第十四話 魔法模擬戦

「今日の魔法授業は模擬戦だ。お前たちが培ってきたスキルと魔法を実戦形式で競い合ってもらう」


グラウンドに教師の野島の声が響き渡る。教室の授業からグラウンドに移動してきた俺たちは、円形に整列させられ、中央には魔法演習用の広場が用意されていた。

生徒たちは互いに緊張感と興奮を隠せない様子でざわついている。普段は禁止されている「人に向かって魔法を使う」行為が、この授業に限っては許される――それだけで、クラスの熱気は普段の倍以上に膨れ上がっていた。


「順番に二人一組のペアで模擬戦を行う。魔法の効果を測りつつ、相手の動きを読む練習をしろ。ただし、相手が『まいった』と宣言した時点で勝負は終了だ」


教師の説明に生徒たちは一斉に盛り上がる。


「おい、早く組もうぜ!」

「あいつとは絶対に戦いたくねえな」


各々が手早くペアを作り始め、次々と組み合わせが決まっていく。俺はその様子を静かに見つめながら、隅で気配を殺していた。


(こういう時、俺が最初に余るんだよな……)


その予感はすぐに的中した。


「おい、天城」


声をかけてきたのは城戸だった。いつもの取り巻きを従え、余裕たっぷりの表情でこちらを見下ろしている。


「お前、誰とも組んでねえだろ? じゃあ俺が相手してやるよ」


「……別にいいけど」


俺が無表情のまま答えると、城戸の取り巻きたちが口々にクスクスと笑い出した。


「なんで天城とやるんだよ、城戸。意味ねーだろ」

「あいつ、Fランクだぜ?」


周りの生徒たちもチラチラとこちらを見ているが、誰も俺を助けようとしない。城戸たちが他の生徒と先にペアを組み、俺を孤立させたのだろう。これがいつものやり口だ。


「天城くん、大丈夫?」


不意に心配そうな声が聞こえ、顔を上げると朱音が近づいてきた。


「先生に言おう? こんなの不公平だよ」


「いや、いいよ。問題ない」


俺は首を振って断った。朱音は眉をひそめ、納得がいかない様子だ。


「でも……」


「ここで断ったら、俺の内申も成績もさらに落ちる。それに――」


そう言いかけて、俺は小さく息を吐いた。


「今日に限っては、ちょっと試したいことがあるんだ」


その言葉に、朱音は困惑した表情を見せたが、何も言わずに引き下がった。


「おい、聞いてるか? ルール説明してやるよ、天城」


城戸が偉そうに腕を組み、周りにいる生徒たちにも聞こえるような声で言う。


「この模擬戦では、お互いに魔法を撃ち合って、相手が『まいった』って言えば勝負がつくんだ。ちなみに、これで学年ランキングも変わるからな」


周りの生徒たちが興味津々にこちらを見始める。城戸の言葉に悪意があることは明白だった。模擬戦は成績に影響するため、Fランクの俺が挑む意味はほとんどない。城戸にとっても何の得もない勝負のはずだが――。


「でもさ、天城。これに負けたらさぁ、もう本当にお前って才能ないっていうか」


城戸がわざとらしく肩をすくめ、嫌な笑みを浮かべる。


「ここにいる意味ねーよ。さっさと転校しちまえば?」


その言葉が、グラウンドに重く響く。周囲の生徒たちも笑うことなく、息をのんで俺と城戸を見つめている。


(……いつものことだ)


こんな挑発には慣れている。それでも、今日の俺は違った。


「それはいいな」


「は?」


城戸が眉をひそめたのを見て、俺は淡々と続けた。


「この模擬戦で負けた方が転校するってことにしよう」


その言葉が広がった瞬間、グラウンド全体がざわついた。


「おいおい、マジかよ……」

「天城、正気か?」

「FランクがAランク相手に勝てるわけないだろ」


取り巻きたちでさえ動揺している様子だった。朱音も驚いた顔でこちらを見つめている。


「天城くん、やめた方がいいよ!」


「いいんだ」


俺は朱音の言葉を遮り、城戸を見据えた。


城戸の顔が一瞬歪むが、すぐに薄笑いが戻った。


「テメェ……はいた唾飲むんじゃねえぞ」


「そっちこそ」


「ゴミスキル野郎が……!」


城戸がそう吐き捨てるが、俺は微動だにしなかった。


(《過去視》が俺にとって起死回生のスキルかどうか……これで確かめる!)


握りしめた拳に力が入る。周りの視線が集まっているのが分かるが、それでも俺は冷静だった。


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ゴミスキル《過去視》、廃品回収で掘り出した力が無双への第一歩だった @sunao_eiji

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