4-2.えっ、それって私がやってもいいんですか??

 5日間のリフレッシュ期間が終わり、私たち静かなる狼が再始動する。


 ゴロゴロしているみんなの世話をして過ごすのは弟妹のお世話を思い出して楽しかったけれど、やはりこの人たちはシャキっと背筋を伸ばしている方がカッコいいな。

 私もそう見えるといいなと背筋を伸ばしてみる。どうかな? 近くの小鳥に尋ねてみるが飛んでいってしまった。ふっ、私を見て照れたんだな。かわいいやつめ。

 

「あんた何やってんの?一人芝居は不気味だからやめなさい。」

 

 ヒドいッ!


 先輩に引きずられるようにしてやってきたのはご存知ギルドハウス。2階建ての大変立派な建物だ。ゴーレムよりもでかいぞ! いや、高さは負けてるかもなぁ。でも横幅は間違いなくギルドの方が広い。間違いない。だってゴーレムサイズだったら私が十人入ったらパンパンですもの。私のスポンジのごとく吸収し、絞れば抜ける記憶の中ではゴーレムは思い出すたびに大きくなっていくが、横幅は大して変化がない。こんなにスリムだったっけと既に10頭身だ。間違いなく間違えている!


 比較は難しいからさっさと中に入る。板張りのホールでたくさんの冒険者が行き来している。この街は魔獣の出現率がやたら高いから、冒険者も普通の街よりはるかに多い。

 時々知り合いと軽くあいさつをするみんなの後を黙ってついて行く。私はあまり知り合いに会いたくないので。出来れば今回も宿で待つか乗合馬車集合にしたかったのだけど。でもそろそろ依頼票の見方を教えてくれると言われれば、ついていかざるを得ない。まあそろそろ私も観念すべきなんだろうな。


 というか、一応私だって依頼票くらいは見たことがある。初めの頃はわりと取り繕えていたからね! しかし改めてみると壁にたくさんの羊皮紙が貼りつけられているのは、ちょっと不気味。でもみんなはそう思わないみたいで、さっさとよさそうな依頼がないかを見ている。


 ちなみに冒険者の位階はざっくり低位中位高位で分類されている。時々私が高位のとか言ってたのはそれね。で、扉に近い側から低位の依頼が貼られている。ここは大体いつも混んでいる。低位がやっぱり一番たくさんいるから仕方ない。

 で、奥に行くと中位、さらに奥というか向かいの壁というか、そこに高位の依頼票が貼られるわけだ。さすがに高位の冒険者は少ないから基本的には混みあうことはない。

 依頼自体も高位冒険者必須っていうのは常にあるわけでもないしね。依頼ないねって無駄足な時は、とりあえず森に入って魔獣をシバけばいい。ちょっとでも魔獣を減らすのは街のためになるし、魔石もいろいろと使い道があるのだ。


 さて、今日の依頼はなんてーのっと。

 みんなはさっさと冒険者用に備え付けられたテーブルに腰を下ろしている。どれでもいいから良さそうなのをもってこいというのだ。でも壁には一枚だけ。今日の依頼はこれだけか。選ぶ余地がない!テーブルからだって一枚きりなのは見えているから、普通に持ってくるだけの簡単なお仕事だ。でもなんというか、こういう扱いは普通に下っ端として働いている気分になれる。難しくなくてわかりやすいから、こういうお仕事は好きだ。


 さっと依頼票を壁から取って、みんなの元へ戻る。

 ちなみに羊皮紙には穴があけられていて、壁にあるピンに引っ掛ける仕組みだ。羊皮紙だってただじゃないから、べりべりはがしたりするとギルドの人に怒られるのだ。まあ上位ならそんなひどい扱いをする人はいないけど、下位に新しく入ってきた冒険者は勢いがあるからやってしまうことがあるのだ。

 そういう理由もあって、上位の依頼票ほど新しくて、ある程度使うと中位、さらに下位へと落ちていくのだ。ちなみにギルドの査定で低位向けと判定した場合でも、依頼者が追加での報酬を出すなら高位向けにすることもできたりするらしい。

 ただ、簡単すぎる依頼は逆に怪しいし、自分たちの格を落とすだけだから受けられることはあまりない。そうするとだんだん中位の、さらに低位まで下がることになると。当然追加報酬付きだから低位に落ちてきたら一瞬ではぎとられるらしい。だからそういう依頼は元からよれた羊皮紙が使われる。うーん、無常だなぁ。

 しかし、それ相応って言葉は私にも刺さる言葉だな。あまり楽をしたいとかばっかり言ってちゃダメかもしれない!

