午後四時〇〇分


 さびれた港町から、細い山道を二時間以上走り抜けた先に、その屋敷はあった。広い駐車場に入ると、大きなトラック一台とセダンが二台、停まっている。それらの車から少し離して、私は自身のおんぼろ軽自動車を停めた。


 降りようとして、ふと助手席に置きっぱなしにした一枚の領収書に目が留まった。領収書には探偵事務所の名前と、調査料として、という但し書きが記されている。私はそれをグローブボックスにしまい込んでから、ドアを開けた。


 暗い、鉛色なまりいろの雲に覆われた空の下で、その館は堂々とそびえたっていた。


 それは三階建ての洋館だった。中央には母屋が鎮座し、その左右に尖塔が一棟ずつ建てられている。それぞれの建屋には三角の屋根が乗せられており、まるでおとぎ話に出てくるお城のようだ。


 どうしてこんなことになったのだろう、そう私は自問する。

 小さな鉄工所を経営していた両親が行方不明になり、遺体で発見されたのはつい先月のことだった。後に残ったのは巨額の借金。大学を退学せざるを得なくなり、今や財産はこのおんぼろ軽自動車一台のみ。そんな中、ある男に呼び出され、今私はここに立っている。人生、一寸先は闇だ。こんなことが自分の身に起こるなんて考えもしていなかった。


 コンクリート造りのポーチをくぐり、大きな玄関扉の前に立つ。深呼吸をしてから、呼び鈴を鳴らした。


「よう、来たかミズキ。来ないかと思ってたが」


 分厚い木製の扉を開けて出てきたのは、短い髪を金色に染め、ストライプの入ったスーツを着た、大柄な中年の男だった。ごつごつとして威圧的な体躯たいくをブランド物の高級スーツの中に収めることで、男は暴力の匂いを隠すことに成功していた。


「タイガさんに言われましたので、来るしかありませんでした」


 私は震えそうになる体を必死に抑えつつ、タイガを睨みつけた。


「可愛い顔してるくせに度胸はあるな。そういう女は好きだ。入れよ」


 タイガはにやりと笑い、ドアを大きく開いた。私はタイガの後に続き館に入った。

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