隠された真実
評議会の緊急会議室。重力異常の影響で、通常1Gに保たれているはずの空間に微かな浮遊感が漂う。壁面には刻々と変化するコロニーの状態を示すホログラムが投影されていた。
「我々の理解では」評議会議長のマリア・サントスが切り出す。「この異常は、デュボワ=アオキ工房とバイオテック研究所の共同開発品が発端となっている」
「議長」クレアが一歩前に進む。「この現象は、私たちが発見した新しい物理法則の現れです」
会議室内に衝撃が走る。
「説明を求めます」
クレアはホログラム投影を操作し、スマートファイバーの分子構造を表示させる。
「従来の量子力学では説明できない現象が発生しています。しかし、これは単なる異常ではありません」分子構造が複雑な幾何学パターンを形成していく。「私たちは、プランクスケールでの空間構造に直接アクセスできる可能性を発見しました」
「つまり、危険な実験を...」
「いいえ」今度はピエールが遮る。「制御は可能です」
彼は祖父の織物を取り出す。会議室の照明の下で、その表面が微かに輝きを放つ。スキャナーにかけられた織物の分子構造は、現在コロニー全体で観察されている量子異常と完全に一致するパターンを示していた。しかし、その構造は明らかに制御された、安定した状態にあった。
「20年前に、既にこのような技術が?」
「これは技術である以前に、職人の感覚として存在していました」ピールは静かに答える。
「祖父は最後の手記に、こう記していました」彼はホログラムに古い文書を表示させる。『量子効果は制御するものではない。むしろ、その自然な振る舞いに寄り添い、導くものである』
「この異常の本質は、量子もつれの連鎖的な増幅現象です」クレアが説明を続ける。「通常、量子効果は微視的なスケールに限定されます。しかし、特定の条件下では...」
突然の警報音が響く。
「重力制御システム、限界値到達。主電源、40%まで低下」
「残された時間は僅かです」クレアが緊急性を込めて語る。「このまま放置すれば、コロニー全体の崩壊も...」
「具体的な解決策は?」議長の声が鋭く響く。
ピエールは織物を手に取りながら答えた。「制御は可能です。しかし、それには従来の科学的手法と、伝統的な職人技の完全な融合が必要になります」
「説明を」
ピエールは織物から抽出した量子状態のパターンを表示する。「このパターンは、プランクスケールでの空間構造を安定化させる効果を持っています。理論的には、このパターンを応用することで、コロニー全体の量子異常を制御下に置くことが可能なはずです」
「ただし」彼が続ける。「それには、従来のAIシステムでは不可能な、直感的な制御が必要になります」
会議室の重力が、さらに不安定さを増す。
「時間がありません」クレアが切迫した声で告げる。「即座の決断が必要です」
議長は一瞬、目を閉じる。「許可する。ただし...」彼女は鋭い眼差しを二人に向ける。「これが失敗した場合の責任は、全て取っていただきます」
ピエールとクレアは、黙って頷いた。
廊下では、既に明確な重力異常が感じられる。時間との戦いが、新たな局面を迎えようとしていた。
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