第十一話 《ジャンク倉庫》の探索

埃っぽい空気にむせ返りながら、倉庫の中を進む。ここには使い物にならなくなった装備やアイテムが山のように積み上げられている。どれも埃をかぶり、金属部分は錆びつき、木製の部分は腐りかけている。


「……これは?」


俺は、棚の隅に置かれた錆びた盾を手に取る。表面には何かの紋様が彫られているが、今ではほとんど分からなくなっていた。重みだけは妙にずっしりと感じられる。


その瞬間、目の前にウィンドウが浮かび上がる。


【ひび割れた盾】


種別:防具/盾

ランク:F-

説明:表面が完全にひび割れた金属製の盾。かつては高級品だったが、現在は防御力を失っている。

【付与効果】なし


(……やっぱりデータでもゴミか)


内心がっくりしながらも、どこか惹かれるものがある。この盾の過去に俺のスキル《過去視》を使えば――そんな考えが頭をよぎる。


「まあ、持ち帰る価値はあるかもしれない」


小声で呟きながら盾を脇に置き、さらに次のアイテムに目を向ける。


埃を払いながら見つけたのは、古びた布袋。ところどころ穴が空き、表面には薄い模様が浮かび上がっている。


「これは……?」


布を広げて観察していると、目の前にウィンドウが浮かび上がった。


【古びた布袋】


種別:アイテム/袋

ランク:F-

説明:用途不明の布袋。かつては何らかの魔法的効果を持っていたと推測されるが、現在は失われている。

【付与効果】なし


「ただの布袋か……でも、何かのレアアイテムだったかもしれないな」


使い物になるかは分からないが、これも持ち帰る価値はありそうだ。


次に目を向けたのは、小さな木箱に入っていた砕けた宝石。鮮やかな光を失い、破片はパラパラと崩れている。


「……これもただの破片か」


そう思いつつ手に取ると、再びウィンドウが表示された。


【砕けた宝石】


種別:素材/宝石

ランク:F-

説明:かつては高級な装飾品に使われていた宝石だが、現在は破損している。用途は不明。

【付与効果】なし


「ただのゴミになったか……でも、こういうのが面白いんだよな」


そう呟いて宝石の破片をまとめ、さらに奥へ進もうとした瞬間だった。


「っ!」


視界の端で何かが素早く動き、思わず声を上げる。棚の隙間から現れたのは小さなネズミだ。埃にまみれた鼻をひくひくさせている。


「……ネズミ?」


咄嗟に後ずさりしたが、ネズミはすぐに影へと消えていった。その間抜けな反応に、背後から呆れた声が聞こえる。


「おいおい、ネズミ一匹にびびるようじゃ冒険者にはなれんぞ」


「……すみません」


苦笑しながら返事をするが、倉庫の雰囲気に完全に飲まれた自分が少し恥ずかしかった。


「それで、坊主。ゴミをこんなに漁って、どうするつもりだ?」


店員が興味深そうに腕を組み、俺の様子を眺めている。その問いに対し、俺は正面を向いて言った。


「全額買い取った場合のお金をお支払いします。その代わり、少しずつ運び出したいので、それまでここで保管していただけませんか」


「……まあ構わんよ。ただし保管代も請求するがな」


「ありがとうございます。それで大丈夫です」


「本当に物好きな坊主だな。まあ、あんたみたいなのは嫌いじゃないが」


店員はそう呟き、肩をすくめた。


埃まみれの倉庫を後にする時、俺は荷物を抱えながら胸の中で静かに思う。この中に、何かが眠っている。俺のスキル《過去視》が、それを掘り起こせるはずだ――と。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る