4-1.えっ、今日からしばらくお休みなんですか??

 ゴーレムの討伐報告は大変だった。いきなりこんな話でごめんねって感じなんだけど、大変だったから仕方ない。

 なにせゴーレムである。見たことなくても聞いたことはある、昔の英雄譚とかに出てくるような大物だ。ギルドの職員としても本当にゴーレムだったのか、確認するのはとても大事なお仕事なのだ。……と、リーダーが言っていた。しかもゴーレム自体は丸っと吹き飛ばしてしまったのだから、少しでも証拠が欲しいというわけだ。バカでかい魔石は残っているから討伐自体を疑われることはない。最後の切り札として私が頑張った証拠でもあるから、疑われるのはやな気持ちになるよね。まあ頑張った証拠として他の証拠を吹き飛ばしているんだから困りものだけど。

 

 で、普段の討伐ならリーダーや先輩、師匠がちょちょいと報告して完了なんだけど、そう言った理由で全員に聞き取りが行われたわけ。どのくらいの大きさだったかとか、どんなふうに戦ったのかとか。

 ただ、聞き取りを予想していたのか、師匠が全員にこれだけは口に出すなと、ゴーレムが木々に擬態していたことを秘密にしろと言っていたから、その点だけは私もみんなも話すことはなかった。なんで秘密にするんだろうか。そのうち説明があるんだろうけど、正直疲労困憊で理由までには頭が回らなかった。

 そんな風に黙っていることもあったけど、私たちの説明に対してギルド側が特に問題視していたのは、ゴーレムに奇襲されたと思われる被害者がいたことだ。私たちも完全にしてやられたわけだけど、森の安全地帯に現れたのはすごくやばい。家に知らない人が隠れてたくらいやばい。流石にゴーレムが2体も3体もいるとは思わないけど、いないといい切れる証拠もない。今後はとにかく注意喚起が必要だとギルドの職員の目は死んでいた。まあしてもらわないと冒険者が死ぬから仕方ないね。


 ひとしきり報告が終わって、ようやく打ち上げである。楽しく騒ごう、という気力は既にみんなない。魔術師2人が魔力切れ状態。しかも前衛3人もゴーレムと真正面からやり合っていたのだ。神経削れるでしょ。おまけにバカでかい魔石のせいで一人が荷物持ちになると。そんな状態で森を抜けてきたんだから疲労どころではない。ギルドの聞き取り中眠りかけたのは私だけではないはず。それでも食べずに寝るよりは食べてから帰ろうと言うことになったのだから立派なものだ。


 頂きますと乾杯のあと、誰も喋らずに黙々と口を動かす。ひたすらに食べ続ける私たちは相当目立ってただろうな。

 食べ終えて会計して、そのまま黙って宿に戻る。まるで不幸でもあったかのようだ。

 宿の前で、部屋に戻る前にとリーダーが3日間休みにすると宣言した。正直助かる。師匠も私を手招きし、修行もなしだと言う。声を出すのさえ億劫な師匠など初めてみた。それだけ疲れてるなら仕方ない。私もとにかく休みたいのは一緒だったから、大人しく頷いて部屋に戻る。

 着替えてからベッドに入りなさいと言う先輩の声に何とか反応し、ローブを脱ぎ、シャツのボタンをもたもたと外す。隣からは苛立った時の先輩の舌打ちが聞こえる。わかる。なんでこんな脱ぎにくいんだ、この服は! ようやく下着だけになったときには寝間着に着替える気力すらなくなっていた。まあ、しかたない。先輩なんてボタン外すのを諦めて上から脱いでたもん。そのままベッドに倒れ込んだら、あとは何にも覚えてなかった。


 ***

 

 目が覚めるともうお昼だった。ぐぅとお腹の鳴る音で目が覚めたのだからうら若き乙女としては恥じ入るべきかもしれない。が、隣のベッドではお腹丸出しで先輩がまだ寝ている。2人とも酷いならまあ問題ないでしょう。流石にそのままにはできないので、先輩の白く柔らかそうな(それでいて引き締まった)お腹に毛布をかけておく。

