花桜ふ Hanasakulaugh
心配 しよう
第零話 速水なつきの仮想日記
将来は幸せになりたい。
どんな形でもいい。ただ幸せになりたい。
生きている必要はない。それが幸せならば。
そう考えたから、日記をつけ始めた。
7年前。私が9歳の時から。
いつも、11ヶ月先の未来を書いている。
なんとなく、で書ける最長の未来日記だ。
私にとっての11ヶ月は大きなものだ。
体が成長するごとに病気も重くなっていくから。
筋肉や骨の成長に、内臓の成長がついていけないのだ。
だから、物心ついた頃には入院していた。
それから、外に出たことはない。
お花見も、海水浴も、紅葉狩りも、雪合戦も。
全て夢物語。
それでも、夢でもいい。きっとの未来を書こう。
今、春を寝過ごし桜の散る三月下旬。
そして11ヶ月後の二月。私はこう言うだろう。
「本物の桜が見たい。」と。
きっとその声は、冬の乾いた空に染みて消える。
しかし一人の少年が、確かに聞き届けてくれる。
「見たこと、無いんだっけ?」
「一度も、ね。」
二人きりの病室。開いた窓。
ベッドから少し体を起こした少女。
椅子に座って本を読みながら、顔を上げた少年。
だからなんだ?って話だが、彼なら何かしてくれるんじゃないかという甘えがある。
「冬に、桜かぁ……。今じゃなくても、あと一月もすれば見られるよ?」
「今がいいの。探してきて!一生のお願い!」
「探すったってなぁ……?」
これまでも、この先も、私は彼を困らせる。
それは変わらないし、変えたくない。
私と彼が繋がっている理由は、それだけだから。
「とりあえず、桜について調べてみるよ。」
彼は真面目な顔で言う。
私が無茶振りをして、彼がこんな顔をする時。
彼は必ずやり遂げるんだ。
「ありがとう。飛良!」
「まだ何も見つけてないじゃんか。」
「探そうとしてくれてる。」
「そんなので褒めないでよ。子供じゃ無いんだから。」
ぶっきらぼうに答える飛良は、少し笑っていた。
「なんで笑うのさ?」
本当に楽しそうに笑うもんだから、気になってしかたがない。
「ナツキが子供だから」
「どこがよ!」
「そうやって、本当に楽しそうに笑ってるところかな。」
ついつい笑ってしまうのは、私もだったらしい。
すると、五時を知らせるチャイムが鳴るんだ。
「もう帰らないと。」
いそいそと、帰り支度を進める飛良。
「なんか予定でもあるの?」
「ナツキが探せって言ったんだろ!」
「あ!そういえばそうでした。」
すぐに行動に移してくれるのが、彼の長所だ。
「それじゃ、気をつけてね。」
「あぁ。また明日。」
…本当は分かってる。こんなものは未来日記ではなく、ただの理想を詰め込んだ「仮想日記」だってこと。
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