第五章 金と銀

 レハールの「金と銀」が流れている。

 煌々と燃えるあの火の惨劇がまるで夢だったかのように、品のあるワルツが朝の訪れを告げる。昨日の黒い煙がそのまま空に張り付いてしまったかのような曇り空だ。

 六時になっても木琴の音は聞こえない。廊下から、隣室から、いつも聞こえるはずの話し声や足音も聞こえない。

 金曜日だが、本日は終日休講となった。窓の外では他学年や他クラスの生徒が、突然の休暇を謳歌すべく、朝から私服で歩いている。彼女たちが空を見上げ手を差し出す反応を見るに、少しだけ雨が降っているらしい。


<昨日焼死した田口文加は、有栖川藍を殺した罪悪感から自殺した>

【有栖川藍殺人事件】のスレッドに、一つの投稿がされた。

<なにそれ、ほんと?><有栖川藍を殺したのが田口文加なの?><田口文加って誰><一年生の学年順位二位の中等部入学生><知らんな><また緑一なんでしょ><マジ怖すぎあのクラス><あのクラスに何が起こってるの?><犯人自殺なら終わりでしょ>

 パソコンの前に座る、一人の少女はそれを見て戦慄した。震える指でキーボードを叩く。

<田口文加が犯人だというなら、その根拠は?動機は?>

 確かに、説明しろ、とスレッドが動く。少女は最初の投稿者の返事を、じっと睨むように待った。

<有栖川藍と田口文加は中等部からの仲で、藍の好きな小説を文加が漫画にして共有していた。それが流出し、文加は藍を恨んだのが原因。>

 画面の前の少女は大きくため息をついた。やがて、チェアの上で膝を抱えるようにうずくまり、泣きじゃっくりを上げ始めた。

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