強せずに一次試験を受けた俺は、見事テストを白紙で提出して試験に落ちた。
「あぁ。兄上はこの国始まって以来の天才だよ。」
そりゃレックス殿下が複雑そうな顔をするワケだ。
そんな天才が第一王子だったら、次期国王はショーン殿下で確実じゃないか。
「すみません、カタリーナさん。殿下には申し訳ないですが、殿下が王位を継承するのって難しくないですか?」
殿下に聞こえないように、カタリーナに耳打ちする。
「それが、そうとも言えないのよ。なんせ、ショーン殿下は原因不明の病気を患っていて.....」
するとカタリーナは話の途中で、急に目をカッと見開いて口を塞いだ。
もしかして殿下に聞かれていたのか?
と思って、殿下の方を見る。
すると、殿下も急に口を押さえて、倒れ込んでしまった。
何があった?
その光景に驚く間も無く、急に異常な吐き気と息苦しさに襲われた。
あっ、コレやばいヤツだ。
俺は咄嗟に回復魔法を使った。
多少の気持ち悪さと息苦しさは感じたものの、立てなくなる程でもなかった。
改めて周りを見る。
殿下とアリーシャとカタリーナは、血を吐いて倒れていた。
ホール内は阿鼻叫喚とし、うるさい悲鳴が飛び交う。
3人を心配して、たくさんの大人達が駆けつけた。
そんな中、父さんと母さんが俺の方へと駆け寄る。
「フレイ、フレイっ...!」
「フレイ、大丈夫か!」
「父さん、母さん、大丈夫ですよ。」
二人は、安堵した様子で俺を抱きしめる。
....暑苦しいが、嫌いじゃない。
「フレイ、お前も殿下達と一緒に休みなさい。」
「絶対に、安静にするのよ?」
「はい。」
俺は父さんたちに連れられる形で休憩室へ行き、殿下達と一緒にベットで横になった。
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