第5話 僕だけがいない研究室

「いったい君は、誰だね?」


 私が、久しぶりに母校の京阪大学のお茶の水教授を訪ねて行って、

「先生、お久しぶりです。2030年卒の金川です」

 と言った時、お茶の水博士は、そう言った。


「金川君だって、そんな学生がうちにいた覚えはないよ」

 お茶の水博士はそう言ったが、私が福岡県警に勤務していることを証明する警察手帳を見せて、BMIに関する私の知識知ると、

「こんなことが起こるとは・・・BIMについての警告は知っていたが、本当に起こるとはね・・・」

 とおっしゃった。


 そして、お茶の水博士は、

「これは、厄介なことになったね。彼女に手伝ってもらうしかないか」

 と言って、誰かに電話した。

 お茶の水博士が電話した相手は、「お茶研」の門下生は誰でも知っている女性、『ミセス・エメラルダス』だった。


 エメラルダス先輩が来るまでの間、私はその当時の「私の存在」を探した。


 お茶の水研究室の壁には、年末にお茶の水先生のご自宅に呼ばれて忘年会をした時の写真が飾ってある。お茶の水先生が教授になってから、二十枚くらいになったその写真のどれにも私は写っていなかった。

 

 私が卒研生だったはずの2029年の12月27日の忘年会の写真には、かくし芸まで知っている友達がずらっと並んでいた。しかし、私の記憶の中で私が写っているはずの場所には、私の知らない男が立っていた。

 すなわち、私が大学4年間一緒に過ごした「山田花子」の横には、私の知らない男が立っていたのである。


 最初は、キツネにつままれたような感じであった。


 大学の本部に見に行った2030年卒の京阪大学の卒業生アルバムにも私は写っておらず、その上、卒業者名簿には私の名前は見当たらなかった。


 私は、まるで夢を見ているようだった。

 

 警察官である私に対して、大学に保管してある卒業写真や卒業名簿まで偽造するという、こんなに大掛かりなトリックを仕掛けるとはとても思えない。


 これは、私の記憶が偽造されたものと思わざるを得なかった。


 お茶の水教授がやって下さった私のBMI検査の結果、分かったことは・・・

 私が京阪大学で過ごした青春時代は、私が体験したことではなく、すべて誰かの手によって、私の脳に書き込まれたものだった。


 その上、私の頭には、私をあやつるための電極まで埋め込まれていた。


 誰が、何のために・・・そこには、世界的な犯罪組織が関わっていたのである。

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BMI捜査官 マッシー @masayasu-kawahara

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