第十三話 ゴミアイテムの進化
自宅に戻った俺は、玄関で大きな袋を床にドサッと置き、深いため息をついた。ジャンク商会から持ち帰ってきたゴミアイテムは予想以上に重く、両肩が悲鳴を上げている。
「……さて」
荷物を一つずつ取り出し、机の上に並べていく。どれも埃だらけで、かつての輝きを完全に失っている。だが、スキル《過去視》を使えば――それがただのガラクタで終わるかどうかはまだ分からない。
目の前に浮かぶウィンドウが、それぞれのしょぼさを容赦なく表示する。
【ひび割れた盾】
種別:防具/盾
ランク:F-
説明:表面が完全にひび割れた金属製の盾。かつては高級品だったが、現在は防御力を失っている。
【付与効果】なし
【砕けた宝石】
種別:素材/宝石
ランク:F-
説明:かつては高級な装飾品に使われていた宝石だが、現在は破損している。用途は不明。
【付与効果】なし
【折れた槍】
種別:武器/槍
ランク:F-
説明:先端が完全に失われた槍。かつて精巧に作られた武器だが、現在は錆びている。
【付与効果】なし
【古びた布袋】
種別:アイテム/袋
ランク:F-
説明:用途不明の布袋。かつて何らかの魔法効果を持っていたと推測されるが、今はただの布。
【付与効果】なし
「どれもこれも、見事にガラクタだな」
そう呟きながら、俺は顎に手を当てて考える。どれから過去視すればいいか――少し悩んだが、やはり布が一番気になる。
「じゃあ……こいつで決まりだな」
机の上に広げた古びた布袋を手に取る。これが単なるゴミなのか、それとも――スキル《過去視》で掘り起こせる何かがあるのか。少しだけ期待を込めながら、布に集中した。
スキルを発動し、1秒前の過去から掘り進める。
何度も繰り返す作業だが、今回はさほど苦痛ではない。かつて俺がのめり込んでいたMMORPGの「ランキングイベント」を思い出す。特定のアイテムを集めたり、モンスターを倒したりして得点を稼ぎ、順位を競うあのイベントは、期間中ほぼ徹夜で作業を続けるようなものだった。
(あの時のランキングイベントよりはマシだな……)
あの頃の俺は、部屋にこもってひたすらモンスターを倒し、アイテムを集め続けていた。ランキングで上位を狙うためには、ほんの数点の差も許されない。誰よりも効率よく稼ぐために、攻略情報を調べ上げ、徹夜でマウスをクリックし続けた。
結果、ランキングは常に10位以内。だが、その栄光を得るために失ったもの――例えば睡眠時間や健康的な生活――は数知れない。にもかかわらず、ゲームをやり続けた自分がいた。
(あの耐久力を使えば、これくらいの作業は何でもない)
そんなことを考えながら、《過去視》を淡々と使い続ける。何時間か経った頃、ついに布が「変化」を見せ始めた。
古びた表面が、徐々に新しい質感へと変わり、模様がくっきりと浮かび上がる。さらに布は光を帯び、形状そのものが変わっていく。
その瞬間、目の前に新しいウィンドウが浮かんだ。
【封印の開放】
アイテム:【古びた布袋】
ランク:F- → A
説明:本来の姿を取り戻したアイテム。過去に刻まれた力が解放され、かつての魔法的効果を取り戻しました。
【魔法の布袋(マジック・バッグ)】
種別:アイテム/袋
ランク:A
説明:魔法が込められた収納袋。空間拡張効果により、大量のアイテムを収納できる。
【付与効果】無限収納、重量軽減
「マジか……マジック・バッグ?」
思わず声が漏れた。マジック・バッグは高級な魔法アイテムだ。冒険者なら誰もが欲しがる一品で、市場価値は数十万円以上する。
(これを売れば……)
一瞬だけ、そんな考えが頭をよぎる。だが――
「いや、別の方法があるかもしれないな」
それ以上の言葉は飲み込んだ。余計なことは言わない。俺は布袋を丁寧に畳むと、そっと机の上に置いた。
次の日、寝不足のまま学校に向かった。教室に入ると、既に生徒たちが雑談を交わしている。俺は特に誰とも話さず、静かに席に着いた。
(眠い……)
授業が始まると同時に、あくびを噛み殺しながらノートを開く。基本的に、俺の存在はクラスの中で薄い。誰も俺に話しかけることはないし、俺も自分から目立とうとしない。
(……バレないようにやり過ごそう)
そう心の中で呟き、気配を消すようにじっと座っていた。
黒板の前では教師がダンジョンや魔法学について話している。
「ダンジョンにおいて最も重要なのは、己のスキルと装備を最大限に活かすことだ。特にスキルの使い方次第で、攻略の難易度は天と地ほどの差が出る――」
(……スキルの使い方、か)
教師の言葉がどこか遠くに感じられる。俺は昨晩の布袋――マジック・バッグを思い浮かべていた。
その時、隣からじっとした視線を感じた。振り向くと、城戸がこちらを睨むように見ている。机に肘をつき、薄ら笑いを浮かべていたが、その目には明らかに敵意が宿っていた。
(なんだよ、城戸……)
俺が目を逸らそうとした瞬間、城戸は小さく鼻で笑い、机に肘をついたまま小声で呟いた。
(天城の野郎……目障りだな)
(そろそろ仕上げといくか)
その表情に、背筋がぞわりとする。何か企んでいる――それだけは明らかだった。
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