第2話:古代賢者の叡智に触れる

 翌朝、俺はこっそりと昨日見つけた書庫へと向かった。

 昨夜は村へ戻り、夕食を摂ったが、セレナやミーナがやたらと俺に絡んできて、正直少し困惑した。

 セレナは帰り際、俺の腕を掴んで甘えたような声で「今度は二人で過ごしましょうね」と囁き、頬に軽い口づけをしていった。

 ミーナはミーナで、自宅の蔵に連れ込もうとし、「ちょっとだけならいいでしょ?」と体を押し付けてきた。

 俺はなんとかごまかして自分の家に戻ったが、今になって思えば、あの甘い匂いと柔らかな肌の感触が頭から離れない。

 俺は村では特別な力もないし、ただの百姓だと思っていたが、なぜか女達が優しく、時に挑発的な視線を送ってくる。

 前世ではモテた覚えはないが、ここでは少し違うのかもしれない。

 でも俺は単純だから、その意味を深く考えず、ただ恥ずかしさと照れが先行している。



 書庫に戻った俺は、懐中ランプ代わりに小さな油灯を持ち込み、古書を一冊ずつ開いてみることにした。

 そこには何やら魔法と科学が混ざり合ったような不思議な記述があった。

 例えば、水流の力を利用して回転する歯車で何かを挽く仕組みや、魔力石を使って光を灯す簡易的な装置、さらには保存魔法で食材を腐らせない方法まで記されているようだ。

 俺は前世での知識と、ここでの生活の中で得た感覚を使って理解しようとする。


「これは……水車? 粉を挽くための道具かな? 魔力石で光を出す? なんだこれ、まるで魔法の電灯みたいだ。」


 俺は独り言を呟くと、その設計図をまじまじと見つめる。

 前世で見た発電機や水力発電、そんな仕組みを思い起こさせる記述がある。

 正直、魔法が苦手な俺には難しいが、図面を真似れば同じような装置が作れそうだ。

 もしこれが成功すれば、村の粉挽きに使えるし、夜の照明も充実させられる。


「やってみる価値はありそうだな……よし、まずは粉挽き水車から試してみるか。」


 俺はいくつかの小さめの設計図を写し取り、村へ戻ることにした。



 村へ戻る途中、林道でセレナとバッタリ出会う。

 彼女は籠を持って薬草を摘んでいるようだ。

 俺を見るとにっこり笑い、近づいてくる。


「グレン、こんなところで何してるの? 朝からどこかへ行ってたでしょ?」


 俺は動揺しないように軽く笑う。


「ちょっと山の方へ行ってたんだ。いい材木が手に入らないかと思ってね。」


「ふーん、それなら私にも声をかけてくれればいいのに。二人で行く方が楽しいわ。」


 セレナは首をかしげ、上目遣いで俺を見つめる。その仕草はあまりに可愛く、そして少しだけ艶めかしい。


「悪い、今度は誘うよ。でも今日は俺、一人で考え事したかったからさ。」


「考え事?」


 俺は少し言葉に詰まるが、嘘をつくよりは何かしら正直に話した方がいいと思った。


「村の生活をもっと良くする方法を考えてたんだ。例えば、粉を挽くのが簡単になったり、夜でも明るく過ごせる方法がないかなって。」


「それってすごくいいじゃない。グレン、やっぱりあなたは優しいわ。みんなのために考えてくれてる。」


 セレナは微笑み、俺の腕にそっと触れてくる。その指はひんやりしていて心地よい。

 俺は少し赤面しながら、彼女の髪を見つめる。

 柔らかそうな髪、首筋の白い肌、そして目が合うたびに感じる甘い緊張感。


「セ、セレナ……その、ありがとう。でも、俺はただ思いついたことを試そうとしてるだけだよ。」


「ふふっ、でも素敵。私、協力できることがあったら言ってね。」


 俺は照れながら頷く。

 セレナは俺をじっと見つめ、そのまま俺の手を引いて林の中へと誘う。

 木漏れ日が揺れる中、彼女は俺の肩に寄りかかり、甘い声で囁く。


「ねえ、グレン、ちょっとだけ二人でゆっくりしない? あなたが最近忙しそうだから……。」


 俺は驚きつつも、その誘いを断ることができない。

 セレナが俺の背中に回した腕を感じる。

 彼女は俺の胸元に顔を埋めるようにして、軽く甘えた声を漏らす。


「落ち着くなあ……グレン、あなたとこうしていると、私、すごく幸せな気分になるの。」


 俺は頬が熱くなる。前世ではこんな体験、一度もなかった。

 それに、セレナは本当に可愛くて、柔らかくて、少しだけ甘い香りがする。

 俺は自然と彼女の背中に手を回し、その体温を感じる。

 彼女は満足げな表情で、俺の耳元で囁くように言う。


「グレン、好きよ。あなたが何をしようと、私は応援するから。」


 俺はどう答えたらいいのかわからない。

 でも、そのまま黙って彼女としばらく抱き合う。

 静かな林の中、鳥のさえずりだけが響いている。

 そのうち彼女は少し弾む息を整えるように胸を上下させ、俺の頬に唇を近づける。

 チュッと、小さな音がした。

 俺はそれに驚き、思わずセレナを見つめ返す。

 彼女は顔を赤らめながら、照れたように笑う。


「ごめん、つい……でも、嫌じゃなかったでしょ?」


「い、いや、嫌じゃないけど……。」


 俺は上手く言葉が出ず、困っていると、彼女は笑みを深める。


「よかった。それじゃ、また村でね。私、薬草を持って帰らなきゃ。」


 セレナは名残惜しそうに指を俺の胸元から離し、軽い足取りで林を出ていく。

 俺はしばらくその場でぼうっと立ち尽くし、胸の鼓動を感じていた。

 なんだかよくわからないが、この村での生活は、ただ平凡な百姓の暮らしでは終わりそうにない。

 俺はもう一度、古代の書庫を思い浮かべる。

 あそこで手に入れた知識を使えば、村をもっと豊かにできる。

 そうすれば、セレナや他の女性たちももっと笑顔になってくれるだろう。

 魔法や技術の力で、俺は何を成し遂げられるのだろうか。

 それを考えると、胸が弾む。

 この世界で、俺にできることはきっとたくさんある。

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転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する 昼から山猫 @hirukarayamaneko

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