タイガは私を二階の書斎に通すと、黒革のソファーに座らせ、自身は大きな机に着席した。
「さて、なぜ呼ばれたかわかるか?」
机の上から私を見下ろしつつ、微笑みながら
「私の、両親の件ですよね」
「正解だ、お前の両親はつい先月に、偶然、不幸な事故に遭ったからな」
我慢できなかった。私はタイガを睨みつけた。
「貴方が、貴方が殺したんでしょう? 私の両親を
目頭が熱くなったが、私は必死に我慢した。この悪党の前で涙を見せたくなかった。
「そりゃ面白い仮説だな。面白いが、証拠は無い。警察も事故と判断している。なんせ、俺が個人的にお世話になっている刑事が言っているんだからな」
私は拳を握りしめた。タイガは大企業を経営している実業家であり、かつ日本有数の資産家でもあり、あらゆる業界に
「貴方は悪魔よ」
「あまり褒めるなよ。照れるだろうが」
私は深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、話を先へ進めた。
「それで……両親の借金の件で、何なんですか?」
「話が早くて助かる。まず、お前には二〇〇〇万円の借金がある。ご両親が事業に失敗して残った借金だ。返せるアテはあるのか?」
「ありません」
「だろうな。正直、お前みたいに蝶よ花よと育てられたお嬢様が用意できる金額じゃないと思っている。
だから俺からお前にいい仕事を紹介してやる。男を相手にその恵まれた外見を武器にできる職業だ」
嫌悪感と吐き気がこみ上げ、私は目を閉じた。
「嫌です。できません」
「できませんじゃないだろ。俺は貸したものはきっちり返してもらう主義だ」
突然、タイガの声が低くなった。
「できないなら、文字通りお前の体を切り売りしてもらう。若い女の臓器は高く売れるんだ。言っとくが、返しきるまで一つずつ臓器売ってもらうからな。命の保証はしねえぞ」
私は頭を殴られたような衝撃を受け、タイガを呆然と見つめた。タイガの瞳は黒々としていて、まるで彼の内面の闇を映しているかのようだった。
「よく考えろ。明後日まで猶予をやる。慎重に考えて選べよ。働くか、内臓売るかだ」
私の胸がずしりと重くなり、じくじくと痛みをおぼえた。知らず、私は口を手で押さえていた。
「良い顔をするじゃないか。楽しいねえ」
目の前の男は口角を吊り上げ、笑っていた。深い闇を宿した瞳が、私を見つめていた。
「なぜ、なぜこんなことをするの? 貴方はお金には困っていないはず、そうでしょう?」
「楽しいからだよ。それ以外にあるか?」
悪意が人の形をしていたとしたら。この目の前の男のようになるのだろうか。そんなことを私は思った。
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