第十二話 季節外れのサンタクロース
「全部で10万だな。まさかガラクタをローンで払う奴が現れるとはな」
マッチョ店員が鼻で笑いながら、カウンターの奥から書類を取り出す。俺はその視線に負けないように背筋を伸ばし、手元の契約書に名前を書き込んだ。
「月に3000円ずつ、必ず支払います。それまで、倉庫で保管しておいていただけませんか?」
「まあ構わんよ。ただし、途中で支払いが滞ったら荷物は没収だ」
「了解しました。お願いします」
「こんな変わり者の客、二度と来ないだろうな」
最後に呟かれた言葉を聞き流しながら、俺は契約書を渡し、倉庫の入り口に向かった。
今持ち帰れるだけの荷物を大きな袋に詰め込み、俺はよろよろと倉庫を出る。袋の中には、ひび割れた盾、砕けた宝石、古びた布袋など、ほとんどが誰も見向きもしないゴミばかりだ。それでも、俺にとっては可能性の詰まった宝の山だった。
街中を歩きながら、袋の重さに何度も肩を揺らした。袋は予想以上に重く、片手で抱えるのがやっとだった。
(こんなに重いとは思わなかったな……)
道の向こう側を見ながら次の一歩を踏み出そうとした時、不意に声をかけられた。
「天城くん? それ、大丈夫?」
振り返ると、そこには朱音が立っていた。彼女は少し息を切らしながら、心配そうな顔をしている。
「月宮さん? なんでここに?」
「さっきまで冒険者ギルドに寄ってたの。帰る途中に天城くんが歩いてるのが見えたから、声かけたの」
「ああ……そうだったんだ」
俺は袋を肩に担ぎ直しながら、視線を逸らした。
「それ、何が入ってるの?」
「え、いや……その……」
焦った俺が口を開く前に、朱音が袋を指差してさらに言葉を続けた。
「めちゃくちゃ重そうだけど、大丈夫? 手伝おうか?」
「いや、平気。これくらいなら余裕」
「全然余裕そうに見えないんだけど」
鋭いツッコミを受けて、思わず視線を泳がせた。彼女の心配そうな目が袋に向けられ、覗き込もうとしているのが分かる。
「ねえ、それ、何が入ってるの?」
「資源ゴミ」
「……資源ゴミ?」
「そう。分別するために持って帰るやつ」
「こんな大きな袋で?」
「そうなんだよ。ちょっと面倒でさ」
「ふーん……じゃあ、中身見てもいい?」
「いや、いやいや! ほんとにただのゴミだから!」
袋を必死に隠す俺の様子を見て、朱音は少し呆れたように溜息をついた。
「そんなに隠さなくてもいいじゃない。怪しいなぁ」
「怪しくないって。ゴミだもん。なんなら匂うし」
「匂いがしないゴミだってあるでしょ」
「そういうのもあるけど……!」
押し問答が続きそうだったが、ふと朱音が袋から目を逸らし、少しだけ声のトーンを落とした。
「あのさ、天城くん」
「ん?」
「今度の日曜日なんだけど……」
言葉を切りながら、朱音は顔を赤くして視線を逸らした。そして、恥ずかしそうに続ける。
「どうしても君と行きたいわけじゃないけど! 絶対に観たい映画があって……でも、女友達がみんな用事があるって言うから……」
「それで?」
「たまたま君が空いてたらどうかなって思って!」
早口でそう言う朱音に、俺は言葉を失った。慌てる彼女の様子が妙に可愛く見えて、余計にどう答えたらいいのか分からなくなる。
「べ、別に他に誘う人がいないわけじゃないし! ただ、君が……」
「あのさ、月宮さん」
俺は手をパンと叩いて朱音の言葉を遮った。
「ごめん。俺、次の日曜日は用事がある」
「……そうなんだ」
朱音は一瞬驚いた顔を見せた後、どこか残念そうに視線を落とした。
「そっか。まあ、いいけど。急に誘ったのが悪かったし……じゃあ、またね」
そう言って振り返る朱音の後ろ姿が、いつもより小さく見えた気がした。
「……悪いな、月宮さん」
心の中で呟きながら、俺は大きな袋を抱え直した。俺にはやらなければならないことがある。この袋の中に眠る可能性を掘り起こす。それが今の俺にとって一番大切なことだ。
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