第十話 廃品回収施設《ジャンク商会》

学校の授業が終わると同時に、俺はいつもなら向かうはずの帰り道を外れ、街外れの一角に向かっていた。住宅街を抜け、冒険者ギルドの施設が並ぶエリアへと足を踏み入れると、目当ての場所が視界に入る。


《ジャンク商会》――冒険者たちが使い物にならなくなった装備やアイテムを引き取る廃品回収施設だ。その名前の通り、ここに持ち込まれるのはほとんどがガラクタばかりで、冒険者たちからは見向きもされていない。


「……ここだな」


立ち並ぶギルドの施設の中でも、ひときわ陰気で古びた建物。入り口には、錆びた鉄の看板がぶら下がっている。その看板に描かれた「ジャンク商会」の文字も、所々剥げていて読みにくい。


重そうな扉を押し開けると、店内には油の匂いと鉄くずが混ざったような独特の臭いが漂っていた。狭いスペースに所狭しと積み上げられた装備の残骸――折れた剣、ヒビ割れた盾、砕けた鎧――その全てが長い間放置されていたかのように埃を被っている。


「おい坊主、何の用だ?」


重低音の声に振り返ると、カウンターの向こうから屈強な男が俺を睨んでいた。筋骨隆々の体にタンクトップ一枚を纏ったその男は、まるで店の雰囲気とは正反対の存在感を放っている。


(これが……店員?)


思わず圧倒されそうになるが、ここで尻込みしている場合じゃない。俺は深く息を吸い込み、毅然とした態度を装って口を開いた。


「ここにあるガラクタを買い取りたいんです」


その言葉を聞いた瞬間、男の眉がぴくりと動いた。腕を組み直し、目を細めて俺を見下ろす。


「……坊主、冗談で言ってんのか?」

「いえ、本気です」

「全部か?」

「はい。全部です」


店内に沈黙が訪れる。店員の男は怪訝そうな表情を浮かべながら、カウンター越しにこちらをじっと見つめている。その眼差しは、まるで目の前の生徒が問題発言をした時の教師のようだ。

「ガラクタなんて買って何する気だ? 冒険者になりたいなら、新品を買うほうがずっとマシだぞ」

「それは分かってます。でも……俺にとっては、必要なものなんです」

「必要、ねえ……」


男は鼻で笑いながら頭を掻く。そして、仕方がないというように溜息をついた。


「まあいい。どうせ誰も持って行きゃしないしな。ただし、ここの品はタダ同然だが、それでも買い取るとなれば最低限の料金は発生するぞ」

「構いません。全部買い取らせてください」


俺の言葉に、男は再び怪訝な表情を浮かべたが、それ以上何も言わずに倉庫の奥へと向かった。


倉庫の中には、さらに大量のガラクタが積み上げられていた。折れた剣、砕けた宝玉、ひび割れた鎧――どれも、冒険者たちが廃棄したものだ。


「こんなもんでいいのか?」

「はい、お願いします」


その答えに、男は何かを言いたげに口を開いたが、結局黙って肩をすくめるだけだった。俺は店内を見回しながら、目の前に広がる「不要品」の山を見つめる。


(これが、俺の始まりだ)


誰も見向きもしないガラクタの中に埋もれている可能性。それを掘り起こすのは、俺のスキル《過去視》しかない――そう確信しながら、俺は静かに拳を握った。



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