 

 この分だと起きているのは私だけだろう。なにせ最年少だし。というかゴーレムと直接やり合ってないのは私だけだし。前衛3人と師匠は足止めのために戦ってたからね。昨日森から帰る時点でみんな筋肉痛間違いなしと言ってし、労いの意味も込めて、朝ご飯、もうお昼だけど、用意してあげよう。

 

 足取りも軽く宿を出る。魔力の使いすぎで昨日はくらくらしてたけど、気分は晴れやかだ。なにせ今日はなにもないお休みだからね!魔力はまだ三分の一くらいかな、そのくらいまでしか戻ってないけど、明日には全快してると思うし。近くのパン屋で5人分のパン屋を買う。あの人たちは多分夕方まではずっと宿にいるだろうから、夕飯にも出来るくらいたくさん買う。店のおばちゃんがびっくりしてたから、みんなすごい頑張ったから疲れて寝ているんだと教えてあげる。なぜか私も頑張れと発破をかけられてしまう。なぜだ?


 部屋に戻ると先輩が目を覚ましていた。目を開けているけど寝転がったままだ。


「毛布ありがとう。久しぶりにこんなに寝たわ。もう何にもする気しないわね。……あれ、もしかして私たちの分も買ってきてくれたの?」

「みんなお疲れですからね。私は魔力切れくらいでしたからこのくらいはしますよ。先輩の好きなアップルパイもありますよ。」

「助かる〜! 持つべきものは出来た後輩ね。隣はまだ寝てるみたいだけど、パンの匂い嗅げば起きると思うから、届けてあげて。」


 寝転んだままゴソゴソとアップルパイを取り出し、早速かぶりついている。お湯ももらってきてあげようか。多分むせるぞ、あれ。

 

 隣の部屋は男子部屋。男子三人で散らかっているかと思えばそんなこともなく、全員しっかり布団を被ってベッドに入っている。

 昨日の寝方に限っていえば、男子の方が綺麗に寝てたみたい。無理に起こす必要もないし、とりあえず机にパンとメモだけ置いておくことにしよう。でも紙袋のゴソゴソいう音に目を覚ましたのか、リーダーと目が合った。今ひとつぼんやりとしていていつものシャッキリした感じがない。声に出さずにジェスチャーでパンを置いておくことを伝える。が、トロンとした目はそのまま閉じられてしまった。流石にまだ起きなそうだ。

 

 静かに部屋を出て、1階の食堂でお湯を貰う。コップ一杯と、タライに一杯。私は昨日の汗を流したいし、きっと先輩もそうだろう。後ろ手に扉を開けると先輩はベッドに腰掛けるようにしてパンを食べていた。流石に寝ながらは品がないと反省したのだろう。


「あ、お湯まで用意してくれたの! ありがと! 昨日体拭いてないしちょっと気分良くなかったのよね。ほんと今日のあんたは気が回るわね。助かるわ。」

「ふへへ、私は気がきく後輩ですから! 飲む方のお湯もありますから、これもどうぞ。」

 

 テーブルにコップを置くと、早速口にしている。コクコクと両手でコップを持つ様はなんだか可愛らしい。普段の勇ましい姿もかっこよくていいけど、こういうちょっと弱った姿というのもいいものだ。

 

「あんた、そんな目で見るのはやめなさい。なんか邪な雰囲気出てるわよ。」

 

 おっと、見透かされてしまった。このままではエロ親父と言われかねない。それは流石にご勘弁だ。

 

