犬と猫の愛され勝負

カルムナ

犬と猫の愛され勝負

 ある日、犬と猫が静かに語り合っていた。テーマは「どちらが人間のパートナーとしてふさわしいか」。

 両者とも一歩も引かない、真剣勝負だ。


「俺たち犬は、人間のために働くことができるんだ。家を守り、狩りに協力し、災害の時には命を救う。常に従順で信頼されているのは俺たちだろ?」

 犬は胸を張り、自信たっぷりに言った。


「ふん、それが何だっていうの。私たち猫は、人間と対等な関係を築いてきたのよ。私たちがネズミを捕って食料を守らなければ、彼らは生き延びられなかった。依存するのではなく、共に生きる。それが本当のパートナーシップでしょう。」

 猫も負けじと、鋭い瞳で犬を見据える。


「それに何より、俺が一番可愛い。」

「何言ってるの?私こそが一番可愛いに決まってるわ。」

 そんな調子で、二匹の言い争いは止まらない。


 しかしそんな言い合いの最中、飼い主が部屋に入ってきた。二匹は言葉を止め、期待の眼差しを向ける。

「さあ、ご飯の時間よ。」

 飼い主が持ってきたのは、犬には骨のおもちゃ、猫にはまたたびだった。それぞれの大好物を手渡されると、二匹は目を輝かせて受け取った。


 犬は骨を噛みながら、ちらりと猫を見て鼻を鳴らす。

「ほら見ろ、俺にはこんな立派なものをくれるんだ。お前のその小さなまたたびなんか比べものにならない程大きくて噛み応えがある。」

 猫はまたたびに顔を擦りつけながら、口元に笑みを浮かべる。

「見てごらんなさい、素敵な匂いに深みのある味。ただ硬いだけの骨なんか比べ物にならないわ。」


 自分にこれほど素晴らしいものをくれるのは、こちらを一番に思っている証拠だろうから。

 互いに大好物を満喫しながらも、心の中で競り合いを続ける。こっちの方が愛されている、と。


 そんな二匹のやり取りを横目に、飼い主は微笑んだ。

「ほんとに、この子たちは可愛いわね。」

 犬は骨を転がして幸せそうに遊び、猫は夢中でまたたびを抱きしめている。どちらかが特別というわけではない。ただ、二匹ともいてくれるだけで、飼い主はこの上なく幸せだ。


「どっちも大好きだよ。」

 飼い主の小さなつぶやきは、遊びに夢中な二匹には届かない。そっと両手で二匹を撫でると、それぞれ気持ちよさそうに声を上げた。


「やっぱり俺が一番だ。」

「やっぱり私が一番よ。」


 こうして犬と猫の愛され勝負は、互いに勝利を確信して終わった。


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