第二章 火の鳥

 朝の寮舎にドタドタと鈍く走る足音が響く。

 火曜日を報せるストラヴィンスキーの『火の鳥』がBGMとなりその足音の焦りを助長させる。

 朝食終わりの生徒たちを掻き分け、その足が向かう先は一階共用部の奥にある自習室だ。少し軋みのある扉が勢いよく開かれ、田口文加・糸井すずめ・西田桃乃が驚いて顔をあげた。

「どうしたのマーチ、顔色悪いよ」

 走るのをやめたところでようやく思い出したかのようにじわじわと汗が噴き出してくる。

「あれ、ばれた。絵、見られた」

 息絶え絶えに告げられたその言葉に、四人だけのその広い空間がさっと冷たい空気に変わった。


 クラスブースの入り口は人がごった返している。何が起きているのかと群衆が背伸びをして覗く先は談話室。

「慧!」

 誰かが叫んだと同時に、片桐慧が人ごみの奥から現れ自室に駆けこんだ。彼女の目元には光るものが見えた。

「みんな学校始まるよ!解散解散!」

 人ごみの奥で橋本真那の声がする。ざわめきながらほぐれていく群衆の後ろに、血の気が引いた四人の少女を見つけた橋本真那はそちらに声をかけた。

「これは、あなたたちの作品?」

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