転生魔王の正体は?
サトウミ
第1話:転生
【1】転生
「魔王め、これで終わりだ!」
そう言うと勇者サマとやらは瞬時に剣を構え、俺に向かって強烈な一撃を放ってきた。
「グハッ…!」
傷だらけの中、その一撃をまともに食らった俺は、地面に叩きつけられる。
痛みが全身を貫き、目の前が真っ暗になりかけた。
砂埃が舞い上がり、俺の顔にまとわりつく。
だが、それでも俺は死ぬことはなかった。
……そうさ、死なねぇんだよ。俺は。
「…ハハハッ!残念だったなぁ。
俺の身体は不死身だからよぉ、どんな攻撃だろうが俺は殺せねぇぜ!」
勇者とその仲間たちは、その事実を知って困惑する。
「くそっ!」
「マズいよ、復活する前に何か手を打たないと!」
「でも、どうすればいいのですか?!」
「奴を倒す方法は、何もないのか?」
奴らの視線が重なり、不安そうな空気が立ち込める。
その中で一人、薄気味悪い笑みを浮かべる奴がいた。
「実はねー、キミみたいな子をどうにかできる魔術があるのよ。これが」
「本当か、シヴァ!」
「ホントホント。」
そう言って、勇者のお仲間のヘンなおっさんが、ニヤリと笑いながら話す。
何かを企んでいるような、気味の悪い笑顔だ。
奴の手には、どこか怪しげな光を放つ宝石があった。
「本当にそれで奴を倒せるのか?」
勇者がおっさんに尋ねる。
「安心してよ。ボクの魔術は確実だからね。」
とおっさんが自信満々に言った。
その時、俺の周りに不気味な魔術が現れた。
気味の悪い魔法陣が俺の体を中心に広がる。
全身に緊張が走った。
...これはまずいかもしれない。
「キミの身体が不死身なんだったら、魂を強制的に転生させればいいんじゃない?」
はぁ?転生??
「何言ってんだテメェ!…やめろ!」
逃げようとしても、さっきの一撃のせいで、まともに動くことができない。
俺は懸命に抵抗したが、力が入らず、魔術から逃れられなかった。
「来世では、いい子になってね♪」
ヘンなおっさんは、からかうような笑顔で俺を見送る。
「くそっ…覚えてろ、てめえら!」
俺の身体が、魔術の放つ光に包まれる。
次の瞬間、全く違う世界へと放り込まれるかのような感覚に襲われた。
そして気がづくと俺は、ライトニング公爵家の次男、フレイ・ライトニングとして生を受けていた。
ライトニング公爵家は、ディシュメイン王国の辺境にある、ど田舎公爵家だ。
裕福な家。
優しい両親。
絵にかいたような、幸せな家庭。
…反吐が出る。
だからこそ。
この幸せな家庭を、最高に幸せなタイミングで、最悪な不幸を味わせてやったらどうなるか?