 先輩の姿もいいけど、自分の姿も整えなくては。服を脱いで下着だけの姿になる。タオルをお湯につけてよく絞る。ちょっと熱いくらいだけど、体を拭くならこの位が丁度いい。ちなみに私は左腕から拭く。肉のついていない自分の生白い腕はあまりみていて面白いものではない。やはり先輩くらいしっかり肉がついている方がいいよなぁ。チラリと先輩を見るが、パンを食べつつも時折ぼーっとしている。先輩が眠っちゃう前にお湯を譲った方がいいな。ペースを上げて体を拭っていく。にしても温かいタオルに疲れがほぐれるのを感じる。首元から、ささやかな胸を通り、お腹まで。優しく丁寧に拭く。背中は一人じゃ届かないから、タオルの両端を持ってゴシゴシと。あまり強くしすぎると赤くなっちゃうから、優しくね。そうやって全身の汗を落としていくと、なんだか生き返った気分になる。髪を洗うほどではないので、香油を少しだけ差しておく。うん、よくなった。

 

 服を着直して、立ち上がる。先輩へとお湯を譲ると、お礼と共に今日は自由にしていいとのお言葉。


「私は今日は一日宿で休んでるわ。私たちの介護もいいけど、外に出る元気があるなら遊びに行ってもいいわよ?」

「本当に大丈夫ですか? でも、行っていいなら出かけてきますね。前までよく行ってたお店に久しぶりに挨拶行っておこうかと思うので。」


 じゃあいってらっしゃいという声に押されて宿を出る。男子部屋も一応覗いてみたが、まだ全員起きてくる気配はない。まあパンは置いてあるし、好きにするだろう。大人だしね。起きた後に置いてあるパンに気がついて、気のきく後輩に涙を流して感謝することだろう。きっと師匠も私を見直すな。こりゃまいったな。うへへ。


 帰ったら待ち受けているだろう私を称える声の想像をしてたらお店まではあっという間だった。

 金芽の杯。ここは安くて美味しいと評判の新人とか若手向けのお店だ。前のパーティを首になってからしばらくたむろっていたのだけど、静かなる狼に拾われてからは全然顔を出せていなかった。何せ休みがなかったから。ここのウェイトレスとは割と仲が良くて、さっさと次の仕事を見つけろと尻を叩かれていたのもある。また冒険者として働き出したということと、心配ないことを伝えたいのだ。


 お昼過ぎだからお客さんはほとんどいない。いらっしゃいと迎えてくれたのは馴染みのウェイトレス。久しぶり、と手を振る。

「えっ久しぶりじゃない! 元気にしてた? 顔出さなくなっちゃったし、もう田舎に帰ったのかとおもってたわ。」

 懐かしいマシンガントークにちょっと嬉しくなる。

「今ね、新しいパーティで頑張ってるところ。新入りだから全然休みがなかったの。今日は久しぶりに休みもらえたから、話でもしようかなって思ってきたわ。今の時間ならちょっとくらい話せるでしょ?」

「ちょっと待ってて。あ、いつものでいいよね? 好きなところ座って。待って、あっちの壁際ね。私も休憩取るから、座ってて。」


 てんちょー!と休憩と注文を通しにいった彼女が指定した席に向かう。入り口からは見えにくくて、ちょっと他の人と顔を合わせにくかった私がいつも座ってた席だ。座ってみると馴染みのある風景。ここでエールを飲んで現実逃避していたのを思い出す。


 エールを二つと、チーズの盛り合わせを持ってウェイトレスが私の正面に座る。早速木製のジョッキを二人で合わせる。

「結構通ってもらってたけど、一緒に飲むのは考えてみると初めてね。あなた、ちょっと怪しい感じの人についていっちゃったでしょ?あなたのところまで案内したのは私だし、大丈夫かなって思ってたのよ?」

 

 師匠との出会いもそういえばここだ。うん、突然黒ずくめの男についていった私は完全に詐欺師にカモられるか弱き少女だな!心配されてもしかたない。

 

「そういえばそうかも。私はずっと飲んでたからあんまり初めてって気分じゃないけどね。で、その怪しい人のいるパーティにね、今は所属してるの。見た目はまああの通りだけど、すごい魔術師なんだよ?」

 

 そうなの? と懐疑的なウェイトレスだけど、魔術師ってみんな変わっているからというと、私をマジマジと見てから納得していた。失礼な。でも心配してくれて嬉しい。ちょっとニコニコしてしまう。

