午後五時三〇分


 目の前、路上で死んでいるのはクズリだった。いや、それは正しくない。私はクズリをき殺したのだ。知らず、私は自分自身を抱きしめていた。身体の震えが止まらなかった。


 クズリの身体は無残に破壊されていた。首と腕と脚がありえない角度で曲がり、義眼は眼窩がんかから零れ落ちて、顔の横で砕けていた。


「私は失敗したのね」


 私は両親の死後、それからの数週間を思い返した。探偵事務所に調査を依頼し、タイガに強い恨みを持った人物を複数探し出し、その人物らに復讐を代行させようとした。先週、復讐代行人候補へ匿名で手紙を送りつけた。今日の午後四時以降、タイガは珍しくボディガード無しで山奥の別荘に居ると。復讐には絶好のチャンスだと。


 復讐代行人候補の一人がクズリだった。クズリは過去、いわゆる半グレに所属していた男で、過去にタイガに手酷く痛めつけられたらしい。


 クズリのブルゾンの下から、黒光りする拳銃が覗いていた。


 ふと顔を上げ、私は硬直した。視線の先に見覚えのあるセダンが停まっていた。そして、その前で満面の笑みを浮かべたタイガがレインコートを着てこちらへ歩いてきていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る