一章・廃トンネルの除霊配信

第2話 女子大生ライバーの過ち

青山のカフェ、陽光降り注ぐテラス。

 お気に入りの席に腰掛けた瑠那は頭を抱えて、心の中で自分の愚かさと、後悔を噛み締めていた。

「最悪……マジで、最悪」

――心霊スポット企画なんて、参加するんじゃなかった。


瑠那は大学生をしながら、いわゆるライブ配信活動をしている。自分の姿を、振る舞いを、過ごす日常を配信して収益を得ているのだ。配信者全体の中では中堅レベル、二十一歳にしては相当稼いでいる方でもある。

 それもこれも、両親から受け継いだスペックのおかげ。

 パッチリとした猫目。目鼻立ちのクッキリとした華やかな顔立ち。生まれつき人が寄ってくるタイプで、明るく前向きにハッピーに生きてこれた……そう、ついこの前までは。

始まりは、配信仲間、ユカからのオファーだった。


「心スポで動画撮ろうよ! 絶対盛り上がるって!! 」


 心霊スポット。俗に言ういわくつき。訪れるとお化けやら幽霊やら、説明できない怪現象に出会える、のだとか。

 LINEグループに貼り付けてくれたリンクを開く。向かう心霊スポット「旧S村トンネル」に関するネットの噂を集めた、いかにも怪しげなサイトだった。


『目撃された怪しい影』『トンネル奥から響く怪音』『天井には人の顔のようなシミが!! 』


 思わず「嘘だぁ」なんて呟いてしまった。

 でも正直、アリかもしれないと思った。ホラージャンルに興味はないけれど、自分からじゃまずやろうとしない。それに、信じていなかった。だって噂に根拠なんてどこにもない。参加を決める直前まで、本気でそう思っていて、逆に「撮れ高大丈夫かな? 」「何も映らなかったら逆に困るけど」なんて思いつつ軽く返事をした。


「オッケー。絶対行く! 」


 当日は、トラブルの連続。

 まず、撮影スタッフが持ち込んだ機材に不具合が起きた。トンネルに入ると機材の不調はどんどん酷くなり、まともな動画が一つも撮影できない。瑠那のスマートフォンでも同様だった。それでも「せっかく来たから」と、トンネルのおそらく、中ほどまで来た時だった。

――急に背筋に悪寒が走り、進めなくなった。

 瑠那だけではなく、どうやら全員がそうだったらしい。


 別に何かがあったわけじゃない。トンネルの底の知れない闇や、時折吹き抜ける肌寒い風、その癖ジトッとした空気……正直、怖いと感じてはいたけれど、一番はそこじゃなかった。

 強い不快感だった。これから先、進めばきっと、穢らわしい何かに飲み込まれて窒息してしまうような。髪の毛だらけの排水溝に手を突っ込まなければならない、それほどに強い、不快感。

 ついに、配信者の一人が体調を崩して倒れ込み、それどころではなくなってしまった。


終わって撤収してしまえば気が楽だった。

「散々だったよね。うちの機材まだ電源入らねーの」

「つーかお蔵入りだよな、何も撮れなかったわけだし」

 瑠那も無理矢理に笑顔を作り、頷いた。

「ま、こういう時もあるよねー。仕方ないって! 今度はさ、明るく楽しく! ってのみんなで撮ろう! 」


そこで、終わったはずだったのだけれど。

――参加メンバー全員が、謎の現象に襲われるようになった。

 自宅、身の回りで謎の異音、物が勝手に落ちる、なんてのはザラ。

 街を歩けば急に目の前に物が降ってきたり、車に轢かれそうになったり……あり得ないほどに不運が連続した。

 瑠那にとって初めての経験だった。

 今まで、自分が心地よく生きていたこの世界が、急に敵に回ってしまったかのような。

 そんな時、SNSで謎のDMが届いた。


霊障れいしょうにお困りですか。望月 瑠那さん』


 最初はストーカーか、悪質なファンだろうと思ったけれど、どうやら違った。そのメッセージをくれた主は、メンバーしか知らない失敗した心霊スポットでの撮影のことどころか、どんな現象が起きているかさえ言い当ててみせた。

 仕方なく、このカフェで待ち合わせることにした。

 相手はこう名乗っていた。


刃向威はむかい 将人まさと。除霊士をしています』

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