 

 ***


 苦労することなく取ってきた依頼票には、塔の調査とある。読んでみろというので黙って読んでたら呆れられてしまった。ああ、みんなに向けて音読ってことね。うっかり。

 

「ええっと、森の北側3層で新たに塔が見つかったと。なんだとう?!」


 内容に思わずリアクションをしてしまう。視線が痛い。だってこの間私たちがゴーレムを撃破した場所のそばだ。仕方ない。今度こそ大人しく依頼票を読み上げる。

 要は謎の塔が現れたからなんとかしなさいとのこと。あれ、これ依頼主はギルドだ。通りで新品の羊皮紙が使われているわけだ。

 しかし調査ねぇ。私はまだ経験したことのないタイプの依頼だ。そもそもとして冒険者に調査依頼が出ることはほとんどない。だってみんな学がないもの。調査してこーい!って放り出されても、何を調べればいいのかチンプンカンプンでしょ。羊の数を数えろって言うならやるけども、それって調査って言えるのかな?まして塔の調査ときたらなんともだ。

 というわけでこの手の調査依頼は、実質的に然るべき技能をもつパーティへの名指し依頼になっている。らしい。今先輩が説明してくれたから、気になることがあればなんでも先輩に聞こう。聞いてみる。


「その調査ってのはウチでもできることなんですか?」


 確かに静かなる狼にはパッと見た感じ賢そうなメンバーが多い。いや、私以外みんな賢そうに見える。実際賢いことは間違いないけども。


「うちでその手の技能があるのは二人だね。」


 そう言ってリーダーが指し示したのは師匠と旦那。師匠はまあそうだねって感じだけど、旦那なのはちょっと意外だ。


「お前さん、顔にでとるぞ。まあ自分でも似合わないとは思うがな。」


 そして師匠からはゲンコツ。おお、失礼しましたが、力ずくで頭を下げさせるのはやめてほしい……。そしてチラリと残り二人を見る。リーダーは苦笑いで、先輩はフイと顔を逸らした。

 先輩はまあ槍を振り回す姿の方がしっくりくるけど、リーダーはその痩せ気味で理知的な見た目からはそれこそ意外だ。


「調査っていうのは正しい観察と推察、知識が必要とされるものだからね。ちゃんと専門で学んでない我々ではずれた結果になってしまう。まあだから指名依頼として機能するんだけどね。」


 なるほど。知識とか技能が必要ってのは知っていたけど、その理由は知らなかったから勉強になる。そして私自身がその指名をされることがないこともわかった。


「で、だ。塔についてだ。俺たちがゴーレム討伐を果たした場所からかなり近い。これは偶然だと思うか?」


 脱線しまくった話を元に戻す。空気を読んだりしない師匠なので、こういう真面目な議論の場では助かる。すぐに脇道に逸れちゃうから。


「あんたのために一応補足しておくと、森の北側に塔があるって話は聞いたことないわ。歩ける場所はだいたい踏み荒らされてるし、珍しいものがあればなんでも根こそぎする冒険者がよ。なのに今更新しく塔が見つかった。なら今までとの違いは何かって話。」


 なるほど。てっきり森の中は突然塔が生えてくるのかと思ったけど、違ったようだ。口に出す前でよかった。


「私はゴーレムが大いに関係していると思う。偶然にしては近すぎる。ゴーレムのようなデカブツが突然現れたのでさえ異常事態だ。異常事態が二つ重なるのなら、それは一続きの何かと考える方が自然だ。」

「俺もその意見に賛成だな。塔とゴーレムに共通点を探すんなら、どっちも魔術師が絡むってことだからな。なんか悪巧みがバレたってことじゃねぇかね。」


 賛成意見が二つ。次に先輩が口を開く。


「ほぼ黒でしょ。っていうかゴーレムはもういないじゃない。なら関係があってもなくてもどっちでもいいでしょ。」


 なんか私も賢そうなことを言いたい。みんなからなんとかなるほどって言葉を引き出したい……!


