第一話 誰かが忘れた二人の約束
僕とナツキの間には、親鳥と雛のような関係がある。同じ16歳で、血の繋がりも無い。
なのに与える、与えられるという関係にある。
簡単に言って仕舞えば、僕が毎日ナツキの病室に通って、色んな物を渡す。それだけだ。
例えば今日だって……
「飛良!今日は何を持ってきたの?」
肩の下まで伸びた、ストレートな銀髪。
細く柔らかな輪郭に、仄かに赤い瞳。
とても病気とは思えない少女、ナツキ。
「本を持ってきたんだ。」
昼下がり。5月の風はのどかで、暖かい。
穏やかな陽射しが、二人きりの病室に差し込む。
「本かぁ。つまんないなぁ。」
僕は、まるで子供のようなナツキを無視して鞄から本を取り出す。
タイトルは、"いつかどこかの星の果て。"
「まあまあ。そう言わずに読んでみてよ。」
と言って僕は掌サイズの本を手渡す。
「いつか…どこかの…星の……果て?」
「お、読めるんだ!」
「私でもこのぐらいは読めるわいっ。」
まぁ、「星」も「果て」も難しくは無いな。
「それで、飛良。あらすじは?」
「新鮮な気持ちで読んで欲しいから、宇宙人と人間の物語、とだけ。」
「宇宙人と、人間……」
途中で飽きないといいけどなぁ。
「分かった!明日までに読んでみるよ。」
「ゆっくりでいいよ。」
じっくりと考えながら読んで欲しい。
「あ、そうそう。今日は親が仕事で、留守番をしなきゃならないから、もう帰るよ。」
「だから本を持ってきてくれたんだ。私が退屈しないように。飛良ってば優しいなぁ。」
「た、ま、た、ま、で、す。はよ読め。」
「恥ずかしがっちゃってぇー」
このガキ…なんかうざい。
でもまぁ、ナツキが読み終わった後に語り合うのは楽しみだったりする。
「じゃ」
「また明日来てねー!」
二階の病室から、僕が病院の敷地を出るまで手を振るの、そろそろやめて欲しい。
ナツキの入院している病院から僕の家までは、車で10分程度の距離がある。
僕はいつもそれを、自転車で30分かけて通っている。
もちろん、ここまで頑張るのには理由がある。
今から10年前。丁度小学校に入学した頃だ。
どうしてかは忘れてしまったが、僕もナツキと同じ病院に入院したことだけは覚えている。
そこで、偶然同じ病室になったんだ。
彼女のベットは窓側で、僕のベッドはドア側。
いつも窓の外を眺めるナツキを、僕は眺めていた。
どっちから話しかけたか、なんて覚えてない。
けど、子供だったからかな。すぐに打ち解けて、仲良くなった。
好きなアニメについて語り合ったり、一台しかないテレビの番組で喧嘩したり。
僕が退院するまで、退屈することはなかった。
けど、思ったんだ。二人だから楽しかった。
なら、一人になったら?
僕だったら、耐えられない。
そう思ったから。こんな約束をしたんだ。
「ナツキが退院するまで、毎日見舞いに来るよ。ナツキがしばらく外に出られないなら、僕が外の世界の物を持ってくる。楽しみにしててね。」
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花桜ふ Hanasakulaugh 心配 しよう @Melomp1
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