考えただけでワクワクする。
そのためにも俺は、表向きは「良い子ちゃん」を演じて悟られないように生活していた。
◆◆◆
その日も俺は、母親と一緒に領地の山を散歩していた。
最近、公爵領の山では強い魔物がたくさん現れるようになっていた。
だけど母親が「散歩がてらに山を見回りたい」と言うので、毎回、護衛と一緒に散歩に付き合わされていた。
相変わらず、能天気で平和ボケした女だ。
「フレイ、この花見てごらん。きれいでしょう?」
山の麓にある森で散歩をしていると、母親はかがんで茂みを指差した。
母親が指差した先には、小さな白い花弁がたくさんついた花があった。
森でよく見かける種類の花だったが、母親が指差した花は、その中でも特に大きくて透き通るような白さを放っていた。
...正直、どうでもいい。
「そうだね、母さん。すごくきれいだよ。」
俺は笑顔でありきたりな返事をすると、母親は微笑んで俺の頭を撫でた。
この女の幸せそうな顔を見るたびに、甘すぎて胸焼けを起こしそうになる。
そのまま散歩を続けて山の中腹にある湖畔に着くと、母親は草地に座って湖を眺めながら休憩をした。
「ここはいつ来ても、本当に美しい場所ね」
母親はこの湖に着く度に、お決まりのようにその台詞を吐く。
何度もこの女に付き合わされているせいで、湖の風景は見飽きていた。
...ありきたりな湖の何に心を揺さぶられるのか、俺には理解できない。
すると突然、遠くから不気味な雄叫びが聞こえた。
不気味な風が吹き荒れる。
湖の奥から何かが近づいてくるのを感じた。
「母さん、何か変だ。早く帰ろう。」
母親も異変に気づいていたようで、顔色が変わる。
「そうね。急いで戻りましょう。」
母親は俺の手を握って、来た道を戻ろうとした。
すると、湖の奥から大きな魔物が突風とともに現れた。
その魔物は、血のような赤い色の鱗に覆われ、ドラゴンのような姿をしている。
鋭い眼光で俺たちを睨みつけた。
「なんだ、こんなところに!」
同行していた護衛たちは、すぐに剣を抜いて戦闘態勢に入る。
「奥様、どうかお逃げください!」
護衛の一人が叫びながら、魔物に立ち向かった。
魔物は、唸り声をあげながら、大きな竜巻を俺達に向かって放つ。
そして護衛達は次々と竜巻にのまれ、四方八方へ吹っ飛んでいった。
そんな中、母親は俺を抱き抱えて竜巻をギリギリのところでかわした。
すると魔物は、狙いを定めるかのように俺達を睨みながら、大きな口を開ける。
それを見た母親はなぜか、俺を無理矢理降ろすと、魔物の前に立ちはだかった。
「フレイ、逃げて!」
その叫びと同時に、母親は視界から姿を消した。
大きな口で母親を飲み込んだ魔物は、ゴクリと、波打つように喉を動かした。
「母…さん…?」
母親のあっけない最期を見て、俺の中に今まで感じたことのない感情が湧き上がってきた。
胸を締め付けられるような。
谷底へそっと落とされるかのような。
深い、喪失感。
それに比例するかのように、湧き上がる魔物への憎悪。
…嗚呼。これが「獲物を横取りされた怒り」か。
きっとそうだ。
コイツらを不幸にするのは俺の楽しみだったのに、それを根こそぎあの魔物に奪われた。
だから俺は、イラついているんだ。
「てめぇ、絶対許さねぇ…!」
俺は
何度も連続で魔法をぶち込むと、魔物は抵抗する間もなく力尽きた。
ちょっとしか魔法を使っていないのに、体力がごそっと削られたような脱力感がある。
もしかして転生したせいで、魔力が少なくなったのか?
俺は魔物の腹に穴を開けて、母親の亡骸を取り出した。
蘇生できないか、ダメ元で魔法をかけると、母親は息を吹き返す。
「良かった」
俺が安堵すると、目覚めたばかりの母親は突然、俺に抱きついた。
「フレイ、大丈夫!?怪我はない?」
目覚めたばかりのその女は、自分の身より先に、俺の心配をした。
ワケ分かんねぇ。
魔物に喰われて、死ぬ思いをした後なのに、なんで呑気にヒトの心配なんかしているんだ?
「...母さん、なぜ僕の心配をするのですか?」
意味が分からず、直接母親に尋ねてみる。
「なぜって、あなたが大切で大好きな息子だからに決まっているでしょ!」
は?
なに言ってんだ、こいつ?
当たり前かのように、真顔でその言葉を俺にぶつけた。
大切で、大好きな??
御伽話の世界でしか存在しない概念を、俺に当てはめているのか?
なんだ?この、ふわふわとした、むずがゆい感覚は。
「.....ヘンなヤツ」
俺は母さんに聞こえないくらい、小さな声でつぶやいた。
そのときに抱いた初めての感情が何なのかは、一晩中考えても分からなかった。
でも不思議と、嫌な気分にはならなかった。
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