小説の書き方(我流)
ジャック(JTW)
シアハニー・ランデヴの書き方
※物語の作り方を赤裸々に書くという都合上、ネタバレに関する配慮などはまったくございませんのでご注意ください。シアハニー・ランデヴ既読の方向けの内容となっておりますのでご注意ください。
◆タイトルについて
舞台はシアハニーという架空の街で、少年と少女が出会い恋をして死に別れる悲恋の物語という構想だけは最初からありました。
シアハニー・ランデヴというタイトルは、シアバターの『シア』と、恋人を呼ぶときの『ハニー』をくっつけました。なんとなく甘くて切ないかなと思いました。あと、ランデヴーというのは少し古い印象を与える言葉で、スマホや携帯電話などの機器が発展していない時代をイメージしてつけました。
ランデヴーではなく『ランデヴ』(伸ばし棒がない)なのは、主人公とヒロインが幸福になるわけではなく、途中で二人の道が途切れることを暗示した意味を込めていました。
◆物語全体の構成
早速まとめると、シアハニー・ランデヴの構成は、こうなっています。
①シアハニー・ボーイミーツガール
→ デュランという主人公の紹介、アネモネというヒロインの出会いと仲を深める過程。デュランとデュランの母親が置かれた環境の説明。
②シアハニー・トラジェディ
→ デュランとアネモネの蜜月、そして悲劇と、関係性の崩壊。デュランが闇に堕ちる引き金を読者視点でもある程度納得のいく形で描く。
③Bottom of the hell(地獄の底)
→ 主題。復讐は本質として陰惨なものである。得られたかもしれない幸福な未来の可能性と引き換えにしてでも、本当に成さなければならないことだったのだろうか?
④シアハニー・ランデヴ
→ タイトル回収兼、デュランが犯してきた罪の報いを受けて死ぬまでの話。
大きく分けて、この4つで『起承転結』ができていると思います。
◆物語のアイデアと構成について
もちろん、最初からこの形が明確だったわけではありません。どうやって物語の形に持っていったのか、その過程を書くことにします。
①原案を出す
私にはそもそも身分差の悲恋が書きたいという気持ちがありました。それと、個人的な悩みをミキサーに掛けてグルングルン混ぜてジュースにして物語の原案にしました。
色々アイデアを出していきました。少年の名前、年齢、舞台となる街の部分、物語の構成案、考えつく限りのifルートなど、書けるだけ山のように書き出して、その中から相性が良さそうなものを引っ張ってきて物語に組み込みました。
当時のメモの一部をそのまま貼ります。
【メモ】争いごととは無縁のお嬢さんとスラム育ちの少年が出会い、お互いに初恋をする話。
『幼少期編(前編)』と『思春期編(後編)』『大人編(後日談)』。幼少期編では、仲良くできていた二人。
しかし、思春期になるとお互いの生まれ育ちの違いで二人は引き裂かれてしまう。お嬢さんは名門校への道へ、少年はマフィアとしての道を歩み、二人の未来は決定的に分かたれてしまう。
完成形と比較すると、だいぶ違いますね。
骨子は最初から結構決まっている気がしますが、まさしくプロトタイプという感じがします。主人公とヒロインが時間経過とともに年齢を重ねて変化していく物語を意識していたと思います。
②とりあえず書いてみる
設定に行き詰まったときは、とりあえず本文を書き出してみます。書いてみて、不足したことや疑問に思ったことを書き出して、疑問を解決してから決定稿にしました。
カクヨムに投稿する際には副題もいりますから、副題のアイデアもついでに出しました。副題にもこだわりたい、そんな気分だったので。
下書きを見ると、面白い発見がありました。副題が『シアハニー・ランドスケープ』になっていた部分がありました。ランドスケープ(景観)よりも、トラジェディ(悲劇)の方がシンプルで本質を表していて、いいですね。
①原案を出す→②とりあえず書いてみる→③修正する→①に戻る、を納得がいくまで繰り返すことで、アイデアや文体や表現を少しずつでも洗練させていき、よりベストな形を模索していきました。
◆初期構想と決定稿の違い
大きく違う点がいくつかありました。
初期案では、デュランがマフィアのボスを謀殺してマフィアのボスになるという展開でした。
しかし、デュランにボスを謀殺するほどのアグレッシブさがあるのか? 権力、ほしいか? と疑問に思いました。結論としてはデュランは権力も金も求めていないと思ったため、展開を修正しました。
『ボスを殺す』という展開はそのままに、『ボスを殺さざるを得なくなる』展開を作りました。
それが、シアハニー・ランデヴ(前編)の、ジニアという名前の少女を助ける展開です。人を殺め、父を再起不能にして、顔見知りの指すら笑って切断するようになってしまったデュラン。
そんな彼の心を揺さぶるために、何が効果的なのか考えました。アネモネに関することでしか有り得ないと私は思ったため、ジニアを登場させました。
◆ジニアというキャラクターの役割
ジニアは、アネモネの親戚の少女です。アネモネに似ている、アネモネに近しいものの、別人の少女。そんな彼女が誘拐されて身代金を要求されているということは、デュランが所属するマフィアの魔の手が〝天国〟側にも迫っているという表現でもありました。
ジニアを見捨ててマフィア側につくことは、実質的にアネモネを見捨てることになるという図式になるようにこっそり取り組んでおりました。
はっきりいいますが、何事もなくマフィアが勢力を拡大すれば、いずれアネモネも被害に遭っていました。殺されていたでしょう。
◆マフィアのボスの役割
デュランの義理の父のような役割です。デュランの母が残した縁のようなものを表現したくて出てきてもらいました。
『悪魔が〝天国〟にいけなくとも、天国より素晴らしいものにすればいい』というある種の理想を抱えた彼。
メタ的に言うと、ジニアを見捨てた場合デュランが辿った道を擬似的に表現したキャラクターです。
