転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する
昼から山猫
第1話:素朴な百姓と転生の記憶
俺はグレン。帝国のとある辺境にある小さな農村で生まれた、ごく普通の青年だ。
畑仕事に精を出し、牛やヤギの世話をし、日々を家族や村人達と地道に過ごしている。
この世界で暮らし始めてもう十数年、前世があったことを覚えているが、別に特別な力は何も持っていない。
前世では確か、どこかの会社で働く平凡な男だったとぼんやり記憶しているが、ここでの農作業に忙しく、あまり深くは考えなくなっていた。
この村は小規模な農村で、帝国領内のどこにでもありそうな田舎だ。
それでも、俺はそれなりに満足していた。
なぜなら、村には美しい娘達が多く、特に幼なじみであるセレナはすらりとした体躯に透き通るような肌、そして丸い瞳が魅力的で、いつも俺に優しく接してくれるからだ。
朝、畑へ出るとセレナが柔らかな声で俺に話しかけてくる。
「グレン、おはよう。今日も畑仕事、頑張ろうね。」
俺はくしゃりと頭をかいて笑う。
「おはよう、セレナ。今日も暑そうだけど、頑張るよ。」
彼女は薄手の服を身にまとい、その下に隠された肢体の曲線が少しだけ透けるようで、俺はつい視線を逸らしてしまう。
セレナはそんな俺の様子を見て、くすりと笑う。
「グレン、何をそんなに照れてるの? 私とあなた、もうずっと一緒に働いてる仲じゃない。」
俺はごまかすように肩をすくめる。
「別に照れてるわけじゃないけど、セレナの方こそ今日は妙に艶っぽいっていうか、その……。」
セレナは口元に手を当て、軽く笑って腰を揺らす。そんな仕草が自然と色っぽく見えてしまう。俺は赤面しながらクワを握りしめ、黙って畑を耕し始める。
隣りでセレナがカマを振るう音と、時折俺をからかうような微笑み。なんだか気恥ずかしい。
「グレン、あなたって面白いわね。私だけじゃないわよ、村の女の子、みんなあなたのことを気にかけてるわ。気づいてないの?」
俺は土を掘り返しながら首をかしげる。
「さあ、どうかな。村には男手が少ないから、単に貴重な働き手ってだけかもな。」
「ふふっ、そんな鈍感なところがあなたらしいわ。」
セレナは微笑みつつ、湿った土の匂いの中、俺と共に農作業を進める。
俺は前世で多少テレビの農業番組なんかを見ていたせいか、この村の農法にちょっとした工夫を凝らすことがある。
例えば、耕す順番を変えたり、水路を広げたりして生産量を少しずつ増やしてきた。
おかげで最近は収穫高も上がり、村人達の生活がわずかだが豊かになっている。
もっとも、これは前世で学んだ程度の知識を応用しているだけで、魔法も剣術もからっきしダメな俺には大したことはできない。
日が高くなり、汗が額を流れ落ちるころ、セレナは作業を中断し、涼しい木陰で一休みしようと誘ってくる。
「グレン、ちょっと休もうか。喉が渇いちゃった。」
俺はクワを地面に突き立て、隣に腰を下ろす。
彼女は籠から取り出した水筒を、俺に差し出す。
「はい、飲んで。」
俺は礼を言い、彼女が差し出した水筒の口に唇をつける。その瞬間、セレナが俺の横に寄り添ってくる。彼女の甘い香りが鼻をくすぐる。
「グレン、いつもありがとう。あなたがいてくれるから、私たち、安心できるのよ。」
俺は戸惑いつつも、彼女の瞳を見つめる。
「そんな大げさな……俺はただ、畑を耕してるだけだよ。」
「ふふっ、あなたらしいね。でも、私はあなたのそういうところ、好きよ。」
セレナがさらりと告げる言葉に、心臓が跳ねそうになる。
しかし、俺はまさか好意を寄せられているとは思わず、彼女が俺をからかっている程度に考えてしまう。
そのとき、背後から別の女声が聞こえてくる。
「おやおや、セレナとグレン、畑で仲良く何をしているのかしら?」
それは隣家のミーナだ。彼女は豊満な胸元を強調するような服を着て、柔らかな笑みを浮かべている。
ミーナは少し年上で、村の中ではちょっとした才女と言われている。
彼女はよく俺に新しい料理や保存食の相談をしてきて、そのたびになぜか体をぴったり寄せてくるから、正直困惑している。
セレナは少し拗ねたような声を出す。
「ミーナ、何か用事?」
「別に、用事がないといけないの? ただグレンに声を掛けたかっただけよ。」
俺は苦笑して立ち上がる。
「ミーナ、俺に何か言いたいことがあるのか?」
「そうね、実は保存食の干し果物について質問したくて。あと、今夜は家でお酒を用意してるの。グレン、どうかしら?」
ミーナは色っぽく微笑み、俺の腕にそっと触れる。
セレナはその様子を見て、むっとした表情になる。
「グレンは忙しいのよ。ね、グレン?」
俺はどっちにどう返事したらいいのかわからず、曖昧に頷く。
「ええと、まあ、その……暇があれば行くよ。」
ミーナは満足そうに笑い、セレナは少し不満げだ。
俺は内心で冷や汗をかきながら、また畑に戻ることにした。
◇
その日の夕方、俺は山の麓で倒木処理をしていた。
薪に使える木材を集めるために斧を振っていると、木々の根元に不自然な亀裂を見つける。
苔むした岩肌に、木の扉が隠れるようにしてはまっているようだった。
手で触ってみると、微妙な力加減で扉が軋んだ音を立てて開く。
中は暗く、湿った空気が漂い、古い書物のような匂いが鼻を刺す。
俺は怖かったが、好奇心に負けて中に入る。
「……なんだ、ここは?」
声に出せば、狭い空間に反響してかすれた声となる。
薄暗いが、ここはどうやら書庫のようだ。壁には棚が並び、埃をかぶった本がずらりと並ぶ。
その背表紙には、俺が読んだこともない奇妙な文字がびっしり書かれている。
俺は震える指で、一冊を手に取る。
ページをめくると、魔法陣の図や、歯車やパイプのようなものが絡み合う不思議な設計図が描かれている。
まるで、前世で見たことのある科学図鑑や古代文明の遺物のようだ。
胸が高鳴る。
これはもしかして、凄い発見なんじゃないか?
俺はまだ何が何だか分からないが、この書庫はきっと世界を変える何かが眠っている場所なのかもしれない。
扉を背に、俺はその膨大な本の森に足を踏み入れる。
ここから何が始まるのか、俺には想像もつかなかった。
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