「ゴーレムも塔も石造りですね!」


 出てきたのは沈黙。まだ、私には早かったかな。少し泣く。だが意外なところから助け舟が出る。


「確かに属性としては一致している。あのあたりに石材が出るような場所もない以上は、他所から魔術師なりが持ち込んだんだろう。つまりだ、ゴーレムと塔を何十年も隠しておけるような魔術師がいた。そして、その魔術師が建てた塔に挑むことになる。」


 それ、すごく危ないのでは?私はすぐにピンときたけど、みんなは別にそんなことはないみたい。


「あら、じゃあ魔術師の置き土産も期待できるってことよね。」

「俺は酒があると嬉しいね。あればうん10年もんだ。さぞうまかろうよ。」

「良い感じの魔術道具とかあるかもしれないね。私のコレクションが増えるかもしれないな。」

「未知の術式が眠ってる可能性もある。相当な魔術師だからな。期待できそうだ。」

 

 それぞれが自分の都合の良い想像に笑いを漏らしている。黒ずくめの師匠の怪しさはもう書く必要もないけど、他三人もなかなかの怪しさ。胡散臭いといっても良いか。まあ上位冒険者といえど、基本は命知らずの強欲者だものね。私?私だって今全力で何があったらいいかを考えている。なんかすごい魔術構成を手助けしてくれるような杖とかあったらいいなぁ。もしかしたらあるかも…。いや、あるな。ある!


「じゃあ、これ受けるってことでいいですね?」


 依頼票を持っているのは私だし、みんな楽しそうに未来予想をしているものだから、私が意見をまとめてみる。本当は新米の私がやるのは恐れ多いことだが、みんななんかトリップしてるから仕方ない。だがそれでも私の問いかけに一斉にそれぞれの言葉で受けるとの回答。……これ気持ちいいなぁ。ちょっとしたリーダー気分。じゃあと受付に出してきますと立ち上がると、師匠も一緒に立ち上がる。流石に私が受けますって言っても門前払いだよね。だって私ギルドにほとんど寄り付いてないから顔を知られてない。強そうにも賢そうにも見えない(可愛らしくは見えるぜ!)から、イタズラ扱いが残念ながら妥当…!いやあ持つべきものは師匠だね。というか今後を考えると私もちゃんとギルドの人たちに顔を覚えてもらわなくてはならないのでは?


「ようやくわかったか。最終的な判断はリーダーだけどな、やりたい依頼があれば誰が提案してもいい。ただし提案したやつはそれなりにギルドとやり取りをすること。今後はお前もやることになるからな。さっさと覚えてもらうんだな。」


 そういえば今日は依頼の受け方を教えてもらうってことでしたね。塔のせいで忘れてたわ!

 師匠に後ろに付いてもらってアドバイスというか指示を受けながら依頼を受領する。しかしあれだな、師匠はきっと一発で顔を覚えてもらえたんだろうな。ここまで全身黒いのはいないからね。


***


 ギルドの椅子をいつまでも占領するわけにはいかない。それに細かいことを話すなら落ち着けるところがいい。

 

 なので宿の男子部屋にみんなで集まり、今後の依頼の対応について詰める。単純な森での魔獣討伐ではあまりやらないらしいのだが、今回は森ではなく塔での調査依頼だ。打ち合わせ大事ね。ちなみにゴーレム討伐とか、普段と違うような依頼については毎回打ち合わせしてから冒険に出向いている。


 基本的にはリーダーが進行役になって依頼について説明して、質問に答えたり、懸念される問題は何かとかそういう話し合いが進む。時々リーダー以外が進行役になるのはギルドで師匠に説明された通りの理由だ。そうだったのか。いつもは聞いているだけだったから楽な立場だったけど、今回は違う。だって依頼を受けたのは私だからね。選択肢なんてなかったけども、一応私が選んだってことになる。

 いつも私が座っていた椅子にリーダーが座っている。みんななんだかニヤニヤしている。くそう、そんなに私が緊張しているのが面白いか! そりゃ面白いよな! 私だってできるならそっちで私のガチガチっぷりを楽しみたい!


