午後五時三〇分


 ミズキの乗った軽自動車の前に、タイミングを見計らってクズリの身体を突き飛ばした。クズリはミズキの車に衝突し、勢いよく吹っ飛んだ後、前輪と後輪に踏まれて致命的なダメージを負った。


 俺はこみ上げる笑い声を必死に押し殺した。ミズキの表情を堪能するために、木立の中を移動し、ミズキの車の前方へと移動した。


 車内から出てきたミズキの顔を見て、愉悦ゆえつが背筋を走り抜けた。ミズキの顔は蒼白だった。クズリの死体のすぐそばまで来たところで、その顔はますます絶望に沈んだ。


 我慢できずに、道路の脇の木立から出た。路面の上を覆う雨水の層をブーツが突き破り、小さな飛沫があがる。ミズキが顔をあげ、俺を見て顔を引きらせた。


 ふとミズキの表情に違和感をおぼえた。驚愕で見開かれた目は、俺を通り越してより遠くを見つめているように思えた。背後からエンジン音が聞こえ、俺は咄嗟とっさに振り返った。すぐ目の前に見慣れたセダンが迫っていた。


 次の瞬間、凄まじい衝撃とともに俺の視界は激しく揺れた。黒い路面と雨滴と、鉛色の曇り空が混ざり合って一つに溶ける。ああ、空を飛んでいるんだ、そう思った瞬間、俺の身体は凄まじい勢いで奈落の底に叩きつけられ、世界は闇に閉ざされた。


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