 女子二人揃えば言葉絶えることなく。どんなパーティなのかとか、酒場に来るお客さんの噂話だとか、笑い声がホールを明るく響く。変わらぬ常連客や、最近冒険者になったであろう少年少女。いろんなお客さんが酒場を訪れる。ウェイトレスはただお酒を運ぶだけ。冒険者に近づきすぎるのはよくない。だっていついなくなるのかがわからない人たちだから。ゴーレムとの戦いは初めて私に危険を実感させた。一つ間違えれば自分も仲間も死ぬ世界。ウェイトレスからすれば、私は間違いなくいなくなってもおかしくない人なんだなと思う。

「なんかあなた変わったわね。無理にはしゃいでるみたいなところあったけど、自然になってる。」

 そうかもしれない。まあ酒場にパーティとではなくずっと一人で来ている時点でうまくいっていないのは丸出しだ。そんな状況じゃ空元気もいいところだったろう。

「新しいパーティではね、私すごい厳しく鍛えられてるの。ダメなところはガンガン駄目出しされてね、どこが悪いとか、どうするべきだったかとか指導してくれるの。」

 エールを飲み干す。まあお酒がなくては話せないような辛い話じゃない。おかわりは後でいい。

「正直前のパーティの時から、私はかなりお荷物だったなって。魔力はあったから期待だけはされてたけど、肝心なものが何にも身についてなかったから。いいの。事実だし、ちゃんと受け入れてるから。」

 別に辛いなら話さなくてもいいよと、私の優しい友人はいう。でも、それでも頑張るって決めたのだ。だから、最後まで話させてほしい。

「クビになってから、ううん、クビになる前からずっとうまくいってなかったの。本当はここに連れてこれればよかったんだけど、もう全然ダメすぎてね。あなたには見栄を張りたくなっちゃってて。まあクビになったんだけど。」


「噂には聞いてたよ。うまくいってない魔術師いるって。」

「うん。今はね、師匠が、あの黒づくめの人ね、が色々一から教えてくれてる。私、昔習っただけの魔術を無理やり使ってただけで、基本も何もなってなかったみたいだから。そうなっちゃうよねって。正直すごいショックだったから、何にもしたくなくなっちゃって飲んだくれてたんだけど。」

「今は、うまくいってるんでしょ?」


 しっかりと頷く。私には勿体無いくらい。いやぁ、あまり湿っぽい話ばっかりするものじゃないな。そう、今うまくいっているなら、過去の失敗は糧になったってことにしよう。


「昨日もね、依頼で森に入ってたんだけど、なんと!ゴーレムと戦ってたんだよ!」

「ゴーレムってあれでしょ、おとぎ話で聞いたことある。でもゴーレムってお城とか、そんかそういうの守るために作られるんじゃないの?」


 あれ? 確かに思い出してみると城とか門とか、そういう仰々しい建物の前にいるイメージだな。森には……いない。


「確かに! じゃあ森の中に何かあったのかもね。ちょっと今はみんな疲れてお休み中なんだけど、今度森に行くときにはなんかないか調べてみる。」

「うちは中位以上のお客さんってあまりこないんだけど、何か噂が聞けたら教えてあげる。代わりに、あなたの今のパーティ、今度紹介してね。」

「もちろん。みんないい人たちだから、きっとこの店も気にいると思うな。」

「お客を増やしてくれる常連は良い常連よ!これからもご贔屓に!」


 気がつけばそれなりに店内も人が増え始めていた。長々と話をさせてもらってたけど、そろそろ潮時ってことだろう。仕事に戻る彼女にお会計を頼む。もちろん二人分を私が出す。いいの?って聞かれたけど、無事冒険者に戻ったのだ。この位は出させてもらいたい。

 

 じゃ、またねと挨拶を交わして酒場をでる。もう夕暮れだ。あとは何をしようか。うーん、師匠の代わりに色々なところに顔出しでもしておくか。どうせ師匠は明後日まではろくに動けないだろうしね。そうしたら、師匠だって私を褒めてくれるに違いないのだ。


 

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