 いつものリーダーを真似て、というか少しでもあやかろうと窓を背中に立つ。先輩は椅子に座り、その隣にリーダー。旦那と師匠はそれぞれの使っているベッドに腰掛けている。もう、この部屋は三人部屋なのに、なんで椅子は2脚なの!どうでもいいことに八つ当たりだってしちゃうんだぜ。


 ともかく私が話さないとこの打ち合わせは終わらない。もとい始まらない。

 依頼を受けた時にあらかじめ必要なことは聞き出している。まあ必要なことなんて分からなかったから、私が聞いたのはいつからいつまでの依頼なのかってことと、報酬の話だけ。あとは師匠が聞いてくれた。言っておくけど珍しい魔獣を倒せとかそういうのなら確認事項の半分くらいはわかるよ。今までの打ち合わせでなんとなくわかってきたもの。でも今回はできるパーティがあまりいないような調査の依頼なので。これはわかんなくても仕方ないのだ。

 話が逸れたけど、私が進行役である。さっきはリーダーの真似事が楽しいなんて言ったけど、まともにやらされることになると楽しさよりドキドキが勝る。うおっ私の心臓が飛び跳ねている!すごいなこれ!未体験の息苦しさに困惑しきりの私だが、みんなは割とフラットな態度だ。まあおかげで落ち着きはしましたけどね。もうちょっとなんていうか、この子にできるかしら?みたいな感じに見守っててほしかった。


 それより、何を調査するのかってのが大事なので、言い漏らしがないように気をつける。塔の規模や塔が建てられた目的、機能やいつから塔は存在していたのか。あとギルドの人たちから聞いた今現在の状況について情報共有。ふう、なんとか覚えた話を全部言い終わった。師匠からは特に補足のコメントは出なかったので、不足なしだと思う。いやぁ、口がカラカラだ。用意していた水をぐいっと一気に飲む。


 細かく一言一句再現するくらいの勢いで話をしたけど、まとめると一言ですむ。塔をなんとかしろ。以上。調査と言いつつ、問題があるようならうまくやれって。なるほど、無茶振りをうまく言い換えたものだ。


「依頼については了解。カチカチだったけど結構うまくやってたわよ。座ってよし。」


 先輩からはお褒めの言葉をもらった。褒めてもらったのは嬉しいが、今は進行役をさっさとおりたくて必死である。いつもの椅子はリーダーに取られているから、そそくさとリーダーのベッドに腰をおろし一息つく。


「報酬については上乗せありってことだけど、国からならそれなりに出してくれるんでしょう?どうせ調査だけで終わるわけないんだし。」


 そうなのだ。実は私たちがゆっくりと休んでいる間に塔は見つかっていたし、何ならどんなものかと中まで入った冒険者もいたという。そしてその冒険者が見た光景こそがギルドが調査依頼を出した理由でもある。


「そこは期待してくれていい。さっきそこのが言ったとおり、塔から魔獣が現れている。魔獣を塔が生み出している可能性があるということだ。」

「黙ってみてられないわよね。じゃあ調査だけじゃなくてどうにかする前提で動くわよ。いいわね、リーダー?」

「もちろん。塔を見物に言った物好きからも話は聞いてある。塔の入り口から魔獣が出てくるところを見たってね。」

「疑う余地はない。どうやっているのかは塔を見てのお楽しみだ。ろくでもないことだけは保証するがな。」


そんなの保証されても嬉しくない!


「少なくとも最上階まで、塔の攻略に挑むことになる。いろいろと用意が必要だろうから、明日1日を準備時間に充てようと思う。各自必要なものを用意しておくこと。いいね?」


 全員が頷く。私は何が必要かはわからないので、とりあえず師匠と先輩に必要なものを聞いておかなくては。個人用と、パーティ用それぞれ必要なものをね。なにせ私の役目だから!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る