午後四時四五分


「殺す、殺す、ぶっ殺す」


 クズリの鼻歌を聞きながら、俺は顔がにやけるのを止められなかった。

 俺はクズリがここを目指してきていることを知っていた。道路に仕掛けた監視カメラにバイクに乗った奴の姿が映っていたからである。久々に玩具こいつで遊べると思うと、心が踊った。


「タイガ、出て来いよ。ずっと会いたかったんだぜ?」


 足音が近づいてくる。俺は廊下の曲がり角で壁に張り付いたまま、全身に力を込め、襲撃に備えた。


 奴の顔が曲がり角の向こう側から覗いた瞬間、俺はスタンガンを奴のくびに押し当てた。奴は短い叫び声をあげて身体を仰け反らせ、床に倒れた。奴が白眼をき、意識を失うまで俺は電極を押し当て、通電させ続けた。


「俺も会いたかったぜ、クズリ。お前は最高の玩具だよ」


 俺は気絶したクズリの手から日本刀を抜き取り、部屋に投げ捨てると、その身体を担ぎ、玄関へ向かう。


 気絶したクズリに睡眠薬を飲ませ、抱え上げて玄関を出ると、黒いセダンのドアの脇で、シャチが片手を上げた。


「父さん、今日は客が多いね」


 俺の視線は門の先で道を塞ぐように停まっているトラックへと移った。思わず俺の顔はほころんだ。


「シャチ、流石だな。トラックで道をふさぐとは」


「ミズキさんと遊ぶんでしょ? なら逃がさないように足止めはきっちりしないとね」


「良い息子を持ったもんだよ、俺は」


「ていうか、その男の人、何? タイミング間違えたら僕、殺されてたかもしれないんだけど」


「大丈夫大丈夫、あいつが来るタイミングは監視カメラで見てたから。危なかったらお前にちゃんと事前に知らせてたよ」


「本当に危ないな。それが息子に対する仕打ち?」


「何言ってる。お前はそうそう死なないだろ」


 シャチは納得していない様子でため息をついた。


「父さん、僕も行っていい? 危険な目に合わせてくれたんだからそれ位許してくれるよね?」


 俺は内心驚いた。


「ああ、まあ別にいいが。珍しいな」


「そういう気分なんだよ」


 シャチはそう言うとセダンに乗り込んだ。

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