最初に自分が何を望んでいたのかも忘れて、血に塗れた修羅の道を選んだifの姿。
そんなマフィアのボスを殺すことで、デュランはそのifの姿にならないことを示しました。アネモネへの愛が、まだ残っていたから。
そして、デュランが『話し合いで解決する』という穏当な手段をとれなくなっている(説得を試みることなく殺すということが選択肢に入っていて、それを実行できてしまうほど堕ちている)という描写でもありました。
◆物語のラストシーンについて
デュランとアネモネか死に別れる(≒幸せに共に生きる道はない)というのは最初から決まっていました。しかし、デュランがジニアを(人殺しという手段を使ってはいるものの)助けるという選択肢を取らなければ、二人は再会を果たすことはできませんでした。デュランは人知れず死に、死に目にアネモネと再会することなく死ぬエンドも、当然考えていました。
しかし、何度シミュレーションしても、デュランは同じ道を辿りました。ならばそれを尊重するのが、私にできることだと思いました。
◆キャラクターを展開に合わせて動かさなかったが、自然と想定通りに動いてくれた
普段、キャラクターを作るときは、思考回路も好みも判断基準も私とは全く別のキャラクターを作っていました。だから、思い描いたストーリー通りに動いてくれないこともよくありました。
しかし、今回は、デュランというキャラクターの根幹に、私の思考回路をほぼ流用しました。
判断基準は私と同じ、大切にするものの順番も私と同じ、究極のところで選ぶ選択肢も私と同じ。非常に考えやすかったです。ほぼ私が想定したシナリオ通りに動いてくれました。書きやすかった。
◆キャラクターの名前について
デュランの名前は、カレンデュラ(キンセンカ)という花から取りました。カレンデュラの花言葉には、「別れの悲しみ」「寂しさ」「悲嘆」「失望」というものがあります。
アネモネの名前は、そのままアネモネの花から取りました。花言葉は「はかない恋」です。デュランに癒しをもたらすものの、彼を苦境から助け出す力は持たないというイメージでした。綺麗な花を見て心が癒されたとしても、問題の根本的解決はできないでしょうから。
最後に、デュランの弟ネイサンの名前の意味は、『贈り物』です。何重にも輪をかけてすごく悪意のあるネーミングだと思います。
◆物語のテーマ、何を主軸にしたかったのか
『(※私にとっての)復讐とは、未来に得られるかもしれない全ての幸せを投げ出す行為である』というものを物語の形に落とし込んで書きたかったのです。人一人の人生を終わらせるほどの復讐をするということは(※私にとっては)爽快感のあるものだとは思えませんでした。
私刑を実際に行ったとしたら、それ相応の罰を受けねばなりません。人を傷つけておいて、その報いを自分だけ受けたくないというのは論理に反します。
私は、罰も受けたくないし、罪も背負いたくないので、復讐をしないことを選びました。そして誤解の解消や、歪んでいた認知がある程度正されたことにより、復讐をする必要もなくなりました。抑えきれない悲しみの原因を紐解いて、客観視することができたのは、私にとってとても良い経験でした。
要するに、書いてよかったです。
◆意図的に構造を重ねていた
物語を重ねていく強みを活かすことをイメージしました。物語の構造をにたものにしつつ、『少し違った内容』になるように、意識して書きました。
例えば、デュランが殺した暴漢と、マフィアのボス。二人とも、頭を撃っています。そしてデュランの死因も拳銃による銃殺です。人を殺す道具=拳銃という意味を持たせました。ネイサンがデュランを撃つという構造も、かつての幼いデュランと暴漢に重ねています。
ネイサンの『母』エリザベスとデュランの『母』の弱った姿が重なるようにしました。そしてデュランの『父』に当たる存在はどちらも死んだほうがマシな目に遭わされたり、実際に死んだりしています。
◆物語の円環、終焉
そしてシアハニー・ボーイミーツガールという物語の始まりと、シアハニー・ランデヴという物語の終わりには、対比構造を用いています。物語の最初で出会い、物語の最後で別れるようにしたかったのです。
そして、物語上重要な意味を持つ要素も配置しました。デュランが『
メタ的には、物語の途中から突然脳内に情景とフレーズが思い浮かんで、慌てて書き留めたものが、以下の通りになります。
――遠い夜の果ての小さな
――うねる海の中で光る夜の
――人魚は泡に成り果てて……
そして、物語の締めくくりに、この
――遠い夜の果ての小さな
――うねる海の中で光る夜の
――人魚は泡に成り果てても 夢見ることをやめられない
――砂に描いたあなたとの思い出が
――しびれるように冷たい海の底 あなたの温もりが忘れられない
――わかっているの わたしは
――それでもいい 少しだけ あなたのそばにいさせて……
シアハニー・ラヴソングを公開する直前まで、この歌詞にはとても悩み、何度も書き直しました。砂に描いたあなたとの思い出が潮騒の音に消されてく、というフレーズは本当に好きです。アネモネにも、デュランにも、そしてこの歌を好んでいたデュランの母にも重なるような歌詞にするのを心がけました。
物語の構成、展開の考え方、アイデアを出して収束させるやり方、キャラクターのネーミング、物語の構成要素についての解説など、大まかにはできたのではないかと思います。
ここで四捨五入すると五千文字近くになったので、一旦ここで切り上げます……!
少しでもどなたかの参考になりましたら幸いです。ここの部分をもう少し掘り下げて知りたいなどご希望がございましたら、お手数ですがコメント等で教えていただけたら助かります。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
小説の書き方(我流) ジャック(JTW) @JackTheWriter
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