第2話:勇者の子ども達

【2】勇者の子ども達(1)

転生して、7年が経ったある日。


「フレイ、今日はお前に紹介したい子たちがいるんだ」


父さんに呼び出されて客間へ来ると、父さんは開口一番にそう説明した。

俺は内心怪訝に思いながらも、視線を下へ向ける。

父さんの腕の下には、明るめの黄緑色の髪の子供と、茶色に近い金髪の子供が立っていた。

二人は身長も体格も俺と変わらず、同い年くらいに見えた。


「こっちがタクト君で、この子はライラちゃん。2人とも友人の子供で、今日一日預かっているんだ。2人は双子で、フレイと同い年だ。仲良くしてやってくれ。」


父さんは少しかがんで二人を紹介すると、満面の笑みで面倒ごとを押し付けてきた。

要するにガキの子守をしろってことだろ?

あー、面倒くせぇ。


「聞いて驚け!俺はあの伝説の勇者、ユシャ・ブレイブ!...の息子のタクトだ!よろしくな、フレイ。」

黄緑色の髪のタクトは大きな声で挨拶すると、俺の手をいきなり掴んでブンブンと振りながら握手をした。


『伝説の勇者』って...こいつら、あの勇者サマの子供かよ。

うざったいところは、どうやら父親譲りのようだ。

母親は、髪の色からして、アイツの近くにいた小賢しい格闘家の女か?


「はじめまして、タクトの妹のライラです。フレイ君、よろしくね。」


一方、金髪のライラは微笑みながら軽く頭を下げ、穏やかに話しかけてきた。

髪の色は父親似のようだが、父親と違って少し弱々しく感じる。


「タクトくん、ライラちゃん、よろしくお願いします。僕はライトニング公爵家の次男・フレイです。」

得意の作り笑顔で、とりあえず社交辞令する。


「ライトニング家ってセージャ様の生家だろ?じゃあ、もしかしてお前って、セージャ様の子供か?」

「セージャ様?それって、セージャ叔母さんのことですか?」


確か母さんの妹が、そんな名前だった気がする。

ライトニング家は母方の家系だから、確かに叔母さんの生家になるのか。

けど『様』って、一体どういうことだ?


「なんだよお前、身内なのにセージャ様のこと何も知らないのかよ。」

「えっと......叔母さんは、何かしたのですか?」

「ウソだろ〜!」

タクトとライラは、呆れたように驚く。

答えを求めるように父さんに目を向けると、きょとんとした顔で口を開いた。


「そういえばフレイには、セージャ叔母さんが勇者パーティの一人だったって話したことなかったか?」

「はい。初耳です。」


嘘だろ。

叔母さんが、まさか勇者サマの仲間だったとは。会ったことがなかったから全く気づかなかった。

前々から母さんとは、どこかで会ったことがある気がしたのも、そのせいか?

....ということは俺、自分を倒した相手の身内に転生したのかよ。

間抜けにも程がある。


「セージャ様は、世界屈指の回復魔法使いで、国から『聖女』の称号を貰っているくらい、凄い人なんだよ!」

ライラは目を輝かせながら、そう語った。

回復魔法の女?

....ってことは、戦闘中ほぼ空気で、後ろの方に突っ立ってた女のことか!


「しかもセージャ様はたったの10歳で王立ディシュメイン魔法学園を卒業したらしいぜ。それでいて世界を救ったんだから、すげーよなぁ。」

「10歳って、私達とそんなに変わらないよね。私、3年後に魔法学園を卒業どころか、入学すらできてる気がしないよ。」

「へぇ。叔母さんって、そんなに凄い人だったんですね。」

アレでも一応凄いヤツだったのか。

そういえばあの時、ヤケに勇者達の回復スピードが早いと思っていたが、あの女の力のせいだったのか?


「『へぇ』ってお前、いくらなんでも興味なさすぎるだろ。叔母さんがこんだけ凄い人だったら、フツー誇らしく思うだろ!」

んなこと言われたって、あの女と俺はほぼ無関係だし。


「仕方ないさ。フレイは叔母さんと会ったことがないからなぁ。フレイが生まれる少し前に修道院に入っちゃったし。」

「その話、母から聞いたことがあります!今は修道院で祈りを捧げながら、病気の人たちを回復魔法でたくさん助けてるって。世界を救った後も人々を救うなんて、さすが聖女様です!」


ハイハイ、さすが聖女サマですねー。

あんな空気女の、いったい何が凄いんだか。


「だからさ、フレイ。お前と俺とライラで『新・勇者パーティ』結成な!」


.......はぁ?

タクトはそう言うと、キラキラした眼で俺とライラの手を握る。

何をトンチンカンなことを言っているんだ、こいつは。


「勇者の子供と、聖女の甥っ子!新・勇者パーティに相応しいメンバーだぜ!あ、ちなみに俺が勇者な!」

「えぇ....お兄ちゃん、勝手に決めないでよ」

「そうですよ。それに勇者パーティを結成したところで、いまさら何をするんですか?」

「決まってんだろ!魔王を倒すんだよ!」

「『魔王を倒す』って.....それ、お父さん達がもうやったじゃん。」


突拍子もない話を続けるタクトに、実の妹ですら呆れている。

若干引き気味で聞いている俺とライラを差し置いて、タクトは熱く語り始めた。


「いーや!きっと魔王は復活する!

でもって、また世界を滅亡させようとするんだ!

そこで俺たち新・勇者パーティが、魔王をボコボコに倒して英雄になるんだ!っつーか、そうならなきゃ俺が困る!」

「それって、遠回しに魔王の復活を願っているの?」

「ちーがーう!俺たちが大活躍して英雄になるには、超強くて、俺らが倒せるレベルの敵が必要なの!」

「そんな都合のいい敵、いるかなぁ」


困り果てた様子で兄のアホな妄想に付き合うライラ。

まぁ、実際に魔王おれは復活しているが、コイツにやられる気は毛頭もない。


....いや、待てよ?

長年一緒に戦ってきた仲間が、実は魔王だと知ったら?

信頼していた仲間に、最後の最後で裏切られて、殺される。

その時のコイツらの絶望しきった顔を想像するだけで、ワクワクする。


「いいですね、新・勇者パーティ!」

俺はタクトの珍奇な提案に乗ることにした。


「うっし!フレイはわかるヤツだな!さすがはおとこだ。お前はセージャ様の甥っ子だから、僧侶な!」

「えぇ.....僕が回復役ですか?」

「なんだよ、文句あるのか?」

「僕、ヒトを回復させるより、敵を倒す方がいいというか....」

ぶっちゃけ、敵を直接ぶん殴って殺す方が性に合う。

それにガキの遊びとはいえ、地味で空気な役をさせられるのは、なんかムカつく。



「ちぇ、仕方ねぇな。じゃあフレイは格闘家で、ライラが僧侶な!」

「何で私までパーティに入れられてるの?」

「嫌だったら、母さんと同じ女格闘家な!」

「えぇ〜!それだったら僧侶がいい!」

「じゃあライラが僧侶で決定な!」

「なんか強引に決められちゃった.....」


そうして俺は、タクト達の勇者ごっこちゃばんに付き合うことになった。

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