僕に受験は愛せない!

袖びーむ

第1話 恋する受験生

受験ーーーそれはほとんどの人が体験するであろう人生の大きな壁!本試験のその一日のために全ての学生は三年間努力を積み重ねる!べきなのだが…その三年間という長い年月故に、途中で勉強から逃げたくなる者も現れる。まぁ、僕もそのうちの一人だ。

さっきから偉そうに語っているが僕の名前は月島希つきしまのぞむ15歳、埼玉県のとある中学校に通う中学三年生だ。つい先週春休みが終わり、いよいよ新学期が始まった。親友の星来せいらとは同じクラスで、これで三年間同じクラスということになる。

「希、おはよ。」星来とは毎朝僕の家の前で待ち合わせをして一緒に登校している。

今日も朝からイケメンだこと。星来は運動にスポーツもできてしまいに優しくとどめに顔まで良いというなんともてんこ盛りな人だ。当たり前だけど女子からモテるし、先生からも好かれてる。学年委員長も務める僕とはちょっと住む世界が違うタイプの人だ。僕はそんな星来と家が隣というだけでここまで仲良くしている。一部の女子からは羨ましいとかそんな噂を聞いたことがあった気がする。あーあ、僕も羨ましがられたい…

「おい、希聞いてるか?」

星来の声で一気に現実に引き戻された。星来が心配そうに僕を見る。お前は良いよなあモテるし。

学校につくと、同じクラスの丸山が二組の水瀬みなせさんと付き合いだしたとかそんな噂で女子達が盛り上がっていた。

それにしても女子はホントに恋バナが好きだよなぁと思いながらぼーっと女子達を横目に鞄から教科書を机にしまっていると、突然隣から話しかけられた。

「月島君は、彼女とかいないの?」

隣の席の倉瀬優乃花くらせゆのかだ、彼女もまた、星来と同じ陽キャグループの一員で、顔も整っていてしまいには誰にでも優しいというこれまたオマケ付き。あぁ、この世界には陽キャしかいないんだろうか。

「残念ながらまだいないよ」

少し笑いながら答える。

「えぇ~いそうなのにいー」

倉瀬さんのきゃっきゃっとした笑顔が溢れる。こんな僕にも優しく話してくれるなんて、やっぱり倉瀬さんは完璧美女だなあ。あぁ、僕も彼女ほしい。

「おーい優乃花ぁー」

廊下から女子が呼ぶ声がした。倉瀬さんはは~いと可愛く返事をして席を立ち上がった。

「じゃ、またあとでねっ」

僕に軽く手を振ると女子達の方に小走りで駆け寄っていった。

「やぁっぱ可愛いよな、優乃花。」

星来が話しかけてきた。どうやら一連の会話を見られていたらしい。ってか、名前呼び?僕ですらさん付けなのに!?

「そういえば仲いいんだっけ」

机の中から本を取り出しながら星来に話しかける。

「ま、大した仲じゃねぇけどな」

なんだ。大した仲って。やっぱ陽キャのノリはわからん。

結局、その日は倉瀬さんと話すことは無かった。


塾。放課後クソダルイベントの一つだ。中三の受験生にもなると塾に行っていない人のほうが珍しくなってくる時期だろう。そういえば倉瀬さんは塾行ってないとか聞いたな…ホントかなぁ。そんな事を考えながらいつもの席につく。

「あ、月島。今日そこ体験の子来るから、一個隣ずれてくれないか」

先生が僕に向かって言った。体験…?ま、いっか。そう思いながら先生に返事をして、広げた筆箱とテキストをそのまま隣の席にスライドさせて移動した。授業開始5分前、教室の扉を開けて体験生が入ってきた。思わず驚きで声が出ていた。

「倉瀬さんっ!?」

紛れもなく倉瀬さんだった。制服姿でどこか恥ずかしそうに教室にそそくさと入ってきた。え、待てよ、隣の体験生って…。予想は的中した。

「月島君、ここの塾だったんだ」

席についた倉瀬さんが僕の方を見て話しかけてくる。可愛い。毎日学校で会っているはずなのに、どこか違う気がする。

「あ、うん。そうなんだ。星来も一緒だよ」

しまった!余計な事まで言ってしまった!僕は倉瀬さんと二人っきりが良かったのに!

「星来もここかぁ」

倉瀬さんが教室を見渡して言う。

明らかに教室がザワついている。なんてったって、学年三大美女の一人だ。すくなくともうちのクラスでは断トツに可愛い。男子達は、分かりやすく倉瀬さんの事をチラチラ見ている。

「ねっ、席くっつけよ?」

えっ。いきなり!?なんで?いやいやまてまて落ち着け。あの倉瀬さんだぞ!?

「う、うん。良いよ」

考えると同時に答えていた。すると後ろの方からヒソヒソと声が聞こえる。

「なにあの子、月島のカノジョ?」

「月島があんな可愛い人と!?嘘だろ!?」

倉瀬さんはそんな事気にもとめない様子で、ニコニコ顔で授業開始を待っている。後で先生から言われたが、どうやら同じ学校の人がうちのクラスには僕しかいなかったので、先生が初授業の倉瀬さんに配慮してくれたのだと言う。ちなみに星来は一個上のクラスにいる。ナイスだ、先生。

授業中は常に漂うフローラルな匂いにドキドキさせられっぱなしだったが、なんとか無事に全授業を終えた。家の方向も同じなので、倉瀬さんと一緒に帰る事になった。

「へーじゃあ、星来の紹介で入ったんだ!」

僕の入塾の成り行きを話しながら二人で自転車を押して歩く。これ、周りからみたらどんな風に見えるんだろう。そう考えると倉瀬さんの話の内容が入ってこなくなりそうだった。 今はとにかく倉瀬さんとの貴重な時間を楽しむことにした。本格的に入塾したら多分すぐ友達を作って、その人達と帰るだろうし。

「じゃ、私こっちだから、またねっ」

大通りを倉瀬さんは左に曲がる。

「あ、うん。またね」

ぎこちない返事になってしまった。これで僕の青春は終わりかぁ。そんな事を考えていると後ろから自転車の急ブレーキ音が聞こえた。とっさに振り返ると倉瀬さんが自転車を止めて振り返っていた。

「そーだ、良い忘れてたけどさ」

春の夜風に吹かれて倉瀬さんの長い髪がサラサラとなびく。

「私、この塾入る!今決めた!だからさ、明日からも一緒にかえろーね!!」

「え?あ、うんそっか、よろしくね。」

うちの塾入るんだ、やったぁ。毎日会える時間が増えっ…最後なんて言った!?

「じゃ、おやすみぃー!」

倉瀬さんが猛スピードで自転車のペダルを漕ぐ。あっという間に見えなくなってしまった。

しばらくその場に立ち尽くした。春の夜風が吹き抜ける。

「倉瀬さんと帰れる…」

口にしてみたら思ったより恥ずかしかった。ということは、倉瀬さんとほぼ毎日ずっと一緒いれるってこと?何だこれは。夢か。

そして、もう一つ気づいたことがある。


『僕は、倉瀬さんの事が好きだ』



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僕に受験は愛せない! 袖びーむ @SodeBeam583

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